製造業の現場で仕事をしていると、「明日までに何とかしてほしい」「特急でお願いします!」という緊急案件が発生することってありますよね。でも、発注する側と受注する側で「特急」や「短納期」の認識がズレていることも多いんです。
そこで今回は、愛知県春日井市で金属加工を手がける有限会社榊原工機の榊原社長に、急ぎで部品加工を発注するときのコツについて詳しく聞いてみました。5軸加工機やマシニングセンター、旋盤など最新設備を駆使した短納期対応で定評のある榊原工機だからこそ語れる、リアルなノウハウをお届けします。

「特急」の認識のズレが生む問題
「短納期でお願いします」「特急でやってもらいたいんです」……。榊原工機には毎日のようにこんな相談が寄せられます。ところが、発注者と加工業者の間で「特急」の認識にズレがあることが案外多いといいます。
例えば、こんなケースがあります。「1日延ばしてもらえますか」とお願いしたら「これは納期厳守品だからキャンセルしてください」と言われたり、逆に「特急でお願いします」という見積依頼に大急ぎで回答したら、1ヶ月以上も経ってから注文が来たり……。
そこで榊原社長は「『短納期』と言われた場合、お客様にとっての短納期が1ヶ月なのか、うちにとっての短納期である『明日欲しい』なのかを確認する必要があります」と教えてくれました。
榊原工機が考える「短納期対応」--基本は「翌営業日出荷」
では、榊原工機ではどのような短納期対応を行っているのでしょうか。榊原社長に聞いてみました。
榊原工機の「大至急」「短納期」の対応は、最短1営業日、つまり翌日出荷が基本となります。「基本的に朝の9時を過ぎた後の注文は、当日の段取りが終わってしまっている関係で、当日出荷は難しくなります。翌日以降で出荷になることをご理解いただいています」ということです。
それでも「どうしても今日中に」という緊急事態が起こることもあります。そんなときは特別料金をいただいて対応することもあるそうです。「費用は一般納期のお見積よりも2~3割増しになりますが、本当に緊急事態であれば、ご理解いただけるケースがほとんどです」と榊原社長。確かに、設備の段取り替えや大急ぎでのプログラム入力、残業などで対応いただけることを考えれば、決して高い金額ではありませんね。
急ぎで部品を発注するときの3つのコツ
1. 具体的な日付で納期を伝える
「短納期で」「急ぎで」ではなく、「○月○日までに」「明日中に欲しい」など、具体的な日数や日付で伝えることが重要です。加工メーカーは、具体的なタイミングがわかってはじめて「対応可能」「対応不可」を判断することができます。 「○日までに必要です」といった具体的な表現を心がけましょう。
2. 前日夜~遅くとも朝の8時30分までに連絡する
榊原工機では毎朝8時30分~9時に当日の段取りを全て行い、機械が動き始めます。ということで、当日対応を希望する場合は、朝の8時半までに連絡するのが大前提になります。夜のうちにメールなどで連絡するのも有効ということです。
3. 図面と仕様を明確にする
急ぎの案件ほど、図面や仕様を明確にすることが大切です。後から「やっぱりここを変更したい」となると、大きな時間ロスにつながります。榊原工機では、急ぎの案件ほど「明確な図面」「注文書」をお願いしているそうです。
特に支給品の加工や焼き入れ材の加工は「やってみないとわからない」という難しい面もあるため、事前の打ち合わせが重要になります。榊原社長は「やってみないとわからない案件では、その旨をきちんとご説明しますので、お客様に『やります』と言ってもらえればすぐに受注として動きます」ということでした。逆に曖昧な状態ではリスクが高くて動けない、というお話もありましたが、もっともですね。
短納期を実現する加工技術と設備
複合加工機による工程集約
さて、榊原工機が短納期対応を実現できる理由の一つが、充実した設備と技術力です。
オークマ製の複合加工機「MULTUS(マルタス)」は、旋盤加工とマシニング加工を1台で行える最新鋭機です。従来なら旋盤→マシニングセンター→仕上げと複数工程に分かれていた加工を、ワンチャッキング(1回の固定)で完了できるため、大幅な時間短縮が可能です。
また、5軸加工機では、複雑な立体加工や斜め穴加工を高精度で行えます。治具製作の手間も省けるため、短納期対応には欠かせない設備となっています。
豊富な機械ラインナップ
榊原工機には、ベンチレースや汎用旋盤などの古い機械から、最新のNC旋盤、マシニングセンターまで幅広い設備が揃っています。「1個や2個の単品なら汎用機の方が早い」「複雑形状なら5軸加工機」といった具合に、案件に応じて柔軟に機械を選定できることが短納期対応できる強みの一つとなっています。
夜間無人運転の活用
もう一つ、時間のかかる加工は夜間運転に回すことで、実質的な納期短縮を図っています。昼間にプログラムを作成し、夜間に加工を行うことで、翌日~中1日での納品を実現しています。
具体的な短納期対応事例を紹介

こちらのアルミ部品の加工依頼では、受注当日に社内在庫の材料を切り出し、昼間にプログラムを作成。アルミは加工時間が長くかかるため、夜間加工に回して翌日の朝には完成させました。ご希望通りの翌日出荷を実現できました。

板厚2mm程度の材料に、深さ1mmほどの溝加工を施す案件でした。寸法精度と角度が重要だったため、専用治具を製作して5軸加工機で対応。ひずみが出ないよう治具で上から押さえながら加工し、翌日納品を実現しました。

市販のギアを支給いただき、タップ穴を2箇所開ける現物追加工の案件でした。焼きが入っているため、普通の焼き入れ鋼用のタップでは歯が立たず、最終的にマシニングセンターで穴加工を行い、ご希望納期で出荷しました。
「支給品、特に特殊材や焼入れ鋼の加工は『やってみないとわからない』面があります。HRC50とHRC60では加工の難易度や工具の選定も全然違いますので、事前に正確な情報を提供いただくことが大切です」

高価で納期がかかるコレットチャックについて、お客様が図面を書いて榊原工機に製作を依頼いただいたケースです。メーカー品の3分の1程度の価格で、1ヶ月かかるところを1〜2週間で製作することができました。
まとめ:名古屋エリアで頼れる加工パートナーとして
Amazonをはじめとする短納期サービスが普及したことで、最近はお客様が「すぐ作れる」「すぐ届く」と思っていらっしゃる感じもあります。しかし加工部品のようなオーダーメイド製品には、相応の時間とコストがかかり「短納期」を実現するのは案外難しいという一面もあります。
榊原工機では、5軸加工機やマシニングセンター、各種旋盤を駆使した工程集約により、お客様の「短納期」のご要望に可能な限り応えています。このような加工パートナーを見つけていただき、普段から信頼関係を築いておくことこそが「急ぎの加工を発注するコツ」と言えるでしょう。
愛知県・名古屋エリアで急ぎの部品加工をお考えの方は、ぜひ榊原工機にご相談ください。豊富な設備と経験豊富な技術者が、あなたの「困った」にお応えします。
(インタビュー・構成=ものづくりライター 新開潤子)
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