はじめに:表面処理が部品の寿命を決める
愛知県春日井市に拠点を置く有限会社榊原工機は、「あたたかい町工場」として、お客様の機械部品加工における様々な課題を解決してきました。多くのお客様から「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」とおっしゃっていただけるのは、私たちが切削加工だけでなく、その後の表面処理まで一貫して対応できる体制を整えているからです。
手のひらサイズを中心とした小物部品の製造において、旋盤やマシニング、5軸加工機を使った高精度な切削・旋削加工はもちろん重要です。しかし、部品が製品として長期間にわたって本来の性能を発揮し続けるためには、最後の仕上げとなる「表面処理」が欠かせません。
今回は、表面処理の中でも特にサビ防止や強度向上といった機能面で重要な役割を果たす「ブラスト加工」について、私たち精密切削加工のプロフェッショナルの視点から詳しく解説します。お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、榊原工機はクリエイティブにものづくりをしています。このクリエイティブな姿勢は、切削技術と表面処理技術の連携を最適化する多能工のエンジニアたちの思考プロセスに支えられているのです。
ブラスト加工とは何か:基本原理と役割
ブラスト加工とは、空気や水流などを使って微細な粒子を部品の表面に高速で吹き付け、物理的に表面を改質する表面処理技術です。この技術は単なる見た目の仕上げだけでなく、部品に重要な機能を付与することができます。
表面のクリーニングと下地処理
切削加工を終えた部品の表面には、スケールと呼ばれる酸化被膜や切削油の残渣、場合によってはサビなどが付着していることがあります。ブラスト加工は、これらの不純物を強力に除去し、きれいな金属面を露出させます。
この工程は、その後に行う塗装やメッキ、アルマイト加工などの表面処理の密着性を高めるための重要な下地処理となります。下地がしっかりしていなければ、どんなに良い塗装やメッキを施しても、すぐに剥がれてしまう恐れがあるのです。
意匠性の向上と均一な仕上げ
ブラスト加工のもう一つの重要な役割が、外観の美しさを整えることです。切削加工後の部品には、細かい切削痕や微細な加工ムラが残っていることがあります。ブラスト加工を施すことで、これらの痕跡を消し、光沢を抑えたマットな質感や、均一な梨地仕上げを実現できます。
たとえば、当社のオリジナルグッズである「SAKAKI PUTTER」は、5軸加工技術を駆使した削り出し製品です。ステンレスや真鍮のパターヘッドにブラスト加工を施すことで、反射を抑えた高級感のあるマット仕上げを実現し、光の乱反射を防いでいます。このように、ブラスト加工は機能性と意匠性の両立を可能にする技術なのです。
ブラスト加工がもたらす強度向上のメカニズム
ブラスト加工の最も重要な機能の一つが、部品の強度を向上させることです。これは「ショットピーニング」と呼ばれる技術で、サビ防止にも間接的に寄与します。
残留圧縮応力による強度アップ
微細なメディア(投射材)を高速で部品表面に吹き付けると、表面に小さな凹みが無数に形成されます。この衝撃により、表面層がわずかに塑性変形し、内部に向かって「圧縮応力」が残留するのです。
金属部品の疲労破壊や亀裂の発生は、表面の「引張応力」が原因となることが多いのですが、ブラスト加工によって残留圧縮応力を付与することで、外部からの引張応力を打ち消すことができます。その結果、部品の強度と耐久性、特に疲労寿命を大幅に向上させることが可能になります。
アスリートの筋力トレーニングに例えると
ブラスト加工を分かりやすく例えるなら、アスリートの肉体に施すタフなトレーニングのようなものです。切削加工で骨格や筋肉、つまり部品の形状と高精度を作り上げた後、ブラスト加工は部品の表面に無数の微細な負荷を与えることで、表面層の構造を強化します。これにより、外部からのストレス、つまり疲労応力に対する耐性が高まるのです。
この表面処理によって、部品はサビや破損に負けない機能を獲得し、過酷な環境下でもベストパフォーマンスを発揮できるようになります。
ブラスト加工によるサビ防止効果
ブラスト加工は、サビ防止にも直接的・間接的な効果を発揮します。
直接的なクリーニング効果
ブラスト加工は、既存のサビや汚染物質を強力に除去します。表面処理を行う前に、サビの起点となる因子を取り除くことで、その後の防錆処理の効果を最大化できるのです。
コーティングの密着性向上
ブラスト加工によって表面が適度に粗面化されると、その後の防錆処理である塗装やメッキなどの足付け効果が最大化されます。これにより、コーティング層が強固に密着し、水分や腐食性物質の侵入を防ぎます。
例えば、海沿いの工場で使用される部品や、湿気の多い環境で稼働する機械部品などは、サビとの戦いが常に課題となります。こうした部品にブラスト加工を施し、その後に適切な防錆処理を行うことで、長期的なサビ防止機能を保証できるのです。
メディアの種類と使い分け
ブラスト加工の機能や仕上がりは、使用する投射材であるメディアの種類によって大きく変わります。私たちは、お客様の小物部品の材質や要求される機能に応じて、最適なメディアとブラスト加工法を提案しています。
ガラスビーズ
ガラスビーズは比較的柔らかいメディアで、主に意匠性の仕上げや切削後のバリ取り、軽いクリーニングに使用されます。繊細な部品や、あまり強い衝撃を加えたくない場合に適しています。
スチールショットとグリット
スチールショットやグリットは非常に硬いメディアで、主に強度向上であるピーニングや、硬いスケールの除去に使用されます。強度を大幅に向上させたい場合や、頑固な汚れを除去したい場合に効果を発揮します。
アルミナ
アルミナ、つまり酸化アルミニウムは、高精度な部品のクリーニングや強力な足付けに使用されます。塗装やメッキの下地処理として、優れた密着性を実現できます。
このように、メディアの選択は仕上がりに大きく影響するため、私たち多能工のエンジニアは、お客様の要望を丁寧にヒアリングし、最適な選択を行っています。
切削加工とブラスト加工の連携
ブラスト加工で最高の機能を引き出すためには、前工程である切削加工との連携が極めて重要です。私たち榊原工機の多能工エンジニアは、「頭を旋盤のように高速回転させてベストな加工法を考えています」という思考プロセスの中で、ブラスト加工の要否と工程位置の判断を組み込んでいます。
寸法精度の事前調整
ブラスト加工は表面を改質するため、加工精度をわずかに変動させる可能性があります。そのため、多能工のエンジニアは、ブラスト加工後の寸法変化を見越して、切削・旋削工程で事前に寸法を調整するクリエイティブな設計を行います。
リーマ加工やザグリ加工など、高精度な寸法が要求される箇所については、ブラスト加工による影響を避けるか、あるいはブラスト後に最終的な研削加工やホーニング加工を組み込む必要があります。こうした工程設計の判断が、最終的な部品品質を左右するのです。
バリとエッジの管理
切削加工で発生したバリは、ブラスト加工によって除去できます。しかし、完全に除去できない場合や、逆にブラスト加工で角が丸くなりすぎてしまうと、部品の機能に影響が出ることがあります。
小物部品の仕上げにおいて、固定治具の設計段階からこの影響を最小限に抑える工夫をしています。特に、精密な嵌合が必要な部品や、シャープなエッジが機能上重要な部品については、慎重な工程管理が求められます。
設備の柔軟な活用
特急案件でブラスト加工が必要な場合、5軸加工機や複合加工機が埋まっていても、すぐに動けるマシニングや旋盤で切削し、ブラスト加工をスムーズに外注に回せるよう、段取り替えや洗浄工程を最適化しています。
この柔軟な対応力こそが、お客様から「納期に困った時に頼りになる」と評価していただける理由の一つです。
焼入れ鋼やワイヤーカットとの組み合わせ
ブラスト加工が強度向上を目的とする場合、しばしば硬い材質に適用されます。
焼入れ鋼への適用
焼入れ鋼は熱処理後の追加工が困難ですが、ブラスト加工は硬度に関わらず適用可能です。切削・旋削が難しく、ワイヤーカット加工機で高精度な加工を施した後、表面の残留応力を改善するためにピーニングを施すという、クリエイティブな加工法の組み合わせが実行されることがあります。
当社は旋盤、マシニング、ワイヤー加工が特に得意です。この強みを活かし、ブラスト加工を含むあらゆる表面処理工程の前後の品質を、多能工が高度に管理しています。
実際の加工事例
ある自動車部品メーカー様から、高強度が求められる焼入れ鋼の小型ギアの加工依頼をいただいたことがあります。ワイヤーカットで精密な歯形を加工した後、ショットピーニングを施すことで、疲労強度を約30パーセント向上させることができました。
このような複合的な加工法の組み合わせは、豊富な経験と高度な技術力があってこそ実現できるものです。
削り出し製品とブラスト加工の相性
高品質な削り出し製品の仕上げにおいて、ブラスト加工は非常に重要な役割を果たします。
当社のオリジナルグッズである「SAKAKI PUTTER」の製造においても、ブラスト加工は欠かせない工程です。5軸加工技術を駆使して削り出したパターヘッドに、適切なブラスト加工を施すことで、機能性と美しさを両立させています。
また、ガレージブランドや個人ブランドの試作開発を支援する際にも、この削り出しと表面処理のノウハウは大いに役立っています。お客様のこだわりのデザインを、機能面でも意匠面でも妥協なく実現するために、ブラスト加工は強力な武器となるのです。
榊原工機の総合力と信頼性
ブラスト加工を含む表面処理の品質を確保し、お客様のサビや強度に関する要求に応える能力は、榊原工機が「機械部品加工の駆け込み寺的存在」として信頼される基盤となっています。
一社で解決できる体制
お客様が「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多いです」と評価してくださるのは、切削・旋削だけでなく、その後のブラスト加工やアルマイト加工などの表面処理工程を含めた品質管理を一元的に行える体制があるからです。
部品調達における品質認識のギャップを解消するため、ブラスト加工による強度向上や仕上げの要求精度について、お客様との間で最終的な品質基準を明確に共有しています。
迅速な対応力
特急案件で表面処理が必要な場合、社長はお話し好きなので、電話で直接相談していただくことで、多能工が頭を旋盤のように高速回転させ、ベストな加工法と最短の表面処理手配を提案します。
この迅速な対応力と柔軟な提案力が、お客様の少量・試作開発を力強く支えているのです。
業界からの評価
2024年4月には、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されました。これは、当社の加工法と高精度な仕上げ技術が、業界のプロフェッショナルから高く評価されている証です。
また、工場っぽくない外観が自慢の「あたたかい町工場」という開かれた環境は、ブラスト加工の機能や仕上げに関するクリエイティブな要望を気兼ねなく相談できる雰囲気を提供しています。1階で金属を加工し、お客様を2階の木の温もりを感じる事務所へお迎えする、このオープンな姿勢も信頼関係の構築に役立っています。
おわりに:ブラスト加工で部品の可能性を広げる
ブラスト加工は、単に仕上げを整えるだけでなく、ピーニング効果による強度向上やサビ防止効果の付与など、小物部品の機能性と耐久性を飛躍的に高める重要な表面処理技術です。
榊原工機は、多能工のエンジニアが切削・旋削・ワイヤー加工といった前工程の高精度を保証し、ブラスト加工によるベストパフォーマンスを追求します。複合加工機や5軸加工機を含むバリエーション豊かな設備群を駆使し、頭を旋盤のように高速回転させるクリエイティブな思考プロセスをもって、お客様の少量・試作におけるサビや強度の課題を1社で解決しています。
金属も樹脂も、手のひらサイズの小物部品から複雑な形状まで、幅広い材質と加工に対応できるのが当社の強みです。ブラスト加工を含む表面処理の機能や仕上げでお困りの際は、精密切削加工のプロである私たち「機械部品加工の駆け込み寺」に、ぜひご相談ください。
お客様のものづくりを、確かな技術と温かい対応でサポートいたします。

