ザグリ加工とは?目的と精度要求を徹底解説【設計者必見】

2025年11月17日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:ザグリ加工が製品品質を左右する理由

「ザグリ加工って、ただ穴を広げるだけでしょ?」

そう思われる方も多いかもしれません。しかし、この一見シンプルな加工こそが、製品の組立性や締結強度を大きく左右する重要な工程なのです。

私たち有限会社榊原工機は、愛知県で手のひらサイズの小物部品を中心に、少量・試作品の精密切削加工を手がけています。日々、お客様から「急ぎで部品が必要」「こんな複雑な形状、できますか?」といったご相談をいただく中で、ザグリ加工の精度が最終製品の品質を決める場面を数多く見てきました。

本記事では、ザグリ加工の基礎から、設計者が知っておくべき精度のポイント、そして私たちがどのように高品質なザグリ加工を実現しているのかを詳しくご紹介します。

ザグリ加工とは何か?その目的を理解する

ザグリ加工の基本的な定義

ザグリ加工とは、すでに開けられた穴の一部を、特定の深さや形状に広げる加工方法です。英語ではカウンターボア(Counterbore)とも呼ばれます。

具体的には、ドリルで開けた主穴に対して、より大きな直径の工具を使って座面を作る作業を指します。この座面は、ボルトの頭部やワッシャーが接触する部分となります。

ザグリ加工が必要になる2つの主な理由

ザグリ加工が求められる場面は、主に2つのパターンに分類できます。

1つ目は、締結部品の沈め込みです。六角ボルトやキャップボルトの頭部を部品表面より低い位置に収めることで、表面を平滑に保ちます。これにより、他の部品との干渉を防ぎ、見た目も美しく仕上がります。例えば、機械の外装部品でボルトの頭が飛び出していると、隣接する部品が取り付けられなかったり、動作中に引っかかったりするトラブルが発生します。

2つ目は、座面の安定化です。ボルトやナットを締め付ける際、接触面が不安定だと均等な締結力が得られません。ザグリ加工によって、主穴と同心で、かつ穴の軸に対して垂直な平坦面を確保することで、安定した締結が可能になります。これは特に振動が多い機械部品や、高い締結力が求められる箇所で重要になります。

マシニング加工との関係

ザグリ加工は、主にマシニングセンタという工作機械で行われます。マシニングセンタは工具を自動で交換できるため、まずドリルで主穴を開け、その後ザグリ用のカッターに切り替えて座面を形成できます。

この一連の作業を同じ機械で行うことで、穴の中心位置がずれるリスクを最小限に抑えられます。もし別々の機械で作業すると、部品の取り付け直しが必要になり、わずかな位置ずれが精度に影響を与えてしまいます。

ザグリ加工で求められる3つの精度要求

深さの精度管理が重要な理由

ザグリ加工で最も基本的な精度要求が、深さの管理です。

ボルトの頭部を沈め込む場合、指定された深さが適切でないと大きな問題が生じます。深さが浅すぎれば、ボルトの頭が表面から飛び出してしまい、設計通りの組み立てができません。逆に深すぎると、ボルトの首下長さが不足して十分な締結力が得られず、緩みの原因になります。

特に手のひらサイズの小物部品では、わずか0.1ミリの誤差が致命的になることもあります。例えば、厚さ10ミリの部品で深さ8ミリのザグリ加工を行う場合、残る肉厚はわずか2ミリです。この状態で深さの精度が出ていないと、部品の強度不足や変形につながります。

座面の垂直度が締結品質を決める

ザグリ加工で形成される座面は、主穴の軸に対して厳密に垂直である必要があります。

座面が傾いていると、ボルトの頭部が斜めに接触し、締め付け時に不均一な力が加わります。その結果、部品が変形したり、最悪の場合は破損したりします。また、締結後の振動で緩みやすくなるという問題も発生します。

私たちが実際に経験した事例では、座面の垂直度が0.05ミリずれただけで、組み立て後の製品から異音が発生したケースがありました。お客様からの指摘を受けて調査したところ、ボルトが斜めに締まっていたため、周辺部品との接触面に隙間が生じていたのです。

同心度のずれがもたらすトラブル

ザグリ穴の中心と主穴の中心が一致していることを「同心度が出ている」と表現します。

この同心度がずれると、ボルトが斜めに挿入されることになり、座面の意味がなくなってしまいます。ボルトの軸が傾いた状態で締め付けると、ねじ山に無理な力がかかり、かじりや破損の原因になります。

同心度のずれは、加工機械の精度だけでなく、ワーク(加工対象の部品)の固定方法にも大きく影響されます。特に小物部品では、固定治具の精度や締め付け方によって、わずかな位置ずれが発生しやすくなります。

当社の多能工エンジニアが実践する加工法の選択

高速で回転する思考プロセス

お客様からザグリ加工を含む部品の依頼をいただくと、私たちのエンジニアは瞬時に最適な加工方法を検討します。

「今日は5軸加工機が空いているから、一貫加工できるな」「いや、この形状なら旋盤で外径を仕上げてからマシニングに持っていった方が精度が出る」といった判断を、まさに頭をフル回転させながら行います。

理想的なのは、複合加工機や5軸加工機で全工程を1台で完結させることです。しかし、設備が稼働中だったり、部品の形状によっては別の方法が適している場合もあります。そんなとき、旋盤とマシニングセンタの両方を扱える多能工の強みが発揮されます。

固定治具の設計がカギを握る

ザグリ加工の精度を保証する上で、ワークの固定方法は極めて重要です。

特に手のひらサイズの小物部品は、クランプ(固定)が難しく、少しの力加減で位置がずれてしまいます。例えば、薄板の部品を強く締め付けすぎると、加工中は正しい位置にあっても、クランプを外したときに元の形状に戻ろうとして変形してしまいます。

私たちは部品の形状や材質に応じて、専用の固定治具を設計・製作します。円筒形状の部品なら3つ爪チャックやコレットチャックを使い、複雑な形状なら部品の形に合わせた当て木や受け治具を製作します。この治具設計の巧拙が、最終的な加工精度を大きく左右するのです。

材質に応じた工具選定の重要性

ザグリ加工を行う材質によって、工具の種類や切削条件を変える必要があります。

アルミニウムなどの軟らかい材料なら、高速回転で効率よく加工できます。一方、ステンレス鋼や焼入れ鋼のような硬い材料では、工具の摩耗が早く、切削速度も落とさなければなりません。

特に難しいのが、熱処理後の追加工です。すでに硬度が上がった部品にザグリ加工を施す場合、通常の工具では歯が立ちません。超硬工具や特殊コーティングされた工具を使うか、場合によってはワイヤーカットなど別の加工方法を検討する必要があります。

また、樹脂材料の場合は、切削熱で材料が溶けたり変形したりしないよう、回転数や送り速度を慎重に設定します。

旋盤とマシニングの連携で実現する高精度

円筒部品における加工の流れ

円筒形状の部品にザグリ加工が必要な場合、旋盤とマシニングの連携が効果的です。

まず旋盤で円筒の外径と端面を高精度に仕上げます。この段階で、部品の軸となる基準面を正確に作り込みます。旋盤は回転する部品に工具を当てて加工するため、真円度や同心度を出すのに適しています。

次に、この旋盤で作った基準面を活かして、マシニングセンタで穴あけとザグリ加工を行います。旋盤で確保された正確な軸に対して穴を開けるため、同心度の高いザグリ加工が実現できます。

座標系を維持する技術

旋盤からマシニングへ部品を移す際、最も注意すべきは座標系のずれです。

それぞれの機械で部品を取り付け直すと、わずかな位置ずれが発生します。これを防ぐため、部品の取り付け面となる治具の精度を徹底的に管理します。また、可能な限り同じ基準面を使って部品を固定することで、座標系のずれを最小限に抑えます。

私たちの工場では、旋盤で加工した部品をマシニングに移す際、基準となる面や穴をあらかじめ旋盤で作っておくという工夫をしています。この基準面を使ってマシニングでの位置決めを行うことで、高い精度を維持できるのです。

複合的なスキルが生む品質

この旋盤とマシニングの連携を成功させるには、両方の機械に精通したエンジニアの存在が不可欠です。

それぞれの機械の特性を理解し、どの工程をどちらで行うべきか、どのような順序で加工すれば精度が出るかを判断できる技術者がいるからこそ、複雑な部品でも高品質に仕上げられます。

単に機械を操作できるだけでなく、加工プロセス全体を設計できる多能工の育成に、私たちは力を入れています。

ザグリ加工で発生しやすいトラブルと対策

びびり振動による座面の荒れ

ザグリ加工で最もよく遭遇するトラブルが、びびり振動です。

工具が材料に食い込む際、特にザグリカッターは切削面積が大きいため、振動が発生しやすくなります。この振動によって座面が荒れたり、寸法精度が出なかったりします。

対策としては、工具の突き出し長さを短くする、切り込み量を小さくする、回転数と送り速度のバランスを調整するなどの方法があります。また、工具の剛性を高めるため、より太いシャンク径の工具を選ぶことも有効です。

実際の加工現場では、これらの条件を変えながら、最も安定して加工できるポイントを探していきます。

切削熱による変形の問題

特に樹脂や薄肉の小物部品では、切削熱による変形が大きな課題になります。

ザグリ加工中、工具と材料の摩擦で発生した熱により、部品がわずかに膨張します。加工直後は寸法が合っていても、冷えた後に収縮して寸法が変わってしまうのです。

この問題に対しては、切削油を十分に供給して冷却する、断続的に加工して熱の蓄積を防ぐ、加工後に十分な時間を置いて測定するなどの対策を講じます。

また、樹脂材料の場合は特に注意が必要で、切削速度が速すぎると材料が溶けてしまうため、適切な条件設定が求められます。

工具摩耗と寸法精度の関係

ザグリ加工では、工具の摩耗状態が寸法精度に直結します。

同じ工具で複数の部品を連続加工していると、刃先が少しずつ摩耗し、座面の直径や深さが変化していきます。特に硬い材料を加工する場合、この摩耗の進行が早くなります。

私たちは定期的に工具の状態をチェックし、必要に応じて交換します。また、加工後の部品を抜き取り検査することで、工具摩耗による寸法変化を早期に発見できる体制を整えています。

設計者が知っておくべき図面指示のポイント

同心度の明確な指定方法

ザグリ加工を依頼する際の図面では、同心度を明確に指定することが重要です。

単に「φ10の穴にφ18のザグリ、深さ5ミリ」と書くだけでは不十分です。主穴とザグリ穴の同心度公差を、例えば「φ0.05以内」のように数値で指定することで、加工者に求める精度が正確に伝わります。

同心度の指定がない場合、加工者は経験に基づいて判断しますが、用途によって求められる精度は異なるため、明示することが確実です。

深さ公差の適切な設定

ザグリの深さ公差は、部品の用途に応じて適切に設定する必要があります。

ボルトの頭部が部品表面と面一になることが求められる場合、深さの公差は厳しく設定すべきです。一方、単に頭部が飛び出さなければよい場合は、ある程度の余裕を持たせた公差でも問題ありません。

公差を厳しくしすぎると、加工時間が増えてコストが上がります。必要十分な精度を見極めることが、設計者に求められる判断です。

表面粗さの指示が必要な理由

ボルトの座面となる部分は、表面粗さの指示も重要です。

座面が粗いと、ボルトの頭部との接触面積が減り、締結力が均一に伝わりません。結果として、応力集中が発生し、緩みや破損の原因になります。

一般的には、Ra3.2μm程度の仕上げで十分な場合が多いですが、高い締結力が必要な場合や振動の多い環境では、さらに細かい仕上げが求められることもあります。

急ぎの案件にも対応できる当社の体制

1社で完結できる強み

私たちが「駆け込み寺」と呼ばれる理由は、ザグリ加工に必要なすべての工程を自社で対応できる点にあります。

マシニング加工はもちろん、前工程の旋盤加工、固定治具の設計・製作まで一貫して行えるため、外注に出す時間とコストを削減できます。また、工程間のコミュニケーションロスがないため、精度管理も容易になります。

少量・試作品では、図面通りに加工してみたら組み立てられないといった問題が発生することもあります。そんなとき、すぐに修正や追加工ができる体制があることは、お客様にとって大きな安心材料となります。

迅速なコミュニケーションの重要性

特急案件では、スピーディーな意思決定が成功のカギです。

「メールで返信を待つより、電話で直接相談する方が早い」というのは、私たちが常々お客様にお伝えしていることです。図面だけでは伝わりにくい微妙なニュアンスや、設計意図を直接お聞きすることで、最適な加工方法を提案できます。

また、加工中に気になる点が出てきた場合も、すぐにお客様に確認を取ることで、手戻りを防げます。この密なコミュニケーションが、短納期と高品質の両立を可能にしています。

経験に裏打ちされた提案力

長年の経験から、私たちは図面を見ただけで「この部品、組み立て時にこういう問題が起きそうだな」と気づくことができます。

例えば、ザグリの深さが浅すぎてボルトが締まらない、ザグリの直径が小さくて工具が入らないといった設計上の問題を、加工前に指摘できます。こうした提案により、お客様は試作の手戻りを減らし、開発期間を短縮できます。

単に図面通りに加工するだけでなく、製造の視点から設計を見直す提案ができることが、私たちの付加価値です。

まとめ:ザグリ加工の成功は事前準備と技術力の結晶

ザグリ加工は、一見シンプルな作業に見えますが、実際には高度な技術と経験が求められる重要な工程です。

同心度、垂直度、深さという3つの精度要求をすべて満たすには、適切な加工機械の選定、精密な固定治具の設計、材質に応じた工具選定など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。

私たち榊原工機は、多能工エンジニアが旋盤とマシニングの両方を使いこなし、お客様のニーズに応じた最適な加工方法を提案します。また、1社で完結できる体制により、短納期と高品質を両立させています。

ザグリ加工を含む精密部品の製作でお困りの際は、ぜひ私たちにご相談ください。長年の経験と技術力で、お客様の課題解決をお手伝いいたします。