ホーニング加工で実現する内面仕上げの精度:究極の内面品質を追求する技術

2025年11月26日
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有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:なぜ内面仕上げの精度がここまで重要なのか

私たち榊原工機は、愛知県春日井市に拠点を置く「あたたかい町工場」として、お客様の難題を迅速に解決する機械部品加工の駆け込み寺的存在を目指しています。

日々の仕事の中で、お客様からこんなご相談をいただくことがあります。「穴の内面をもっと滑らかにしたい」「真円度を極限まで高めたい」「ピストンがスムーズに動く穴を作りたい」。こうした要望に応えるために欠かせない技術が、今回ご紹介する「ホーニング加工」です。

ホーニング加工は、穴の内面を極めて高い精度と滑らかさに仕上げる技術です。通常の旋盤加工やマシニング加工だけでは到達できない、究極の内面品質を実現します。

手のひらサイズを中心とした小物部品の製造において、穴の精度は製品の性能を左右する重要な要素です。軸がスムーズに回転する穴、流体が漏れずに移動する穴、ベアリングが完璧に嵌合する穴。これらすべてに、ホーニング加工レベルの高精度が求められることがあります。

本記事では、ホーニング加工の基本原理から、この技術が内面仕上げにもたらす価値、そして私たちがどのように前工程でこの技術を支えているかまで、実践的な視点から詳しく解説していきます。

ホーニング加工とは:穴の内面を極限まで磨く技術

ホーニング加工という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。まずは、この加工法の基本から説明させていただきます。

ホーニング加工の基本原理

ホーニング加工は、砥石を装着した専用工具を穴の内面に挿入し、低速で回転させながら軸方向に往復運動させる加工法です。このとき、砥石を内面に一定の圧力で押し付けることで、微細な切削と研磨を同時に行います。

イメージとしては、円筒形のやすりを穴の中で動かしながら、内側をじっくりと磨き上げていく作業です。ただし、使用する砥粒は非常に細かく、通常の切削加工とは比較にならないほど繊細な仕上げが可能になります。

通常の穴あけ加工との違い

ドリルで穴をあけたり、リーマで寸法を整えたりする加工とホーニング加工は何が違うのでしょうか。

ドリル加工は穴をあける作業、リーマ加工は穴の寸法精度を上げる作業です。これらは「形を作る」「サイズを合わせる」という目的があります。一方、ホーニング加工は「品質を極限まで高める」ことに特化した仕上げ工程なのです。

具体的には、ホーニング加工では以下の三つの品質を極限まで高めることができます。

真円度の向上 ドリルやリーマで加工した穴には、わずかな楕円形やテーパー(勾配)が残ることがあります。ホーニング加工は、これらの歪みを修正し、穴の内径全体を厳密な真円に近づけます。

真直度の改善 長い穴や、加工中に曲がりが生じた穴に対しても、軸方向に均等な研磨を行うことで、穴の軸心をまっすぐに整えます。

究極の面粗度 ホーニング加工は、研削加工やリーマ加工よりもさらに微細な砥粒を使用するため、面粗度を極限まで滑らかに仕上げることができます。鏡面に近い仕上がりを実現できるのです。

なぜホーニング加工は高精度を実現できるのか

ホーニング加工が他の加工法と決定的に異なるのは、工具の動き方にあります。

通常の切削加工では、工具が固定された軌道で動くため、機械の芯ズレや振動の影響を受けやすくなります。しかし、ホーニング加工では、砥石が穴の内面全体に均等に接触し、自ら穴の中心軸を見つけるように作用します。

これにより、機械の精度に左右されにくく、穴の幾何公差(真円度・真直度)を高いレベルで達成できるのです。

また、ホーニング加工は非常に低い切削速度で行われるため、熱の発生が少ないという特長もあります。ステンレスなど熱がこもりやすい材質でも、熱変形のリスクを最小限に抑えながら、高精度な仕上げが可能です。

ホーニング加工が必要とされる場面

どのような部品にホーニング加工が必要なのでしょうか。実際の製造現場での事例を交えてご説明します。

油圧機器やエンジン部品での活躍

油圧シリンダーやコンプレッサーなど、ピストンが高速で往復運動する部品では、穴の内面品質が製品性能を大きく左右します。

例えば、油圧シリンダーの内径が真円でなかったり、表面に微細な凹凸が残っていたりすると、どうなるでしょうか。ピストンとシリンダーの間に隙間が生じて油圧が逃げたり、摩擦抵抗が増大して動きが悪くなったりします。

ホーニング加工によって完璧に仕上げられた内面は、以下のような効果をもたらします。

  • 摩擦抵抗の低減によるエネルギー効率の向上
  • ピストンの滑らかな動作による製品寿命の延長
  • シール性能の向上による油圧漏れの防止

ベアリングやシャフトの嵌合部

ベアリングが組み込まれる穴や、精密なシャフトが通る穴にも、ホーニング加工レベルの精度が求められます。

私たちが以前手がけた案件で、こんなことがありました。お客様から「ベアリングを組み込むと、なぜかスムーズに回転しない」という相談を受けたのです。調べてみると、穴の真円度がわずかに規格を外れていたことが原因でした。

この案件では、ホーニング加工を前提とした工程設計を見直すことで、完璧な真円度を実現し、ベアリングが理想的に機能するようになりました。わずか数ミクロン(1ミクロン=0.001mm)の差が、製品の動作に大きな影響を与えるのです。

流体機器でのシール性確保

流体が漏れないようにシール部品を組み込む穴では、ホーニング加工による完璧な仕上げが信頼性を担保します。

ガスや液体を扱う機器では、わずかな隙間も許されません。穴の内面に微細な傷があったり、真円度が不十分だったりすると、そこから流体が漏れてしまいます。

ホーニング加工によって鏡面のように滑らかに仕上げられた内面は、シール材との密着性を高め、長期間にわたって確実な液密・気密性を維持します。

榊原工機のアプローチ:前工程で決まるホーニング加工の品質

ホーニング加工そのものは専門業者との連携となりますが、その仕上がりの品質を左右するのは、実は前工程の精度管理なのです。

前工程の重要性:土台が良ければ仕上がりも良い

ホーニング加工を成功させる秘訣は、前工程で適切な下準備をしておくことです。これは、建物の基礎工事に似ています。どんなに立派な建物を建てようとしても、基礎がしっかりしていなければ良い建物は建ちません。

ホーニング加工も同じです。前工程で穴の精度が悪いと、ホーニング加工に時間がかかったり、最悪の場合、修正不可能になったりします。

私たち榊原工機の多能工エンジニアは、「頭を旋盤のように高速回転させて」前工程を設計します。これは社内でよく使う表現なのですが、要するに、あらゆる可能性を素早く検討し、最適な加工ルートを見つけ出すということです。

切削代の最適設計

ホーニング加工で残す切削代(加工の取り代)を適切に設定することが、効率的な仕上げの鍵となります。

切削代が多すぎると、ホーニング加工に時間がかかりすぎて非効率です。逆に少なすぎると、前工程の歪みや粗さが残ってしまい、ホーニング加工で修正しきれません。

私たちは、材質や要求精度に応じて、マシニングや複合加工機による穴あけ段階で最適な加工精度を確保します。このバランス感覚は、長年の経験と数多くの試作を通じて培われたものです。

ある試作案件では、ステンレス製の小物部品でホーニング加工が必要でした。ステンレスは粘りが強く、切削時に熱がこもりやすい材質です。私たちは切削条件を細かく調整し、熱による歪みを最小限に抑えながら、ホーニング加工に最適な下地を作り上げました。

熱と応力の管理:見えない敵との戦い

切削加工では、工具と材料の摩擦で必ず熱が発生します。この熱は材料を膨張させ、加工後に冷えると歪みが残ります。特に小物部品では、わずかな熱変形でも精度に大きな影響を与えます。

私たちは旋盤加工やマシニング加工の段階で、切削速度、送り、クーラント(冷却液)の使用など、あらゆる要素を調整して熱応力を管理します。この熱応力を最小限に抑え、ホーニング加工で確実に除去できる範囲内に収めることが、高精度な仕上げへの近道なのです。

固定治具の設計:優しく、しかし強固に

高精度な穴加工では、ワークの保持方法が極めて重要です。

強く締めすぎると材料が歪み、弱すぎると加工中に動いてしまいます。ホーニング加工を正確に行うためには、ワークが歪まないように優しく、かつ強固に保持できる固定治具の設計が求められます。

私たちの工場では、案件ごとに専用の治具を設計・製作することも少なくありません。お客様の部品を最高の状態でホーニング加工に送り出すために、妥協のない治具設計を心がけています。

難材・複雑形状への対応:設備の連携で実現する高精度

ホーニング加工は万能ではありません。特殊な形状や極めて硬い材質には、別のアプローチが必要になることもあります。

焼入れ鋼への対応

焼入れ処理を施した鋼材は非常に硬く、通常の切削工具では加工が困難です。しかし、ホーニング加工(砥粒による研削加工の一種)なら、焼入れ後の鋼材でも穴の内面を仕上げることが可能です。

焼入れ鋼の穴加工では、焼入れ前に下穴を開けておき、焼入れ後にホーニング加工で仕上げるという工程が一般的です。このとき、焼入れによる変形を見越して下穴のサイズを調整する必要があります。

こうした工程設計には、材料特性の深い理解と豊富な経験が必要です。私たちは多くの焼入れ鋼加工を手がけてきた経験から、最適な工程をご提案できます。

ワイヤーカット加工との連携

ホーニング加工ができない特殊な形状の穴や、極めて硬く複雑な内面仕上げが必要な場合には、ワイヤーカット加工機を活用することがあります。

ワイヤーカット加工は、電気の力で材料を溶かしながら切断する非接触加工法です。工具が材料に触れないため、硬い材料でも加工でき、複雑な形状にも対応できます。

榊原工機は旋盤、マシニング、ワイヤーカット加工が特に得意です。これらの加工法を統合的に駆使することで、ホーニング加工に匹敵する、あるいはそれを超える高精度な内面仕上げを提供することができます。

ある案件では、複雑な内部形状を持つ焼入れ鋼部品の試作依頼がありました。通常のホーニング加工では対応できない形状だったため、ワイヤーカット加工と精密研削を組み合わせた独自の工程を設計し、お客様の要求精度を満たすことができました。

バリエーション豊かな設備群を活かす

私たちの工場には、5軸加工機、複合加工機、ワイヤーカット加工機など、多様な設備が揃っています。

これらの設備を、多能工のエンジニアが柔軟に使いこなすことで、ホーニング加工の仕上がりを見越した最適な加工法を設計できます。一つの設備だけに頼らず、各工程で最適な設備を選択することが、高品質な製品づくりの秘訣です。

榊原工機の強み:1社で解決できる総合力

ホーニング加工を含む高精度な部品製作では、工程全体を見渡した設計と管理が不可欠です。

お客様の声:困ったときの駆け込み寺

お客様からよくこんな言葉をいただきます。「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多いです」。

この言葉は、私たちにとって何よりも嬉しい評価です。ホーニング加工の前工程(旋削、切削、治具設計)をすべて自社内で高精度に完結できる体制が、この評価につながっています。

複数の業者を経由すると、それぞれの工程で品質のバラつきが生じたり、納期が遅れたりするリスクがあります。私たちは前工程から一貫して管理することで、ホーニング加工の品質を最大限に引き出します。

品質認識の共有

ホーニング加工で得られるべき面粗度や真円度について、お客様との間で認識のズレが生じないよう、丁寧なコミュニケーションを心がけています。

「どのくらい滑らかにしたいのか」「どの程度の真円度が必要なのか」。こうした要求を具体的な数値と加工方法に落とし込むプロセスで、私たちの経験が活きてきます。

図面に書かれた数値だけでなく、その部品がどのように使われるのか、どんな性能が求められるのかまで理解することで、本当に必要な加工精度を見極めることができます。

迅速な対応:スピードも品質の一部

ホーニング加工が必要な部品は、製品のコアとなる重要部品であることが多く、特急案件となることも頻繁にあります。

もしお急ぎの場合は、メールで返信を待つより、直接お電話をいただくことをお勧めします。社長はお話し好きなので、電話で事情を説明していただければ、その場で最短ルートを一緒に考えることができます。

ある案件では、「明日の試験に間に合わせたい」という急なご依頼をいただきました。通常なら数日かかる工程ですが、工程を見直し、優先的に対応することで、翌日の午前中に納品することができました。こうした柔軟な対応も、自社で前工程を完結できる強みです。

当社の技術力の証:自社製品開発と外部評価

私たちの技術力は、日々のお客様対応だけでなく、自社製品の開発や外部からの評価にも表れています。

SAKAKI PUTTERの開発経験

榊原工機は、5軸加工技術を駆使した削り出し製品である高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」を開発しました。

このパター開発を通じて得られた、高精度な切削と仕上げに関するノウハウは、ホーニング加工が必要なレベルの小物部品の少量・試作にも活かされています。

パターのフェース面の精度は、ボールの転がりに直接影響します。わずかな凹凸や歪みも許されません。この経験が、穴の内面という見えない部分の精度追求にも役立っているのです。

私たちはガレージブランドや個人ブランドの試作開発も支援しており、お客様の求める究極の精度と機能性の実現にコミットしています。

業界誌への掲載

2024年4月、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に当社が掲載されました。

これは、私たちの加工法に関する専門性と技術水準の高さが、外部の専門家からも認められていることの証明です。業界誌に取り上げられることは、技術力への信頼につながります。

あたたかい町工場という環境

「工場っぽくない外観が自慢」「木のぬくもりと緑にあふれたあたたかい町工場」。

この環境づくりにもこだわっているのは、お客様がホーニング加工の精度や仕上げに関する難しい相談を、気兼ねなく持ち込めるようにしたいからです。

技術的な話は専門的で難しいものですが、リラックスした環境でお話しすることで、お客様の本当のニーズを引き出すことができます。「こんなこと聞いていいのかな」と思わずに、どんなことでも気軽にご相談いただける雰囲気を大切にしています。

まとめ:ホーニング加工の成功は前工程にあり

ホーニング加工は、小物部品の内面仕上げにおいて、真円度、真直度、面粗度といった極めて高い精度を要求される場合に不可欠な加工法です。

しかし、この技術を成功させる秘訣は、ホーニング加工そのものではなく、その前工程にあります。

旋削・切削加工法で適切な切削代を確保し、熱と応力を管理し、最適な固定治具を設計する。この一連のプロセスに、多能工エンジニアのクリエイティブな思考力が凝縮されています。

榊原工機は、頭を旋盤のように高速回転させ、バリエーション豊かな設備群を駆使することで、お客様の少量・試作における高精度な内面仕上げの難題を、1社で解決しています。

ホーニング加工が必要な高精度な内面仕上げでお困りの際は、精密切削加工のプロであり、機械部品加工の駆け込み寺である私たち榊原工機に、ぜひご相談ください。

お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、私たちはクリエイティブにものづくりをしています。


お問い合わせ ホーニング加工を含む高精度な穴加工のご相談は、お電話またはメールでお気軽にどうぞ。お急ぎの場合は、お電話での直接のご相談をお勧めします。