榊原工機の「考える力」が生み出す最適な加工プロセス|多能工エンジニアの思考法を大公開

2025年11月14日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:町工場に求められる「考える力」とは

有限会社榊原工機は、愛知県春日井市に拠点を置く精密切削加工の専門企業です。「あたたかい町工場」という親しみやすさを持ちながら、実は「機械部品加工の駆け込み寺」として多くのお客様から頼られる存在となっています。

なぜ、私たちが高い評価をいただけるのか。それは最新設備を持っているからではありません。お客様のご依頼に対して、常にベストな方法で応えるために、私たちは「考えるものづくり」を実践しているからです。

私たちが得意とするのは、手のひらサイズを中心とした小物部品の少量生産や試作品の製作です。この分野では、一つとして同じ課題がありません。毎回、新しい難題が持ち込まれる「技術の最前線」なのです。

本記事では、榊原工機のエンジニアたちが、どのようにして難しい課題に対し、瞬時に最適な加工方法を見つけ出しているのか、その思考プロセスを詳しく解説します。私たちの専門性、経験、そして信頼性がどのように築かれているのかをご理解いただければ幸いです。

思考を支える基盤:多能工と多彩な設備群

「考えて動く」多能工エンジニアの強み

榊原工機の大きな特徴は、「考えて動く多能工のエンジニア」と「バリエーション豊かな設備群」によって、柔軟な小ロット生産を実現していることです。

多能工とは、特定の機械だけでなく、旋盤加工、マシニング加工、ワイヤーカット加工など、複数の加工技術を高度に習得した人材のことです。簡単に言えば、「何でもできる職人」といったイメージでしょうか。

一般的な工場では、オペレーターは特定の機械に専従します。旋盤専門、マシニング専門というように分業されているのが普通です。部品は決められた順序で各工程を流れていきます。

しかし、少量生産や試作の現場では状況が違います。その都度、最適な加工方法をゼロから考えなければなりません。同じ部品が二度と来ないかもしれないからです。

このとき、多能工のエンジニアは、まるでオーケストラの指揮者のように、手持ちの設備の能力と稼働状況、そして部品の特性を瞬時に把握します。そして、最も効率的で高品質な工程を組み立てるのです。この判断力こそが、私たちの専門性の核心です。

思考の選択肢を広げる多様な設備

エンジニアの思考プロセスの幅は、保有する設備の幅に直結します。榊原工機では、最新技術から汎用技術まで、多様な加工ニーズに応える設備を揃えています。

5軸加工機は、複雑な立体形状の削り出しや多面加工を可能にし、工程を集約できます。複合加工機は、旋削と切削を1台でこなせる高効率な機械です。NC旋盤は、主に円筒形状の加工を行い、高精度な回転体の製作に使われます。

マシニングセンタは、フライス加工や穴加工など、立体的な加工が得意です。ワイヤーカットは、焼入れ鋼への追加工など、硬い材料や精密加工の切り札となります。

これらの設備があるからこそ、エンジニアは「5軸加工機なら穴加工まで1台でできるけど、今日は埋まっているな」というように、理想的な方法と現実的な代替案の両方を同時に検討できるのです。頭の中で高速に思考を巡らせ、最良の答えを導き出します。

瞬時に最適解を導く思考プロセスの実際

ステップ1:材料と形状から工程を設計する

では、具体的にどのような手順で、ベストな加工方法が生まれるのでしょうか。それは、お客様から「こんな部品を作ってほしい」という依頼があった瞬間に始まります。

まず考えるのは「何を、どうやって保持するか」です。

例えば、材料選びから始まります。「材料は角材から削ろうか、丸材から削ろうか」と考えます。小物部品の場合、材料費や加工ロス、そして加工のしやすさが、角材と丸材のどちらを選ぶかで大きく変わるのです。

角材ならマシニング加工がしやすく、丸材なら旋盤加工がしやすい。この初期判断が、その後の工程を旋削中心にするか、切削中心にするかを決定づけます。

次に、理想的な設備を確認します。「機械は5軸加工機か複合加工機なら、穴加工まで1台でできるけど、あいにく今日は2台とも埋まっている」。こんな状況は日常茶飯事です。

ここが、多能工の真価が問われる瞬間です。理想の方法が使えないと分かった瞬間、思考はすぐに現実的な代替案の構築へと切り替わります。この「もしも」の状況を瞬時に認識し、別の手段に切り替えるスピード感が、まさに「頭が高速回転している」状態なのです。

ステップ2:制約の中でベストな方法を再構築する

真のベストパフォーマンスとは、理想論ではありません。制約された状況下で、最高の品質とスピードを両立させることです。特に特急案件では、この再構築能力が、「駆け込み寺」としての評価に直結します。

「特急案件だから、すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう。では、どの順番で削るのがベストだろうか」。エンジニアの頭の中では、このような思考が駆け巡ります。

ここで重要となるのが、複数の工程をまたぐ際の加工精度の維持です。

まず旋盤加工で、基準となる面や軸径を正確に出します。これが次の工程での基準面、つまり治具で固定する位置になります。次にマシニング加工で、旋盤で作った基準面を基に、穴あけや側面加工を行います。

この二つの工程を連携させる際、熱による歪みや、機械間のわずかな座標系の誤差を考慮に入れなければなりません。どの段階で公差を厳しく設定するか、細かな判断が求められます。

このように、旋盤とマシニングという異なる特性を持つ機械を、納期というプレッシャーの中で完璧に協調させる工程設計こそが、私たちの経験の証明です。お客様の「困った」を解決するために、日々こうした思考を重ねています。

ステップ3:精度を保証する細部の設計

最後に、加工の成否を握る詳細な準備に移ります。

まず考えるのが「固定治具はどうするか」です。小物部品や薄い部品は、切削の力でたわみやすいため、いかに部品を歪ませずに、かつ強固に保持するかが課題となります。

例えば、私たちが開発した自社製品「SAKAKI PUTTER」のような複雑な削り出し製品を作る過程で得られた固定治具の設計ノウハウは、お客様の試作部品にも応用されます。治具の設計自体が、加工方法の重要な一部であり、高度な発想が求められる工程なのです。

次に「プログラムはどうするか」を考えます。最適な工具の経路、送り速度、回転数を設定する加工プログラムの構築は、ベストパフォーマンスを物理的に実現するための設計図です。

特に焼入れ鋼のような難しい材料への追加工を行う場合は、使用する工具、例えばCBN工具などの特性を最大限に引き出すためのプログラムが不可欠です。この段階まで来て、ようやく実際の加工に入れるのです。

お客様との信頼関係を築く思考の力

「1社で解決できる」という評価の理由

私たちのエンジニアの思考プロセスは、単に効率を追求するだけではありません。お客様との信頼関係を築き、ベストパフォーマンスという結果に結びついています。

お客様からは「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」という評価をいただいています。これは、私たちの思考プロセスが常にお客様の課題解決に焦点を当てていることの証明です。

この「1社で解決できる」力は、次のような要素によって実現されています。

まず、多様な材質への対応力です。金属も樹脂も相談に応じることができ、材質に応じて加工方法を柔軟に調整できる専門性があります。

次に、多工程の統合力です。旋盤、マシニング、ワイヤー加工といった異なる工程を、多能工が自社内で一貫して管理できる経験があります。

外注に出すと時間もコストもかかりますが、社内で完結できれば、お客様の負担を大幅に減らせます。これが「駆け込み寺」として頼られる理由なのです。

迅速な意思決定が可能な理由

特急案件におけるベストパフォーマンスは、技術力だけでなく、意思決定のスピードにかかっています。

私たちは、急ぎで部品加工を発注するときのコツも公開しています。迅速な対応を何より重要視しているからです。

もしお急ぎの場合は、「社長はお話し好きなので、メールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします」とお伝えしています。

これは、技術のプロ同士が直接コミュニケーションをとることで、瞬時に問題の本質と制約条件、例えば「今日は設備が埋まっている」といった状況を共有できるからです。そして、即座に解決策を打ち出すための、最も効率的な体制を整えられます。

電話一本で状況が変わることもあります。お客様の困りごとを一緒に解決するために、私たちは常にコミュニケーションを大切にしています。

業界からの評価と透明性の追求

私たちの思考プロセスが作り出すベストパフォーマンスは、外部からも評価されています。月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されたという事実は、私たちの加工方法や技術的な知見が、業界のプロフェッショナルによって認められている証拠です。

また、私たちは「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例をこっそり公開」することで、成功事例だけでなく、失敗から学ぶ姿勢も示しています。

完璧な加工など存在しません。私たちも時には失敗します。しかし、その失敗から学び、常にベストな加工方法を更新し続ける謙虚で透明な姿勢こそが、お客様との信頼関係を強固にしているのです。

問題が起きたときに隠すのではなく、オープンに共有する。この姿勢が、長期的な信頼につながると私たちは信じています。

結論:考える力が未来の製造業を支える

榊原工機における加工技術は、単なる切削作業に留まりません。それは、多能工のエンジニアが複雑な制約条件、納期、設備状況、材質などを考慮しながら、常に最高の品質と効率を両立させるベストな加工方法を導き出すための思考エンジンの象徴です。

私たちは、この思考プロセスと、バリエーション豊かな設備群、そして「あたたかい町工場」という環境をもって、「機械部品加工の駆け込み寺」としての信頼性を維持し続けています。

小物部品の少量生産や試作という課題は尽きません。毎日、新しい難題が持ち込まれます。しかし、それこそが私たちのやりがいであり、成長の源なのです。

お客様の「困った」を「できた」に変えるために、私たちは日々考え続けています。頭を高速回転させ、最良の答えを探し続けています。

もし、加工に困ったこと、納期に困ったことがあれば、ぜひ榊原工機にご相談ください。私たちの「考える力」が、きっとお役に立てるはずです。

そして、この刺激的な環境で、あなたの技術と思考力を活かしてみたいという方がいらっしゃれば、私たちは常に新たな仲間を求めています。一緒に「考えるものづくり」を実践していきましょう。