「自社のオリジナル製品を作りたいんですが、どのくらいのコストになりますか?」──榊原工機には、こんなご相談がたくさん舞い込んできます。アウトドア用品、医療機器の部品、楽器のパーツ……依頼内容はさまざま。そして打合せしていると、こんなやり取りが何度も出てくるそうです。
「これ、10個作ってほしいんですが、1個いくらになりますか?」
「切削加工では、1個あたりの価格が結構高くなりますよ。1個1万円くらいになりそうです」
「え? ホームセンターで似たような部品が100円で売ってるのに、そんなにかかるんですか!」
「少量で作ると高くなる」というのはものづくり業界では「常識」とされていることではありますが、初めての方はびっくりすることも多いようです。そこで今回は、加工歴40年の榊原崇社長に、ものづくりの基本中の基本「金型とは何か」「切削加工との違い」について、わかりやすく教えてもらいました。
世の中のものはほぼ「金型」でできている
「みなさん、なかなか意識されないんですが、世の中にあるものの多くは金型を使って大量生産されてるんですよ」と話し始めた榊原社長。
スマートフォンのケース、テレビのリモコン、プラスチック製の容器、自動車のボディパネル。ホームセンターに並ぶ数十円のボルトだって、専用の金型と設備を作って一度に大量に作り、店頭での販売価格を実現しています。
金型を一言で表すなら、「製品を大量生産するための型」です。型さえあれば、材料を流し込んだりプレスしたりするだけで、同じ形の製品を何千個・何万個と作ることができます。型を作る初期費用はかかりますが、いったん型ができてしまえば1個あたりのコストは劇的に下がります。それが「量産品は安い」理由です。
「たい焼き」で考えてみよう
榊原社長の説明で、特にわかりやすかったのが「たい焼き」のたとえです。
「たい焼きって、型があるから大量に、しかも安く作れますよね。もし型がなかったら、1個ずつ職人が手作業でたい焼きの形を作らないといけない。それって、とんでもない技術と手間がかかる。だから1個の単価が高くなるんです。
工業製品も、これと同じ仕組みです。たい焼きを金型なしで作れ、って言われたとしたら──それをやるのが切削加工なんですよ(笑)」と教えてくれました。
金型の主な種類
金型にはいくつかの種類があり、素材や用途によって使い分けられています。
金属板(鉄板・アルミ板など)を型ではさんで圧力をかけて成形します。自動車の外板部品や内部の補強材など、金属板を使った製品の多くはプレス型で作られています。
溶かしたプラスチックを型に流し込んで冷やし固めます。テレビのリモコン、家電の外装、日用品の容器など、身近な樹脂製品のほとんどはこの方法です。
熱で溶かしたアルミや鉄などの金属を型に流し込んで成形します。鋳型を使ってできた製品は「鋳物(いもの)」と呼ばれます。
金属を加熱して柔らかくし、型で叩いて成形します。強度が高い製品に使われ、自動車のエンジン部品や航空機部品などに採用されています。
切削加工とは? 金型との使い分けを解説
榊原工機で日々取り組んでいる切削加工は、金属の塊をマシニングセンターや旋盤加工で削り出して形を作る加工方法です。そして、切削加工の重要な役割の一つが、金型そのものを削り出すことです。
「金型は、加工精度がダイレクトに完成品の品質に響きます。型がわずかにずれれば、大量生産された製品すべてに影響が出てしまう。だから型を作る段階が一番大事なのですが、その大切な工程を切削加工が担っています」と榊原社長は続けます。
では、金型を使わず切削加工で直接、製品を作ることはできるのでしょうか?
「もちろん、切削で形を作ることもできます。ただし、形状や数量によって、それぞれに向き・不向きがあります」と榊原社長は答えます。
金型を使った量産では「大量に作るほど1個あたりが安くなる」仕組みです。裏を返せば、少量生産では金型の初期費用(=型代、10万円から数千万円)の方が高くついてしまうことが多いのが現状です。
(写真は切削で同じ部品を製作した事例)
「100個、200個くらいの数量だったら、型を起こすよりも切削で1個ずつ削り出した方が、トータルコストは安くなるケースもあります。簡易的な金型の組合せで作れる形状であれば、プレス加工・板金加工で安く作れることもあるんですよ」と榊原社長は話します。
(写真はプレス型を使って円弧形状の部品を量産した事例)
また、製品の形状によっても判断が変わります。
・複雑な形状を大量に作りたい:金型を作った方が結果的に安くなる
・試作・単品:金型を作らず切削で対応するのが現実的
このような背景をふまえ、榊原工機では製品の形や生産量、機械や素材の特性などにあわせて最適な工程を提案しています。
「キラリと光る部分」だけ切削加工を使うのも手
「もうひとつ、部品全部ではなく、こだわりたい部分だけに切削加工を使うという選択肢もあります」と榊原社長は言います。
たとえばアウトドア用品を開発するとき、ボディ部分は金型を使って量産しながら、ユーザーの手が触れる部分や見た目にこだわる部分だけを切削加工で仕上げる──という設計です。
「切削だからこそ出せる金属の質感、精度、細かい造形がある。全部削り出すと高額になる場合には、キラリと光る部分でその良さを活かすのが、切削の賢い使い方だと思いますよ」
ちなみに右の写真は、榊原工機のオリジナル製品「SAKAKI PUTTER」。切削の良さを存分に活かしたゴルフパターです。
よくある誤解と、リアルな事例
榊原工機に寄せられる相談の中には、「ものづくりの基本」を知らないことで生じる誤解は少なくありません。
「ホームセンターで1個100円のボルトを見て、『そのくらいの値段で作れるでしょ』と相談をいただく方がいらっしゃいます。でもそのボルトは、専用の設備と型で何万本と大量生産しているから成り立っている価格なんですよ。切削で1個作るとなれば、数千円から、形状によっては1万円を超えることもあります」と榊原社長。
「依頼の内容は本当に多様で、金型と切削の違いを知らずにご相談いただく方も多いので、まずは加工方法の説明からお伝えするようにしています。ものを作りたいというご相談では、まず『どのくらいの数量が必要か』『どんな形状か』を整理していただくと、コストの話が格段にしやすくなりますよ」と締めくくってくれました。
まとめ -- 金型と切削加工の関係性
今回は、ものづくりの基本「金型と切削加工の関係」について、榊原社長に話を聞きました。
「自社製品を作りたい」「部品を発注したい」というとき、少量で作るなら切削加工が現実的ですし、量が多い場合は金型を使った方が、1個あたりの価格は安く抑えられます。そして金型も、切削加工で作っているといます。このように、金型と切削加工の違いを頭に入れておくと、コストや納期の見通しが立てやすくなります。
榊原工機では、愛知県春日井市を拠点に、旋盤加工・マシニング加工・5軸加工・ワイヤーカットなど、小ロット・単品の切削加工に特化して対応しています。「どの加工方法が合っているかわからない」「試作から相談したい」という段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。名古屋エリア・東海エリアはもちろん、全国からの単品加工のご依頼にも対応しています。
(インタビュー・構成=ものづくりライター 新開潤子 https://office-kiitos.biz/)
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