中国調達のリアル──現場から見るトラブル事例と対応策

2025年12月6日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:グローバル調達で見えてきた課題

近年、多くの企業様がコスト削減やサプライチェーン多様化のため、中国をはじめとする海外からの部品調達を進めています。私たち榊原工機も、お客様から「海外で調達したけれど品質が合わない」「納期に間に合わない」といったご相談を数多くいただくようになりました。

海外調達は確かに魅力的です。しかし、言語の違い、文化の違い、そして何より「品質に対する認識の違い」が、予想外のトラブルを引き起こすことがあります。

当社は愛知県春日井市で、精密切削加工を中心に、旋盤加工、マシニング加工、ワイヤーカット加工など、手のひらサイズの小物部品の試作・小ロット生産を得意としています。特に「加工に困った」「納期に困った」というお客様の駆け込み寺として、多くの難題を解決してきました。

この経験から見えてきたのは、海外調達のトラブルの多くは「事前の準備不足」と「コミュニケーション不足」に起因するということです。本記事では、現場で実際に起きているトラブル事例と、それを未然に防ぐための具体的な対応策をご紹介します。

なぜ国内の加工会社が海外調達のリスクを語るのか

「海外調達の話なのに、なぜ国内の加工会社が?」と思われるかもしれません。実は、私たちのような国内の精密加工会社だからこそ、海外調達で起きるトラブルの本質が見えてくるのです。

多能工エンジニアが持つ課題解決力

当社のエンジニアは、単に機械を動かすだけの作業者ではありません。お客様からの依頼を受けたとき、まず「この部品をどう加工すれば最も効率的で高品質に仕上がるか」を徹底的に考えます。

たとえば、ある試作部品の緊急依頼があったとします。理想的には5軸加工機や複合加工機で一気に仕上げたいところですが、それらの機械が埋まっていることもあります。そんなとき、当社のエンジニアは「マシニングと旋盤を組み合わせて加工しよう」「この工程を先にすれば治具の設計が簡単になる」と、頭をフル回転させて最適な加工方法を導き出します。

材料選びから始まり、角材から削るか丸棒から削るか、どの順番で加工するか、固定治具をどう設計するか──すべてをクリエイティブに考え抜きます。この「考えて動く」姿勢が、予期せぬトラブルへの対応力につながっています。

幅広い設備と技術力が裏付ける信頼性

海外調達でトラブルが起きる原因の多くは、サプライヤーの技術力不足や設備の不備です。当社は旋盤、マシニングセンタ、ワイヤーカット放電加工機など、多様な設備を保有しています。

旋盤とマシニングは部品加工の基本であり、複雑な形状も高精度に仕上げる能力は、当社が開発した高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」にも活かされています。ワイヤーカット加工は、電極線を用いた精密な切断加工で、微細で複雑な形状の加工に威力を発揮します。

お客様から「加工に困った」とご相談いただいたとき、旋盤、マシニング、ワイヤー加工が一社で完結できることが、迅速な問題解決につながります。複数の業者に相談するよりも、技術統合力のある一社に任せる方が、結果的に品質もコストも良くなることが多いのです。

この技術力があるからこそ、私たちは「海外調達でこういうトラブルが起きやすい」という現場の実態を、具体的にお伝えできるのです。

海外調達で起きる典型的なトラブル事例

それでは、実際にどのようなトラブルが起きているのか、現場の視点から見ていきましょう。

暗黙の了解が通じない恐怖

国内取引では「言わなくてもわかるだろう」という暗黙の了解が存在します。しかし、海外調達ではこれが最大の落とし穴になります。

たとえば、部品の公差について考えてみましょう。図面に「±0.1mm」と書いてあれば、国内の加工会社なら「重要な箇所はもっと厳しく管理しよう」と判断することがあります。しかし、海外のサプライヤーは「±0.1mmと書いてあるから、±0.1mmギリギリでOK」と考えるかもしれません。

表面処理についても同様です。「バリ取り」と指示しても、どの程度まで滑らかに仕上げるかの基準が共有されていなければ、到着した部品を見て愕然とすることになります。

あるお客様の事例では、中国で調達した部品の穴加工精度が不十分で、組立時に部品が入らないというトラブルがありました。図面には穴径の寸法は書いてありましたが、リーマ加工やホーニング加工といった仕上げ工程の指示がなかったため、サプライヤーは最も安価なドリル加工だけで済ませてしまったのです。

専門用語解説

  • リーマ加工:ドリルで開けた穴をさらに精密に仕上げる加工
  • ホーニング加工:砥石で穴の内面を研磨し、高精度・高品質な表面に仕上げる加工

国内であれば「穴加工」という言葉だけで、用途に応じた適切な仕上げを判断できることもありますが、海外では一つひとつ明確に指示する必要があるのです。

材料と後加工のブラックボックス

部品の品質は、使用される材料とその後の処理に大きく左右されます。しかし、海外調達では、この部分がブラックボックスになりがちです。

材料規格について、たとえば「S45C」と指定しても、サプライヤーによっては類似の安価な材料で代用することがあります。化学成分がわずかに違うだけで、強度や加工性が変わってしまいます。

熱処理についても要注意です。焼入れ処理を指定したのに、適切な温度管理や冷却方法が守られず、期待した硬度が出ていないことがあります。実際、納品後に「硬度が足りない」と発覚し、全数作り直しになったケースもあります。

表面処理も同様です。アルマイト加工やブラスト加工など、見た目だけでなく機能にも影響する処理が、どのような条件で行われたかを確認するのは困難です。

専門用語解説

  • 焼入れ:金属を高温に加熱した後、急冷することで硬度を高める熱処理
  • アルマイト加工:アルミニウムの表面に酸化皮膜を作り、耐食性や耐摩耗性を向上させる処理
  • ブラスト加工:細かい粒子を吹き付けて表面を粗面化し、密着性を高めたり外観を整えたりする処理

当社では、これらの後加工についても深い知識を持っています。たとえば、焼入れ鋼への追加工は非常に難しく、通常の工具では歯が立ちません。このような実践的な知識があるからこそ、「この仕様では後工程で問題が起きる」と事前に気づくことができるのです。

納期遅延と品質トラブルの連鎖

海外調達では、納期が守られないことも大きな問題です。そして厄介なのは、納期遅延と品質トラブルが連鎖することです。

納期が迫ってくると、サプライヤーは品質を犠牲にしてでも納品しようとします。検査を省略したり、不良品を混入させたりするリスクが高まります。また、輸送トラブルや通関の遅れなど、海外特有のリスクも存在します。

さらに、品質不良が発覚してから再発注すると、今度は本当に間に合わなくなります。結局、国内の加工会社に緊急で依頼することになり、コスト削減どころか大幅なコスト増になってしまうケースも少なくありません。

実際、当社にも「来週までに何とかならないか」という緊急依頼が舞い込むことがあります。幸い、当社は多様な設備と柔軟な工程設計力があるため、可能な限り対応していますが、こうした事態は避けられるに越したことはありません。

トラブルを未然に防ぐための実践的対応策

では、これらのトラブルを未然に防ぐには、どうすればよいのでしょうか。現場で培った知見から、具体的な対応策をお伝えします。

見積依頼段階での徹底した情報共有

トラブル回避の第一歩は、見積依頼の段階から始まります。ここで手を抜くと、後々大きな問題につながります。

まず、公差の優先順位を明確にすることです。図面上のすべての寸法に厳しい公差を設定すると、コストが跳ね上がります。逆に、重要な箇所の公差が緩いと、組立時に問題が起きます。どの寸法が「機能上重要」で、どこまでなら許容できるのかを具体的に示しましょう。

測定基準も重要です。同じ寸法でも、どこを基準に測るか、どの測定器を使うかで結果が変わることがあります。「この部分はノギスで測定」「この部分はマイクロメータで±0.01mm」など、具体的に指示します。

治具の使用についても明記すべきです。精密加工には治具が不可欠ですが、その設計や固定方法が品質に影響します。「専用治具を使用すること」と指定するだけでなく、可能であれば治具の仕様も共有します。

加工方法の指定も忘れずに。「穴加工」ではなく「リーマ加工で仕上げ」、「表面仕上げ」ではなく「研削加工で表面粗さRa0.8以下」というように、具体的な技術用語を使って指示します。

専門用語解説

  • 公差:許容される寸法のばらつきの範囲
  • 表面粗さ(Ra):表面の凹凸の程度を数値化したもの。値が小さいほど滑らか

当社では、お客様から見積依頼をいただく際、不明点があれば必ず確認します。「ここの公差はこれで大丈夫ですか?」「この材料で間違いないですか?」と、何度もコミュニケーションを取ります。面倒に思われるかもしれませんが、この手間が後のトラブルを防ぐのです。

コミュニケーションは電話で、迅速に

海外サプライヤーとのやり取りは、メールやチャットが中心になりがちです。しかし、複雑な仕様や緊急時の対応では、電話やビデオ通話など、直接対話できる手段を使うべきです。

当社の社長は「お話し好き」で知られていますが、これには理由があります。電話で話すと、相手の理解度がわかります。「あれ、今の説明、伝わってないな」と感じたら、言い方を変えて再度説明できます。メールではこうはいきません。

また、緊急時には迅速な判断が必要です。「この仕様では間に合わない。代替案として、こういう方法はどうか」といった提案を、リアルタイムで検討できるのは、直接対話の大きなメリットです。

海外サプライヤーとの時差や言語の壁はありますが、重要な確認事項については、通訳を介してでも直接対話する機会を設けることをお勧めします。微妙なニュアンスや緊急度が伝わり、クリエイティブな解決策が生まれやすくなります。

当社にご相談いただく際も、「メールで返信を待つより、電話で事情を説明していただく方が早く解決できます」とお伝えしています。複雑な要件や特急案件では、直接お話しすることで、すぐに動ける設備を組み合わせた最適な対応策をご提案できるからです。

技術キーワードを理解して武器にする

発注者が加工技術の基礎知識を持つことは、海外サプライヤーとの品質認識のギャップを埋める強力な武器になります。

たとえば、以下のような技術キーワードを理解しておくと、仕様書の精度が格段に上がります。

表面仕上げ関連

  • ホーニング加工:穴の内面を精密に研磨
  • 研削加工:砥石で削って高精度な表面に仕上げる
  • ラッピング加工:超精密な鏡面仕上げ

特殊加工関連

  • バーリング加工:薄板に穴を開け、周囲を立ち上げて厚みを持たせる
  • フレア加工:パイプの端を広げる加工
  • ローレット加工:表面に滑り止めの凹凸をつける

材料関連

  • ステンレス加工:耐食性に優れるが難削材で加工が難しい
  • アルミ合金:軽量で加工しやすいが材質によって特性が異なる

これらの技術用語を正しく使うことで、発注側の要求が具体化され、サプライヤー側も適切な設備や工程を選択できるようになります。

当社では、お客様向けに「今さら聞けない加工技術シリーズ」として、こうした基礎知識を発信しています。加工技術を知ることは、より良い部品調達への第一歩なのです。

国内バックアップ体制の重要性

海外調達のリスクをゼロにすることは困難です。だからこそ、国内にバックアップ体制を持つことが重要になります。

緊急時の駆け込み寺として

当社には、海外調達でトラブルが起きたお客様からの緊急依頼が多く寄せられます。「中国で発注した部品が納期に間に合わない」「品質不良で急遽国内で作り直したい」といったご相談です。

こうした緊急案件に対応できるのは、当社が多様な設備を持ち、柔軟な工程設計ができるからです。5軸加工機が埋まっていても、マシニングと旋盤を組み合わせて対応する。治具を工夫して加工時間を短縮する。こうした臨機応変な対応力が、お客様の窮地を救います。

また、小ロット・試作生産に強いことも、緊急対応では有利に働きます。大量生産前提の工場では、少量の緊急依頼は受けてもらえないことがありますが、当社は1個からでも対応可能です。

品質基準の「ものさし」として

海外で調達した部品の品質をチェックする際、国内の精密加工会社の知見が役立ちます。

「この表面粗さは許容範囲か」「この公差のばらつきは問題ないか」「この材質は指定通りか」──こうした判断には、現場で培った経験が不可欠です。

当社では、お客様から「この部品、品質的に大丈夫でしょうか?」とご相談いただくこともあります。実際に手に取って確認し、測定し、場合によっては試し加工をして、プロの目で評価します。

また、不良が見つかった場合、「なぜこの不良が起きたのか」「次回どう指示すれば防げるか」といったアドバイスもできます。こうした知見は、次回の海外調達をより成功させるための財産になります。

グローバル調達成功への道筋

海外調達は、適切に行えばコスト競争力を高める強力な手段です。しかし、準備不足のまま進めると、かえって大きな損失を招きます。

成功のための三つのポイント

第一に、徹底した事前準備です。仕様書を詳細に作成し、曖昧さを排除します。技術用語を正確に使い、測定基準や検査方法まで明記します。見積段階から綿密にコミュニケーションを取り、認識のズレを防ぎます。

第二に、信頼できるパートナー選びです。価格だけで選ぶのではなく、技術力、設備、品質管理体制を総合的に評価します。可能であれば、工場を実際に視察し、製造プロセスを確認します。

第三に、国内バックアップ体制の確保です。いざというときに頼れる国内の加工会社とつながりを持っておくことで、リスクを大幅に軽減できます。

当社は、こうした国内バックアップの役割を果たすことができます。緊急対応、品質評価、技術相談など、海外調達を成功させるためのパートナーとして、ぜひご活用ください。

技術対話が生む信頼関係

結局のところ、グローバル調達の成功は「信頼」と「技術対話」にかかっています。

単に図面を渡して「作ってください」では、トラブルは避けられません。「なぜこの公差が必要なのか」「この部品がどのように使われるのか」といった背景を共有することで、サプライヤーも「ここは特に注意しよう」と理解できます。

そして、技術的な課題が発生したときに、共に解決策を考えられる関係性を築くことが大切です。「この材料では難しい。別の材料を提案したい」「この形状では加工が困難。設計を少し変更できないか」──こうした建設的な対話ができる関係が、品質の高い部品調達につながります。

当社が大切にしているのも、まさにこの「技術対話」です。お客様の課題を深く理解し、共に最適解を探る。時には「この設計、ちょっと加工しにくいですね。ここをこう変えれば、コストも品質も良くなりますよ」と提案することもあります。

こうした関係性が、長期的な信頼関係を生み、結果的に高品質な製品づくりにつながるのです。

まとめ:プロの視点で見る海外調達

中国をはじめとする海外からの部品調達は、今後も多くの企業にとって重要な選択肢であり続けるでしょう。しかし、その成功には、国内での調達以上に綿密な準備と、技術的な知識、そして信頼できるパートナーが必要です。

私たち榊原工機は、精密切削加工のプロフェッショナルとして、旋盤、マシニング、ワイヤーカット加工など、多様な技術と設備を持っています。そして何より、「考えて動く」エンジニアが、お客様の課題に向き合い、クリエイティブな解決策を提案します。

海外調達でお困りのとき、品質基準の設定に迷ったとき、緊急で国内調達が必要になったとき──どうぞお気軽にご相談ください。長年の経験と技術力で、お客様のグローバル調達を成功に導くお手伝いをいたします。

遠い海を渡る船が、経験豊富な航海士の助言を得て、正確な海図と確かな技術で目的地に辿り着くように。お客様のグローバル調達という航海を、私たちがサポートします。

愛知県春日井市の榊原工機、加工のことなら何でもご相談ください。