榊原工機の現場では、マシニングセンタ・NC旋盤・5軸加工機は毎日フル稼働していますが、どれだけ気をつけていてもトラブルはゼロにはなりません。
この記事では、実際の現場で起きがちなトラブルを、初心者の方にもわかりやすく解説しつつ、「どう防ぐか」「起きてしまったらどうするか」を、当社の目線でお伝えします。
榊原工機の現場で起きる「リアルトラブル」とは
榊原工機は、愛知県春日井市で小物部品の少量〜中量生産や試作開発を専門にしている切削加工メーカーです。
手のひらサイズの部品を、マシニングセンタ・NC旋盤・5軸加工機・ワイヤーカットなどを使って加工しており、多品種少量ゆえに段取り替えやプログラム変更が非常に多いのが特徴です。
段取りやプログラムが頻繁に変わると、その分だけヒューマンエラーのリスクも増えます。
また、小さな部品ほどクランプ(ワーク固定)の条件がシビアで、わずかなミスが「寸法不良」や「ワークの飛び」に直結しやすいという難しさもあります。
例えば、ある日の夜勤で、別々のオペレーターが担当していた3台の加工機で、ほぼ同じ時間帯にトラブルが続いたことがありました。
- マシニングセンタ:原点設定の勘違いによる加工ミス
- NC旋盤:チャック力不足によるワークのずれ
- 5軸加工機:工具長設定ミスによる干渉アラーム
それぞれ原因は違いますが、「忙しさと思い込み」が共通の背景にありました。
マシニングセンタで起きがちなトラブルと予防策
マシニングセンタは、フライス加工や穴あけ、タップ加工などを自動で行う工作機械で、X・Y・Z軸方向に工具やテーブルが動いて加工します。
多機能で便利な一方、「原点の勘違い」「クランプ不足」「工具摩耗の見落とし」など、オペレーター側の判断ミスがトラブルにつながるケースが少なくありません。
よくあるトラブルとして、次のようなものがあります。
- 加工原点(ワーク座標)の入力ミスで、材料の想定外の位置を削ってしまう
- ワークの固定が甘く、切削中に動いて寸法不良やバリが増える
- 工具が摩耗・破損しているのに気づかず、面粗さが悪化したり寸法が狂う
「マシニングの原点を勘違いして一発で材料をダメにしてしまった」という経験は、ベテランでも一度は通る道です。
榊原工機でも、ある新人オペレーターがZ方向の原点入力を一桁間違え、工具が一気に突っ込んでしまい、ワークと工具の両方を失ったことがありました。
このようなトラブルに対して、当社では次のような予防策を徹底しています。
- 原点設定は「指差し呼称」と「チェックシート」でダブル確認する
- 初回は必ずエアカット(空運転)やドライランでプログラムを確認する
- クランプ後にダイヤルゲージでワークの振れをチェックし、特に小物は上から+横方向の2方向クランプを基本にする
- 工具寿命を「時間」ではなく「加工個数」でも管理し、摩耗が出る前に交換する
初心者の方には、プログラムをいきなりフル送り・フル回転で動かさず、最初の1個は送りを落として慎重に様子を見るよう指導しています。
「最初の1個を守る」という意識を持つだけでも、致命的なトラブルの多くは防げます。
NC旋盤で起きがちなトラブルと予防策
NC旋盤は、材料を回転させながら工具を当てて削る機械で、円筒形状やネジなどを高精度に加工するのに適しています。
しかし、チャック・バイト(工具)・プログラムのどこか一つでも条件を誤ると、寸法バラつきやビビリ、工具破損など様々なトラブルが発生します。
現場でよく見られるトラブルには、例えば次のようなものがあります。
- バイト摩耗の見落としによる寸法の段々ズレ
- 切削条件が合っておらず、ビビリ振動で面が荒れる
- チャック爪の掴みしろ不足で、ワークが徐々に引き抜ける
- ボールねじやベアリングの劣化による「寸法バラつき」や「異音」
榊原工機でも、薄肉のリング形状を加工した際に、チャックの掴み位置が浅く、仕上げ工程でワークがわずかに動いてしまい、内径が公差外になってしまったことがありました。
見た目は「ほんの少し」のズレでも、μm単位の精度が求められる部品では一発で不良になります。
こうしたトラブルを減らすため、当社では次の点を重視しています。
- チャック爪の掴みしろを図面段階から確認し、必要に応じて専用爪や治具を検討する
- バイトの摩耗は「感覚」ではなく、加工個数・時間・寸法変化の履歴で管理する
- 面粗さが悪化したら、まずは切削条件(回転数・送り・切り込み)の見直しと、バイト材種の再検討を行う
- 機械からいつもと違う音がしたら、すぐにベアリングやボールねじ周りを点検し、必要なら専門業者と連携する
特に、「なんとなくいつもと音が違う」程度の変化を放置すると、後々大きな修理が必要になるケースが多くあります。
日常点検で小さな異変に気づけるかどうかが、設備を長く安定稼働させる鍵です。
5軸加工機ならではのトラブルと注意点
5軸加工機は、工具やテーブルが複数方向に同時に動くことで、一度のチャックで複雑な形状を加工できる高性能な設備です。
その反面、「軌跡がイメージしづらい」「干渉チェックが難しい」といった理由から、プログラムや工具長設定のミスが大きなトラブルにつながりやすい機械でもあります。
5軸で起きやすいトラブルには、例えば次のようなものがあります。
- 工具長補正の番号や値を間違え、テーブルや治具に工具が干渉する
- 加工方向の取り違えにより、削ってはいけない基準面を削ってしまう
- クランプ方法が不適切で、割り出し時にワークが微妙にずれて精度が出ない
実際に、榊原工機でも、5軸加工機で工具長補正の番号を一つずらして入力してしまい、エアカットで気づかず本加工開始直後に干渉アラームが出たことがありました。
幸い、送りを極端に落としていたためワークと工具の軽微な接触で済みましたが、条件によっては大きな破損につながりかねない事例です。
当社では、5軸加工に関して特に次の点を徹底しています。
- CAMで作成したプログラムは、必ずシミュレーションで干渉チェックを行う
- 初回は送りを大幅に落とし、エアカットと低速送りで軌跡を確認する
- 工具長・工具径補正は、工具プリセッタと実ワークで二重に確認する
- 治具設計段階で「干渉しない逃げ」を確保し、クランプ位置を図面上で共有する
5軸加工機は「何でもできる魔法の機械」ではありません。
むしろ、段取りや治具設計、プログラム検証など、事前準備に時間をかけられる工場ほど、そのポテンシャルを安全に引き出せる設備だと考えています。
トラブルを「共有資産」にするための社内の仕組み
榊原工機では、トラブルを隠すのではなく、「会社の資産」として共有する文化づくりに力を入れています。
不良品や失敗事例をただ叱責の材料にするのではなく、「なぜ起きたのか」「どうすれば防げるか」をオープンに議論し、再発防止策まで落とし込むことを大切にしています。
具体的には、次のような取り組みを行っています。
- 加工トラブルが発生した際は、「発生状況」「原因」「対策」を簡潔にまとめたレポートを社内で回覧
- トラブル事例をテーマにした勉強会や社長ブログ・コラムで、若手にも分かりやすく解説
- 不良品をあえて残し、「なぜこうなったか」を新人教育の教材として活用
例えば、「不良品を捨てる覚悟」というコラムでは、不良を出したときに「もったいないから手直しで何とかする」のではなく、お客様に迷惑をかけないために思い切って廃棄し、原因を徹底的に潰す姿勢について紹介しています。
ここで共有されるトラブル事例の中には、マシニング・旋盤・5軸加工機でのリアルな失敗も含まれており、同じミスを繰り返さないための教科書のような役割を果たしています。
こうした取り組みは、お客様から見えないところで品質を支える重要な要素です。
「トラブルゼロ」をうたうのではなく、「トラブルをどう管理し、どう改善に変えているか」を真剣に考えることが、結果的に安定した品質と納期につながると考えています。
発注担当者が知っておくと得する「トラブルを減らす発注のコツ」
実は、加工現場のトラブルの一部は、発注内容や図面の段階で少し配慮していただくだけで、ぐっと減らすことができます。
榊原工機では、見積りや打ち合わせの段階で「この設計だとここが危ないかもしれません」といった形で、可能な範囲で事前にリスクをお伝えするようにしています。
例えば、次のようなポイントを押さえていただくと、トラブル予防とコストダウンの両方につながりやすくなります。
- 公差(許容誤差)は、本当に必要な部分だけを厳しくし、それ以外は少し緩める
- チャックやクランプがしやすい形状・掴みしろを図面上で確保する
- 面粗さや外観の要求レベルを明記し、「ここまでは許容」と伝えていただく
- 試作段階では、将来の量産方法も一緒に相談する
榊原工機のブログやコラムでは、「見積依頼のコツ」「小ロット専門工場との付き合い方」など、発注担当者様向けに具体的なポイントを解説した記事も公開しています。
こうした情報を事前に知っていただくことで、「こんなはずじゃなかった」というトラブルを、図面段階から一緒に減らしていくことができます。
榊原工機がお手伝いできること
榊原工機は、小ロット・試作中心の町工場ですが、5軸加工機・複合加工機・マシニングセンタ・NC旋盤・ワイヤーカットなど、多様な設備を組み合わせて柔軟なものづくりを行っています。
その中で日々蓄積される「リアルなトラブル事例」と「その対策」は、お客様の開発・設計・調達にとっても役立つ情報だと考えています。
具体的には、次のようなご相談に対応しています。
- 新製品の試作で、加工方法やコストを相談しながら形状を詰めたい
- 現在トラブルが多い部品について、加工方法や公差の見直しを一緒に検討したい
- 他社で断られた難加工部品を、小ロットで対応してほしい
「こんな相談をしてもいいのかな?」という段階でも、まずは図面やラフスケッチを見ながら一緒に検討するところから始めることができます。
トラブルの裏側には、必ず「もっと良くできるヒント」が隠れています。榊原工機は、そのヒントをお客様と共有しながら、より良いものづくりを目指していきます。

