試作段階でのコミュニケーションが成功を左右する理由

2025年10月29日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに

新製品の開発において、試作段階は最も重要な工程の一つです。この段階で部品の精度や機能性が決まり、量産への道筋が見えてきます。

私たち榊原工機は、愛知県春日井市で精密切削加工を行う町工場として、数多くの試作案件に携わってきました。その経験から断言できることがあります。それは、試作の成否は機械の性能や技術力だけでなく、お客様と私たちとの「対話の質」によって大きく左右されるということです。

図面通りに加工するだけなら、どの工場でもできるかもしれません。しかし、本当に良い試作品を作るためには、図面の奥にある「なぜそうしたいのか」という意図を理解することが不可欠です。

当社は「お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、クリエイティブにものづくりをしています」という信念のもと、特に手のひらサイズの小物部品の少量・試作にトコトン強い会社として知られています。

本記事では、試作段階でのコミュニケーションがなぜ重要なのか、そしてどのように対話すれば最高の試作品が生まれるのかを、具体例を交えながら詳しくお伝えします。

技術的な認識のズレを防ぐ対話の重要性

図面だけでは伝わらない「本当に必要な精度」

試作段階で最も多いトラブルが、「品質認識のギャップ」です。設計者が求める理想的な公差と、加工現場で現実的に実現可能な公差の間にズレが生じると、手戻りやコスト超過につながります。

例えば、図面に「±0.01mm」と書かれていたとします。私たちはその精度で加工できますが、実はここに落とし穴があります。その精度は本当にすべての部位で必要なのでしょうか。

実際にあったケースをご紹介します。ある製品の試作で、すべての寸法に厳しい公差が指定されていました。しかし、お客様と対話を重ねる中で、「実は重要なのはこの嵌合部分だけで、他の部分は見た目が整っていればよい」ということがわかりました。

この情報があれば、本当に必要な部位だけに集中して高精度加工を行い、他の部分は効率的に加工することができます。結果として、コストを抑えながら納期も短縮でき、お客様にとって最適な試作品を提供できるのです。

複雑な形状こそ対話が必要

当社が得意とする複雑な形状の部品加工では、5軸加工機や複合加工機、ワイヤーカット加工など、複数の技術を組み合わせることがあります。

こうした加工では、3Dデータを提供していただくことで加工精度が大幅に向上します。しかし、それだけでは不十分です。「この曲面が特に難しい」「この角度が製品の性能に直結する」といった具体的な情報を共有していただくことで、私たちの多能工エンジニアは頭を旋盤のように高速回転させて、最適な加工方法を迅速に設計できるのです。

材質選定も同様です。当社は金属も樹脂も幅広く対応していますが、焼入れ鋼への追加工のように難易度の高い材質を選ぶ理由を教えていただければ、私たちの経験から代替案を提案できることもあります。

試作精度が量産品質の基準になる

試作段階での品質は、量産時の基準となります。だからこそ、試作の段階で妥協は許されません。

当社では自社製品として「SAKAKI PUTTER」というゴルフパターを削り出しで製造しています。これは私たちの技術力を証明する製品であり、均質な密度と設計通りの精度を実現しています。

お客様の試作品でも、このレベルの品質を実現することで、量産時の品質が不安定になるリスクを排除できます。試作の段階で「このレベルで良い」という基準を明確に共有することが、成功への第一歩です。

納期厳守のための迅速なコミュニケーション術

緊急時には電話が最速の解決策

試作開発では、タイトな納期が求められることが少なくありません。特急案件の場合、メールでのやり取りは大きなタイムロスになります。

当社では、お急ぎの案件については電話でのご相談を強くお勧めしています。実は、私たちの社長はお話し好きなので、メールで返信を待つよりも、直接電話で事情を説明していただいた方が圧倒的に早く対応できるのです。

電話での対話には大きなメリットがあります。緊急性や背景、複雑な状況を直接共有できるため、私たちのエンジニアが即座に工程の組み替えを判断できます。例えば、5軸加工機や複合加工機が埋まっていても、「すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう」といった代替案を瞬時に提示できるのです。

実際のエピソードをご紹介します。ある日の夕方、お客様から「明後日までにどうしても必要」という電話がありました。通常なら1週間かかる案件でしたが、電話でのやり取りの中で「ここの精度は若干緩めても問題ない」という情報を得られたため、工程を組み直して納期に間に合わせることができました。

メールでは往復に時間がかかり、このような柔軟な対応は難しかったでしょう。

トラブルを未然に防ぐリスク共有

試作段階では、予期せぬトラブルが発生することがあります。マシニングや旋盤、5軸加工機での加工には、それぞれ固有のリスクがあるのです。

当社では、これまでのトラブル事例を社内で共有し、同じミスを繰り返さないようにしています。お客様との対話の中で、「この形状は過去に熱変位のリスクがありましたが、治具設計でどう対応されますか」といった質問をさせていただくことがあります。

これは決して不安を煽るためではありません。私たちの経験知を共有することで、不良品の発生や納期遅延を未然に防ぐためです。

海外調達と比較すると、国内での試作には大きなアドバンテージがあります。海外では品質認識のギャップが原因で不良品や納期遅延が頻発しがちです。当社のような一社で解決できる総合力を持つ業者に依頼することで、コミュニケーションロスによるリスクを回避できます。

言葉の壁がなく、必要なときにすぐ相談できる。これは試作段階では非常に重要な要素です。

信頼関係が生み出す創造的な試作

一社完結だからできる密なコミュニケーション

試作品の品質管理は複雑になりがちですが、当社のような一社完結体制には大きなメリットがあります。

「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」とお客様から評価いただけるのは、旋盤、マシニング、ワイヤー加工など多岐にわたる技術を社内で連携させているからです。

複数の業者に分けて発注すると、それぞれとコミュニケーションを取る必要があり、工程間で品質認識のズレが生じるリスクが高まります。当社に一本化していただければ、窓口が一つで済み、全体を見渡した最適な提案ができるのです。

見積もりの段階から、コストの内訳を透明にお伝えしています。材料費、加工費、段取り費がどのように計算されるか。特に少量・試作では段取り費の割合が高くなることをご理解いただくことで、品質とコストの関連性が明確になります。

この透明性が、お客様との信頼関係を築く基盤となっています。

あたたかい町工場だからこそ生まれるアイデア

当社は「工場っぽくない外観が自慢」の町工場です。2階には木の温もりを感じる事務所があり、リラックスした雰囲気の中で打ち合わせができます。

この「あたたかい町工場」という環境が、お客様との創造的な対話を促進します。ガレージブランドや個人ブランドの方が、ユニークなアイデアを率直に共有してくださることも多いのです。

試作は、技術的な壁に直面することがあります。しかし、お客様のアイデアを深く理解した私たちは、「クリエイティブにものづくりをする」姿勢で、その壁を乗り越えるための予期せぬ解決策を提案できることがあります。

例えば、ある製品の試作で、設計通りに加工すると強度が不足する可能性がありました。お客様と対話を重ねる中で、デザイン意図を損なわずに構造を変更する案を提案し、より良い試作品が完成したケースもあります。

こうした創造的な対話は、単なる加工業者と発注者という関係を超えた、共同開発のパートナーシップから生まれます。

メールと電話の戦略的な使い分け

試作段階のコミュニケーションを成功させるには、状況に応じてメールと電話を適切に使い分けることが重要です。

電話が効果的な場面

納期がタイトな特急案件では、迷わず電話を選んでください。私たちの社長がお話し好きという特性を活かして、エンジニアの頭を旋盤のように高速回転させ、迅速な工程組み替えを実現します。

試作後にトラブルが発生した場合も、まず電話でご相談ください。過去のトラブル事例を参照しながら、原因究明と対策を迅速に議論できます。その後、経緯をメールで記録として残すことで、次回以降の参考にもなります。

メールが適している場面

技術的な詳細情報を伝える際は、メールが適しています。図面、3Dデータ、公差、材質といった正確な情報を記録として残すことで、5軸加工機などのプログラム作成の基礎となります。

初回の見積もり依頼も、まずはメールで図面をお送りいただくのが効率的です。その後、電話でロット数や公差の意図を確認することで、より正確な見積もりを提供できます。

不良品に関するコミュニケーション

試作段階で不良品が発生することもあります。当社では、品質基準を満たさない部品は厳格に「捨てる」という判断をしています。

この事実をお客様とオープンに共有することが重要です。なぜ不良品となったのか、機械のトラブルなのか設計の無理なのか。こうした議論を通じて、次の試作や量産への品質フィードバックを正確に行うことができるのです。

不良品を隠すのではなく、共有する。この透明性が、長期的な信頼関係を築きます。

私たちが大切にしているコミュニケーションの原則

これまでの経験から、試作を成功させるためのコミュニケーション原則をまとめました。

公差の「なぜ」を共有する

図面に書かれた公差の背景には、必ず理由があります。「なぜその精度が必要なのか」「この部位は後工程でどう使われるのか」といった機能的な意図を共有していただくことで、品質認識のギャップを事前に解消できます。

無駄に全ての工程を高精度にするのではなく、本当に必要な部位に集中することで、コストと納期の最適化につながります。

緊急時は即座に電話する

特急案件では、メールの往復を待っている時間はありません。私たちのプロの「高速回転する頭脳」を即座に起動させるために、迷わず電話でご連絡ください。

臨機応変な対応ができるのは、直接対話があってこそです。

技術情報はメールで記録する

口頭での合意も大切ですが、技術的な情報はメールで正確に記録することで、後から見返せる資料となります。これが信頼性を担保し、量産への移行をスムーズにします。

熱意と創造性を共有する

試作は単なる加工ではありません。お客様の製品への熱意や創造性を共有していただくことで、私たちも「クリエイティブにものづくり」をする原動力を得られます。

あたたかい町工場の環境を活用して、ぜひ率直な対話をしてください。

まとめ:対話が試作の成否を決める

試作段階でのコミュニケーションは、単なる情報伝達ではありません。私たち榊原工機の専門性、経験、そして信頼性を最大限に引き出し、お客様のクリエイティブなものづくりを成功させるための「共同作業」です。

良い試作品は、良い対話から生まれます。図面の奥にある意図を理解し、お互いの専門性を尊重し、透明性を持って議論する。こうしたコミュニケーションによって、納期通り、かつ最高精度の試作品が実現されます。

そして、その試作品は量産の成功へとつながる揺るぎない礎となるのです。

私たちは、高精度な試作開発や部品加工に関するご相談をいつでも歓迎しています。特にお急ぎの場合は、経験豊富な私たちとの電話での相談が特におすすめです。

所在地は、愛知県春日井市松河戸町2-5-15です。電話番号は0568-36-1628、受付時間は9:00から17:00まで(12:00から13:00を除く)となっています。土日祝日はお休みをいただいています。

試作でお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。一緒に最高の試作品を作り上げましょう。