はじめに:回転する素材から生まれる精密部品
私たち榊原工機は、愛知県に拠点を置く小さな町工場です。しかし、「機械部品加工の駆け込み寺」として多くのお客様から信頼をいただいています。
その理由の一つが、旋盤加工という伝統的でありながら奥深い技術を、現代の最新設備と熟練の技で使いこなしていることです。
旋盤加工とは、素材を高速で回転させながら、固定した切削工具を当てて削り出す加工方法です。円筒形状や複雑な回転体を作り出すこの技術は、手のひらサイズの小物部品製造において欠かせません。
今回は、旋盤加工の基礎から応用技術、そして私たちがどのようにこの技術を活用しているのかを詳しくご紹介します。
旋盤加工の基本:円筒形状はこうして生まれる
旋盤加工の仕組みを知る
旋盤加工は、材料をチャックと呼ばれる固定具でしっかりと掴み、高速回転させることから始まります。回転している材料に対して、バイトという切削工具を送り込むことで、外周や内側を削り取っていきます。
この加工方法で実現できる作業は実に多彩です。
外径旋削では、材料の外側を削って円筒面を作ります。例えば、太い丸棒から細いシャフトを削り出す作業がこれにあたります。
内径旋削は、穴の内側を削る加工です。既にある穴を広げたり、内面を滑らかに仕上げたりします。精密なベアリングの収まる穴などを作る際に使われます。
端面旋削では、部品の端面を平らに削ります。これにより正確な長さに仕上げることができます。
溝入れや突切りという作業もあります。溝入れは部品に溝を彫る加工、突切りは完成した部品を材料から切り離す作業です。
ねじ切りでは、ボルトやナットのねじ山を切ることができます。
私たちはこの旋盤加工を、マシニングやワイヤー加工と並んで特に得意としています。精密切削加工のプロとして、日々研鑽を積んでいる分野です。
NC旋盤がもたらす精度の世界
現代の旋盤加工は、NC旋盤という数値制御された機械が主流です。
NC旋盤では、工具の動きをプログラムで精密に制御します。人間が手動で操作する従来の汎用旋盤と比べて、圧倒的に高い精度で複雑な形状を安定して作り出せます。
例えば、複数の太さが変わる段付きシャフトや、曲面を持つ回転部品なども、プログラム通りに正確に加工できるのです。
私たちが保有する複合加工機は、さらに進化した設備です。旋盤加工の機能に加えて、マシニング加工の機能も統合されています。
具体的には、円筒状の部品に側面から穴を開けたり、キー溝という特殊な溝を加工したりする必要がある場合、複合加工機なら1台で全ての工程を完結できます。
これには大きなメリットがあります。部品を一度も取り外すことなく加工できるため、位置ズレのリスクがゼロになります。結果として加工精度が向上し、納期も大幅に短縮できるのです。
ローレット加工:機能性を高める応用技術
ローレット加工とは何か
旋盤加工には、ローレット加工という応用技術があります。
これは部品の外周に、細かい凹凸のパターンを作る加工です。よく見かけるのは、ペンのグリップ部分やねじの頭などです。
ローレット加工は見た目の装飾だけではなく、重要な機能を持っています。
一つ目は滑り止め効果です。手で回すノブやグリップに施すことで、指が滑りにくくなり操作性が格段に向上します。
二つ目は圧入時の固定力向上です。ある部品を別の部品に押し込んで固定する際、ローレットを施すことで両者の結合力が強まります。
ローレット加工は、材料を削り取るのではなく、専用の工具で押し付けて塑性変形させることで模様を作ります。この技術も、円筒形状の機能性を高める上で欠かせない技術の一つです。
多能工が生み出す創造的な加工方法
頭を高速回転させる工程設計
私たちのエンジニアは、よく「頭を旋盤のように高速回転させて加工法を考える」と表現します。
お客様から小物部品の試作依頼をいただいたとき、まず材料の選択から検討が始まります。
「この円筒部品、角材から削るか、それとも丸材から削るか」
一見すると円筒部品なら丸材が当然のように思えますが、実は違います。マシニング加工との組み合わせを考えると、角材からスタートした方が効率的な場合もあるのです。
この最初の判断が、その後の固定治具の設計や、複数の機械をどう連携させるかを決定づけます。
特急案件では、さらに柔軟な思考が求められます。
理想的には5軸加工機や複合加工機で一気に仕上げたいところですが、「あいにく今日は2台とも埋まっている」という状況は現実に起こります。
そんなとき、私たちは瞬時に方針を切り替えます。
「すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう。では、どの順番で削るのがベストだろうか」
この判断と実行ができるのは、複数の機械を使いこなせる多能工だからこそです。
複数の技術を組み合わせて難題を解決する
旋盤加工は通常、比較的柔らかい材料に対して行われます。しかし、焼入れ鋼のような非常に硬い材質でも、追加工が必要になることがあります。
普通の旋削工具では歯が立ちません。そこで私たちの経験と設備の多様性が活きてきます。
一つの方法は、CBN工具という超硬質の工具を使ったハードターニングです。硬い材料でも削ることができます。
もう一つは、ワイヤーカット加工との連携です。
まず旋盤で基本的な円筒形状を作り、その後熱処理で硬くします。硬くなった材料には、ワイヤーカット加工機を使います。この機械は電気の力で材料を溶かしながら切断するため、力を加えずに高精度な追加工ができるのです。
旋盤、マシニング、ワイヤー加工という複数の技術を統合的に使いこなせることが、材質を問わず様々な加工に対応できる理由です。
自社製品開発で磨かれる技術力
私たちは「SAKAKI PUTTER」という高級ゴルフパターを自社製品として開発しています。
このパター開発で蓄積された技術が、お客様の部品加工にもフィードバックされています。
パターのシャフト部分や、ヘッドを作る初期工程には旋削技術が応用されています。ステンレスや真鍮の塊から削り出すこの製品は、5軸加工技術と高精度な旋盤加工の組み合わせで生まれます。
自社で厳しい品質基準を設けた製品を作ることで、様々なトラブルを経験し、それを乗り越えるノウハウを蓄積できました。この経験が、お客様の試作品製造における品質向上に役立っているのです。
駆け込み寺として信頼される理由
高精度を保証する技術力
手のひらサイズの小物部品では、わずかな誤差が致命的になります。
旋盤加工で高精度な円筒形状を実現するために、私たちは様々な対策を講じています。
まず熱対策です。高速回転によって発生する熱で材料が膨張します。この膨張を考慮した切削条件を設定しなければ、冷えた後に寸法が狂ってしまいます。
次に振動対策です。細長い円筒形状を加工する際、振動が発生しやすくなります。これを「びびり」と呼びます。びびりを防ぐために、心押し台という補助具を使ったり、適切な固定治具を選んだりします。
そして多能工による品質保証です。旋盤加工後の部品を次の工程にスムーズに渡すために、基準面を正確に仕上げる技術が求められます。
これらの基礎的な品質管理の積み重ねが、精密切削加工のプロとしての信頼につながっています。
迅速な対応とコミュニケーション
特急案件では、スピードが命です。
私たちは「急ぎで部品加工を発注するときのコツ」という情報も公開しており、お客様との円滑なやり取りを心がけています。
「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」
こう評価していただけるのは、旋盤とマシニングを瞬時に組み合わせて工程を再設計できる柔軟性があるからです。
また、当社の社長はお話し好きです。メールで返信を待つより、電話で直接事情を説明していただいた方が、より早く最適な解決策をご提案できます。
この人間味あふれる迅速な対応も、信頼していただける理由の一つだと考えています。
あたたかい町工場という環境
技術的に難度の高い加工を日々行っていますが、私たちの工場は「木のぬくもりと緑にあふれたあたたかい町工場」です。
工場っぽくない外観が自慢で、1階で金属を加工し、2階は木の温もりを感じる事務所という構造になっています。
このユニークな環境が、お客様が技術的な相談や、円筒形状の設計に関する創造的なアイデアを伝えやすい雰囲気を作っています。
堅苦しくない、相談しやすい町工場として、今後もお客様に寄り添っていきたいと考えています。
おわりに:回転する思考が生み出す価値
旋盤加工は、円筒形状を実現するための基本技術です。
しかし単なる基本ではありません。ローレット加工や複合加工機との連携、ワイヤーカットとの組み合わせといった応用によって、複雑な小物部品の少量試作を可能にする技術なのです。
旋盤が素材を回転させるように、私たちのエンジニアも常に頭を高速回転させています。
限られた条件の中で最高のパフォーマンスを発揮する創造的な加工方法を追求し続けることが、私たちの使命です。
この専門性と、難題を1社で解決できる経験、そしてお客様からの信頼が、榊原工機を「機械部品加工の駆け込み寺」たらしめています。
旋盤加工を必要とする部品、複雑な円筒形状の試作でお困りの際は、ぜひ精密切削加工のプロである私たちにご相談ください。
あたたかい町工場で、お客様のものづくりをしっかりとサポートいたします。

