町工場を取り巻く環境が厳しさを増す中、愛知県春日井市の有限会社榊原工機では、従来の下請け加工業だけでなく、自社製品の開発にも積極的に取り組んでいます。その代表例が、5軸マシニングセンターによる精密加工技術を駆使して開発された高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER(サカキパター)」です。
今回は、開発から6年が経過した「サカキパター」について、榊原崇社長に詳しくお話を伺いました。プロゴルファーとの共同開発から海外展開での挫折、そして町工場ならではのものづくりへのこだわりまで、包み隠さず語っていただいた開発ストーリーをお届けします。


「5軸加工機のPR」から始まった パター開発
榊原社長がパター開発に取り組み始めたのは2019年頃。最新鋭の5軸加工機を導入したタイミングで「5軸マシニングセンターの技術力を、一般の人にもわかりやすく伝える方法はないだろうか」と考えていた中で「ゴルフのパターはどうか」と思い至りました。
「早速、試作の第一弾として、真鍮の削り出しでキラキラしたパターを作ってみました。女性受けするといいな、と思って(笑)」
ちょうど同じ時期に、榊原社長は倫理法人会の春日井支部に加入。そこで知り合った会員の方にパターを作った話をしたところ、なんとプロゴルファーを紹介してもらえることになりました。
「プロゴルファーに自信満々でキラキラしたパターを見せたところ、『これはプロの試合では使えませんね』と即答されてしまったんです。そこで職人魂に火がついて、『では、プロが使えるものを作ります』と言ってしまいました」
いろいろと話してみると、この方は特にパターに強いこだわりを持つゴルファーだったこともあり、榊原社長はこのプロに協力を依頼して共同開発を進めることになりました。
開発コンセプトは「プロの試合で使えるパター」
プロジェクトがスタートすると、「プロの試合でも使えるように」というコンセプトで、試作とテストを繰り返しながら開発を進行。そして完成したパターをイギリスのR&A(Royal and Ancient Golf Club of St. Andrews:英国ゴルフ協会)に送って「R&A用具審査手続き」の審査を受け、正式にプロ用のゴルフ道具として承認を受けることができました」
(右の写真:イギリスのゴルフのイベントで展示されたサカキパター)
こうして生まれたのが、5軸マシニングセンターで全て削り出したサカキパター。当初は最低価格を40万円、最高級モデルは80万円という価格設定で発売することになりました。

独自技術で「正確な中心」と「美しい仕上がり」を実現
サカキパターの最大の特徴は、正確な重心位置の設定にあります。
「一般的なパターでは、上部の丸い目印が重心の位置を示しているように見えますが、実際には最大1cm程度重心がずれていることが多いんです」(榊原社長)
この問題を解決するため、サカキパターでは特許出願中の独自工法で重心を正確なセンターに配置。常に中心で打てる状態を実現しました。さらに、ステンレスと真鍮を組み合わせたハイブリッド構造にすることで、重心が後ろ寄りになり、パッティングが安定するようになっています。

また、真鍮とステンレスの各パーツの接合には、特別な技術が使われています。最初は一般的な真鍮の棒を打ち込んで接合していましたが、真鍮の性質上、ロットによって色が微妙に異なってしまいます。そこで現在はパター本体の素材から接合用のピンも削り出し、打ち込み跡が全くわからない美しい仕上がりを実現しました。
職人ならではの美しいこだわりがもう一つ。5軸マシニングセンターで平面に削ると、表面にボールエンドミル加工の特徴である筋の模様がつきます。
「加工者の自己満足かもしれませんが、わかる人にはこれが『3次元加工』だとわかる仕掛けになっています(笑)」と榊原社長。切削加工の模様が美しいパターンとして残ることで、工業製品でありながら工芸品のような趣きも醸し出しています。
「工業製品っぽくなりすぎないように、わびさび感を出すために槌目模様の榊マークを入れています。日本の要素を取り入れたハイブリッド作品だと思っています」

海外展開への挑戦と挫折
開発が軌道に乗ったサカキパターは、一時は海外展開も視野に入れていました。
「実は、イギリスやロシア、中国など、海外から引き合いをいただいていたんです。特にゴルフの本場イギリスでは、R&Aの承認を受けた本格的なパターとしての展開を期待していました」
しかし、2020年に始まった新型コロナウイルスの世界的な流行、そして2022年のロシアによるウクライナ侵攻などの国際情勢の変化により、海外展開は断念せざるを得ませんでした。
現在は国内市場に軸足を置いた販売戦略に転換。日本のゴルファーの皆様に、確かな技術で作られた本物のパターを届けたいと考えているそうです。
榊原社長自身も効果を実感「スコアが確実に向上」
開発した榊原社長自身も、このパターを使ってスコアアップの効果を実感しています。
「自分で使ってみると確かにパットが安定して、実際スコアも伸びました。といっても130だったスコアが120になった程度で、あまり上手くない人の改善なので信憑性はないかもしれませんが(笑)、パットの回数が減って1回で入るようになったなど、という効果は確実に感じています」(榊原社長)
まとめ:愛知県の町工場が生み出した上質なパター
榊原工機の「サカキパター」は、「良いものを作りたい」という町工場の職人魂から生まれた製品です。プロゴルファーとの共同開発、R&A用具としての登録を経て、今は自社製品のラインアップの一つになっています。
「榊原工機の強みは自社で何でも作れること。そこで、パターやランタンなど、自社製品を作れるというのが大きな強みになっています」と榊原社長は話します。
榊原工機には5軸マシニングセンターをはじめ、旋盤、フライス、ワイヤーカットなど、多様な加工設備が揃っています。この設備と職人技術が、重心位置の正確性、ハイブリッド構造による絶妙なバランス、5軸加工による美しい仕上がりなど、サカキパターの特徴を実現しています。
「試し打ちをご希望の方は、ぜひ私をゴルフに誘ってください」
そう榊原社長は笑いながら話していました。130から120へスコアアップした榊原社長の体験談と一緒に、安定したパッティングを体感していただけるはずです。
現在は33万円~で販売中のサカキパター。ゴルフを愛する皆様に、ぜひ一度お試しいただきたい逸品です。
(インタビュー・構成=ものづくりライター 新開潤子)
サカキパターに関するお問い合わせ
有限会社榊原工機
〒486-0932 愛知県春日井市松河戸町2-5-15
TEL : 0568-36-1628
特設サイト: https://sakakiputters.com/
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