小物部品の少量生産や試作開発の世界では、単純に図面通りに部品を作るだけでは本当の課題解決はできません。お客様の期待を超える結果を出すためには、固定観念にとらわれない柔軟な発想力と、常に最適な答えを見つけ出す「クリエイティブな思考プロセス」が必要不可欠です。
愛知県春日井市にある榊原工機は、まさにこの「ものづくりをクリエイティブにする」ことを日々実践し、「少量・試作にトコトン強い会社」として多くの製造業のお客様から厚い信頼を得ています。
今回は、榊原工機がどのような考え方で難しい加工依頼にも最高のパフォーマンスで応え続けているのか、その独特で奥深い思考の根源を詳しく解説します。これから小物部品の生産や試作開発を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
「頭を旋盤のように高速回転」させる、ゼロベース思考と最適解の探求
榊原工機の思考プロセスの核心とは
榊原工機のクリエイティブな思考プロセスの中心にあるのは、「いつも頭を旋盤のように高速回転させてベストな加工法を考えています」という考え方です。これは単なる表現ではなく、具体的な問題解決のステップを表現した言葉なのです。
お客様から部品製作の依頼を受けた瞬間、榊原工機のスタッフはその依頼を「技術力を発揮できる絶好の機会」として捉えます。既存の方法や慣例にとらわれることなく、まっさらな状態から最も効率的で品質の高い方法を模索するのです。
材料選定:「角から削るか、丸から削るか」の戦略的判断
思考プロセスの第一段階は、「材料は角から削ろうか、丸から削ろうか」という材料選定です。一見すると簡単な判断のように見えますが、実はここにコスト、加工時間、材料の無駄の削減、さらには最終的な部品の強度や精度まで左右する重要な要素が詰まっています。
角材からの削り出しの場合
- 精密な四角形状や複雑な形状の部品には最適
- 複数の部品を同時に加工する「ワークアレイ」という効率的な手法が使える
- 治具(部品を固定する道具)での固定が安定しやすい
- ただし、不要な部分を削る時間と材料ロスが発生する可能性
丸棒からの加工の場合
- 円形や回転対称の部品には理想的
- 材料の無駄が少なく、旋盤加工との組み合わせで高精度を実現
- しかし、角を持つ部分が多い場合は非効率になることも
例えば、あるお客様から円筒形のケースに四角い穴を開けた複雑な部品の依頼があったとします。この場合、榊原工機では「基本形状は円筒だから丸棒を選び、旋盤で外形を仕上げた後、マシニング(フライス盤の一種)で四角い穴を開ける」という最適なルートを瞬時に判断するのです。
機械選定:設備稼働状況を考慮した「最善の組み合わせ」
次に直面するのが、「機械は5軸か複合加工機なら穴加工まで1台でできるけど、あいにく今日は2台とも埋まっている」という現実的な課題です。
5軸加工機や複合加工機(複数の加工方法を一台で行える機械)は確かに理想的です。1台で多面加工や複合加工を完結させることで、段取り替えの時間を大幅に短縮し、高精度かつ短納期を実現できるからです。
しかし、設備が常に空いているとは限りません。特に「今日中に欲しい」という特急案件の場合、待っている余裕はありません。そこで榊原工機では、「特急案件だから、すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう」というように、利用可能な設備を最大限に活用した代替案を即座に構築します。
この考え方は、単一の機械に依存するのではなく、多種多様な設備を「それぞれ特徴を持った道具」として捉え、各々の特性を熟知しているからこそ可能なのです。
工程設計:固定治具とプログラム作成の「最適なシナリオ」
材料と機械が決定したら、今度はより詳細な工程設計に移ります。「では、どの順番で削るのがベストだろうか? 固定治具は? プログラムは?」といった疑問は、まさに熟練の技術と豊富な経験が光る部分です。
加工順序の最適化 部品は一度に完成するものではありません。どの面を最初に加工し、次にどの部分を削るか。熱による変形や切削時の抵抗を考慮し、最も安定して高精度に加工できる順序を組み立てることが重要です。特に、薄い壁を持つ部品や複雑な形状では、加工順序一つで品質が大きく変わってしまいます。
固定治具の工夫 部品を機械にしっかりと固定する治具は、加工精度を保証する上で極めて重要な要素です。部品の形状、材質、加工する箇所に合わせて、最適な固定方法を考案します。時には、市販の治具では対応できないため、榊原工機が独自に専用治具を設計・製作することもあります。
NCプログラムの精密な作成 各機械を動かすNCプログラム(数値制御プログラム)は、加工の「設計図」とも言えるものです。加工順序、切削条件(回転数、送り速度、切削深さ)、工具の選択などを細かく記述します。効率的で工具への負担が少なく、不良品を出さないプログラムを組むには、深い専門知識と豊富な経験が不可欠です。
「考えて動く多能工エンジニア」が思考を現実化する力
複数の加工技術を使いこなすプロフェッショナル
榊原工機のクリエイティブな思考プロセスを机上の空論で終わらせず、実際の形にしているのが、「考えて動く多能工のエンジニア」たちです。彼らは単に指示された作業をこなすだけではなく、自分で考え、判断し、実行できる高い能力を持った技術者集団なのです。
榊原工機のエンジニアは、「旋盤、マシニング、ワイヤー加工が特に得意」とされており、複数の加工技術を高いレベルで使いこなします。この「多能工」であることが、クリエイティブな思考プロセスにおいて極めて重要な役割を果たしています。
多角的な視点からの問題解決 例えば、マシニング加工中に予想外の問題が発生したとしましょう。特定の加工技術だけに詳しいエンジニアであれば、その解決策もマシニングの範囲内でしか考えられないかもしれません。しかし、多能工のエンジニアは、ワイヤー加工や旋盤加工といった別の手段も視野に入れ、より柔軟で効果的な解決策を導き出すことができるのです。
実際の事例として、あるお客様から「薄い金属板に精密な穴を多数開けたい」という依頼があった時、最初はマシニングでの加工を検討していました。しかし、薄い材料のため変形のリスクが高いことが判明。そこで多能工のエンジニアが「ワイヤーカットなら熱の影響を最小限に抑えて高精度な穴あけができる」と提案し、最終的により良い結果を実現できたのです。
材質を問わない対応力と深い知見
「精密切削加工のプロ」として、榊原工機のエンジニアは「材質を問わず様々な加工に対応」しています。金属(ステンレス、真鍮、アルミニウムなど)から樹脂材料まで、幅広い材料の特性を熟知していることは、クリエイティブなものづくりにおいて欠かせない要素です。
材料特性に応じた加工条件の選択 材料によって硬度、熱の伝わりやすさ、粘り強さなどが大きく異なります。それぞれに最適な切削工具、切削条件(回転数、送り速度、切削深さ)、冷却液が存在するのです。多能工のエンジニアは、これらの専門知識を総動員して、材料の特性を最大限に活かしながら、同時に工具の寿命を延ばし、高精度な加工を実現します。
難加工材への果敢な挑戦 例えば、「焼入れ処理済みの硬い鋼材に追加工工を施したい」といった高難度の加工依頼にも、榊原工機では「難しいけれど、こういう方法があります」という具体的な提案で応えています。これは、深い知識と豊富な経験に裏打ちされた確かな技術力があるからこそ可能なことなのです。
工程間の連携と全体最適化
複数の機械を組み合わせて加工する場合、各工程間の連携がスムーズでなければ、品質や納期に大きな影響が出てしまいます。多能工のエンジニアは、次の工程でどのような加工が行われるかを十分に理解しているため、前工程の加工方法を最適化し、全体としての効率と品質を飛躍的に向上させることができるのです。
クリエイティブな思考を支える「柔軟な生産体制」と「環境」
バリエーション豊かな設備群が生み出す無限の可能性
榊原工機が誇る「バリエーション豊かな設備群」は、クリエイティブな加工方法を考案する上での「万能な道具箱」そのものです。この充実した設備環境が、エンジニアたちの創造的な発想を現実の形に変える重要な基盤となっています。
多機能設備の戦略的活用 5軸加工機や複合加工機は、複雑な形状の部品を一回のセッティングで多面加工できるため、加工精度を大幅に向上させ、同時に工期を短縮します。これらの最先端設備は、エンジニアのクリエイティブな発想を具現化するための強力なツールとなるのです。
精密加工への完全対応 ワイヤーカットなどの精密加工機も完備しており、髪の毛よりも細かい精度が求められる部品や、複雑な内部形状を持つ部品にも完全対応可能です。これにより、加工できる部品の範囲が大幅に広がり、より複雑で創造的な設計の部品にも積極的に挑戦できるのです。
柔軟な組み合わせによる無限の選択肢 これらの設備がバランス良く整備されていることで、たとえ特定の機械が他の仕事で使用中であっても、他の機械を巧みに組み合わせて最適な加工ルートを構築できる高い柔軟性が生まれます。これは、クリエイティブな思考が「これならできる」と判断した時に、それを確実に実現するための選択肢が豊富にあることを意味しているのです。
「工場に見えない町工場」の創造的な雰囲気
榊原工機のユニークな職場環境も、スタッフたちのクリエイティブな思考を育む重要な要素の一つです。
従来の「町工場」のイメージを完全に覆すような環境づくりを行っています。「ホームセンターとお風呂屋さんに挟まれたところにある工場に見えない町工場」という外観から始まり、「木のぬくもりと緑にあふれた『あたたかい町工場』」として、2階の事務所は「木の温もりを感じる」空間になっており、時には「黒猫のノア君もいる」というアットホームな雰囲気を大切にしています。
このような従来の工場とは一線を画す環境は、従業員にリラックスした気持ちで仕事に取り組める場を提供し、固定観念にとらわれない自由な発想や創造性を育む理想的な土壌となっています。堅苦しくない雰囲気は、新しいアイデアが生まれやすく、困難な課題に対しても多角的な視点からアプローチすることを自然に促すのです。
お客様との「共創」を促す思考とコミュニケーション
「プロに聞きました」シリーズによる積極的な情報発信
榊原工機のクリエイティブな思考プロセスは、社内だけに留まらず、お客様とのコミュニケーションを通じて「一緒により良いものを作る」共創を積極的に促しています。
ウェブサイトで展開している「プロに聞きました」シリーズでは、「急ぎで部品加工を発注するときのコツ」や「見積依頼のコツ」、「品質認識のギャップ解消法」など、お客様が実際に抱えやすい疑問や課題に対する具体的で実用的な情報を惜しみなく提供しています。これは、お客様が発注する際の不安を軽減し、よりスムーズなものづくりプロセスを築くための積極的な取り組みなのです。
相互理解の深化による品質向上 お客様が加工プロセスの実際の事情を理解することで、より具体的で実現可能性の高い依頼へと繋がり、榊原工機側もお客様の本当の意図を正確に把握しやすくなります。この相互理解の深化が、クリエイティブで実用的な解決策を共に生み出す重要な土台となっているのです。
トラブルの未然防止による安心感 「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例」や「中国調達のリアルな事情」といった情報提供は、潜在的なリスクをお客様と事前に共有し、問題を未然に防ぐための貴重な知見を提供しています。これも、最終的な製品の成功に向けたクリエイティブなアプローチの重要な一部分です。
課題解決へのコミットメントと直接的な対話
「加工で困った」「納期で困った」といった緊急事態に直面したお客様に対して、榊原工機は「機械部品加工の駆け込み寺的存在」と呼ばれるほど、その課題解決に全力でコミットしています。
「いろいろな会社に相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」と高く評価されるのは、単なる加工業者ではなく、お客様の「ものづくりの心強いパートナー」として機能している証拠です。
特に急を要する案件の場合、「社長はお話し好きなのでメールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします」という姿勢は、形式的な手続きにとらわれず、直接的な対話を通じてお客様の緊急性と具体的な要望を的確に把握しようとする、誠実でクリエイティブなアプローチを示しています。これが、迅速かつ柔軟な対応に直結し、結果としてお客様の期待を大きく上回るソリューションの提供に繋がるのです。
クリエイティブな思考が生み出す「付加価値」と「未来への展望」
自社製品「SAKAKI PUTTER」に見る技術とデザインの完全融合
榊原工機のクリエイティブな思考プロセスの集大成とも言えるのが、自社製品である高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」です。この製品は、彼らの持つ技術力と創造的な発想が見事に融合した傑作と言えるでしょう。
5軸加工技術の粋を集めた芸術品 このパターは、榊原工機が最も得意とする5軸加工技術を最大限に活用し、従来では不可能だった複雑で美しい曲面や精巧なデザインを見事に具現化しています。これは、単純に部品を加工するだけではなく、製品としての価値を最大限に引き出すためのデザイン哲学と高度な加工技術の完璧な融合を示すものです。
削り出しへのこだわりが生む品質 ステンレスや真鍮といった高品質な素材を「削り出し」で丁寧に加工することで、素材本来の質感や重厚感を最大限に活かし、抜群の精度と美しい仕上がりを同時に実現しています。これは、材料の選定から加工方法に至るまで、細部にわたるクリエイティブなこだわりを示す素晴らしい事例です。
このSAKAKI PUTTERの開発で培われた技術とノウハウは、お客様のオリジナルグッズ製作支援にも積極的に活用されており、高度な技術力とクリエイティブな発想で、様々な形でお客様独自のアイデアを具体的な形に変える手助けをしています。
ガレージブランド・個人ブランドの試作開発支援
「ガレージブランド・個人ブランド」の試作開発を全力でサポートする取り組みも、榊原工機のクリエイティブな思考が大いに発揮される重要な分野です。
大企業とは違い、アイデアは豊富でも技術的な知見や専用設備が不足しがちなこれらのお客様に対し、榊原工機は「ものづくりのプロ」として、最適な材料選定、効率的な加工法の具体的な提案、そして時にはデザイン面からの実用的なアドバイスまで幅広く行っています。
これは、お客様の頭の中にある漠然としたイメージを具体的で実現可能な形に落とし込み、様々な課題を共に解決していく「伴走型」のクリエイティブなサポートであり、全く新しい価値を生み出すための極めて重要な役割を担っているのです。
実際の例として、ある個人の発明家の方から「こんなアイデアがあるんですが、形にできますか?」という相談があった時、榊原工機では単に「できます、できません」で答えるのではなく、「こういう材料なら強度が確保できます」「この部分はこう工夫すれば製造コストを下げられます」「量産を考えるなら、この設計変更をお勧めします」といった、具体的で建設的な提案を行い、最終的にその方の製品化を成功に導いたのです。
まとめ:クリエイティブな思考が切り拓くものづくりの新しい地平
有限会社榊原工機がものづくりをクリエイティブにしている思考プロセスは、単なる最新設備の導入や技術者の技術力向上だけの成果ではありません。
「頭を旋盤のように高速回転させる」ゼロベースでの最適解探求、「考えて動く多能工のエンジニア」による柔軟で確実な具現化、それを力強く支える多様な設備とユニークで創造的な職場環境、そしてお客様との密なコミュニケーションによる「共創」の実現。これらすべてが一体となった、総合的で戦略的なアプローチなのです。
お客様からの「こんな部品、本当に作れますか?」という問いに対し、榊原工機では常に「最適な加工方法を徹底的に考え」、「最高のパフォーマンスで確実に応える」ことを追求し続けています。このクリエイティブな思考こそが、榊原工機を「少量・試作にトコトン強い会社」たらしめ、他社が躊躇するような高難度の課題にも果敢に挑戦し、そして確実に成功を収め続ける原動力となっているのです。
もしあなたが、従来のものづくりの常識を打ち破るような革新的な発想や、これまでにない高難度の部品加工に挑戦しようとしているのであれば、榊原工機のクリエイティブな思考プロセスは、きっとあなたのものづくりの可能性を大きく広げる心強いパートナーとなることでしょう。
小物部品の少量生産・試作開発でお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。私たちの「頭を旋盤のように高速回転」させる思考プロセスで、あなたの課題を解決いたします。

