ワイヤーカット加工とは?精密加工のプロが解説する基礎知識

2025年11月10日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに

愛知県に拠点を置く有限会社榊原工機は、「あたたかい町工場」として地域に根ざしながら、精密切削加工のプロフェッショナルとして多くの企業やガレージブランドの少量・試作開発を支えています。

お客様からは「機械部品加工の駆け込み寺的存在」と評価をいただくことも多く、それは私たちがいつもベストパフォーマンスで応えるために、クリエイティブにものづくりをしているからだと自負しています。

そのベストパフォーマンスを実現する上で不可欠な技術の一つが、極めて高い精度を誇る「ワイヤーカット加工」です。

本記事では、ワイヤーカット加工の基礎知識から、当社がこの技術をどのように活用してお客様の難題解決に貢献しているのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。発注をご検討中の担当者様、あるいは技術者としてのキャリアアップを目指す皆様に、榊原工機の持つ確かな専門性と、難題を1社で解決できる力をお伝えできれば幸いです。

ワイヤーカット加工の基礎知識

ワイヤーカット加工とは何か

ワイヤーカット加工は、正式には「ワイヤー放電加工」と呼ばれる技術です。直径0.05mmから0.3mm程度の細い金属線をワイヤー電極として使用し、加工したい材料との間に電圧をかけます。すると放電現象が起こり、その熱で材料を溶かしながら切断していくのです。

これは「非接触加工法」と呼ばれ、工具が直接材料に触れることがありません。この特徴が、ワイヤーカット加工の大きな強みになっています。

例えば、普通の包丁で豆腐を切ろうとすると、どうしても押しつぶしてしまいますよね。でも、レーザーのように触れずに切ることができれば、豆腐の形を崩さずに綺麗に切断できます。ワイヤーカット加工は、まさにそのような原理で金属を加工する技術なのです。

ワイヤーカット加工の3つの特徴

ワイヤーカット加工には、他の加工方法にはない優れた特徴があります。

高い加工精度

ワイヤー径自体が非常に細く、熱による変形や切削抵抗が発生しないため、μm単位(マイクロメートル、1000分の1ミリメートル)という非常に高い精度で複雑な形状を切り出すことができます。微細な穴や傾斜面など、通常の切削加工では困難な形状も実現可能です。

硬い材質への対応

放電現象は材料の硬度に関係なく加工を進めることができます。例えば、切削が困難な焼入れ鋼のような非常に硬い材質に対しても、容易に追加工を行うことが可能です。焼入れとは、金属を高温に加熱してから急冷することで硬度を高める熱処理のことで、この処理を施した鋼は通常の工具では加工が非常に難しくなります。

当社では、焼入れ鋼への追加工の可否や現場のリアルな事情についても、お客様からのご相談に応じて情報提供を行っています。

複雑な形状の加工

ワイヤーを傾けて加工する「テーパー加工」や、ワイヤーの動きをNC(数値制御)で正確に制御することで、複雑な抜き形状や金型のコア、キャビティといった部品の製造に用いられます。テーパー加工とは、断面が徐々に細くなる傾斜のある形状を作る加工のことです。

なぜ小物部品の精密加工に不可欠なのか

榊原工機が専門としているのは「手のひらサイズ」を中心とした小物部品の加工です。これらの部品は、自動車、医療機器、電子機器、そして当社の自社製品であるSAKAKI PUTTERのような高級品に組み込まれることが多く、極めて高い寸法精度が求められます。

通常の切削加工では、工具が材料に触れるため、微小な力や熱が発生します。特に薄い部品や微細な形状の場合、歪みや変形が生じやすいという課題があります。

ここでワイヤーカット加工が活躍します。非接触である放電加工は、材料に物理的な力を加えないため、非常に繊細な小物部品であっても、熱によるわずかな影響を除けば、高精度を維持したまま加工を完了できるのです。

当社では、金属も樹脂も相談を受け付けており、この多様な材質への対応力を、ワイヤーカットを含むバリエーション豊かな設備群が支えています。

榊原工機のワイヤーカット活用法

多能工集団によるクリエイティブな工程設計

ワイヤーカット加工機を持っているだけでは、お客様の難題を解決する「駆け込み寺」にはなれません。榊原工機の真の強みは、「考えて動く多能工のエンジニア」が、このワイヤーカットを他の設備とどのように連携させるか、ベストな加工法をクリエイティブに追求する能力にあります。

お客様から部品製作の依頼が来たとき、私たちのエンジニアは単に一つの機械で完結させようとは考えません。常に以下のような思考プロセスを経て、ベストパフォーマンスを発揮します。

まず材料の選択から始まります。角材から削るべきか、丸材から削るべきか。もし5軸加工機や複合加工機が空いていれば、穴加工まで1台で済むかもしれません。しかし、もし今日それらがあいにく2台とも埋まっているとしたら、どうするか。

特急案件であれば、すぐに動けるマシニングセンタと旋盤でどの順番で削るのがベストか、工程を瞬時に組み直します。そして切削や旋削で基本的な形状を出した後、極めて高い精度が求められる部分や、切削工具では困難な鋭角な内角を持つ形状、または熱処理後の硬い部分だけを切り出すために、ワイヤーカットを最終工程として組み込むのです。

こんな感じで、私たちはいつも頭を旋盤のように高速回転させてベストな加工法を考えています。この豊富な経験と知恵が、当社の専門性の源泉です。ワイヤーカットは、切削加工では到達できない精度や、加工の「最後の砦」として活用される、多能工ならではのクリエイティブなツールなのです。

1社で解決できる多能性

お客様が「加工に困った」「納期に困った」という状況になったとき、様々な業者に分散して相談する手間をかけず、「いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」と高い評価をいただいています。

この解決力の背景には、ワイヤーカットをはじめとする多様な設備と技術の統合があります。

例えば、ある複雑な金型部品を製造する場合を考えてみましょう。まずNC旋盤加工で、丸材から基本的な外形や内径の円筒形状を正確に削り出します。次にマシニング加工で、キー溝や側面、穴加工といった切削加工を行い、立体的な特徴を付与します。

その後、部品の強度と耐久性を高めるために熱処理(焼入れ)を行います。この段階で部品は非常に硬くなりますが、最後にワイヤーカット加工を使えば、熱処理によって硬くなった後でも、超精密加工が必要なコア部分や抜き形状を、力を加えずに高精度に切り出すことができるのです。

このように、旋盤、マシニング、ワイヤー加工といった複数の専門技術を多能工のエンジニアがシームレスに連携させることで、複雑な小物部品の少量・試作にトコトン強い解決策を提供できます。

技術情報の公開と透明性

私たちは、技術的な専門性を高めるだけでなく、その知見を広く社会に公開することも大切にしています。

当社のウェブサイトには、「ものづくり事例」のセクションがあり、そこでワイヤーカット加工の基礎知識についての解説記事を掲載しています。これは単なる技術紹介に留まらず、発注者が抱く疑問や業界のリアルな課題に対し、プロの視点から解説を提供する姿勢の現れです。

また、「急ぎで部品加工を発注するときのコツ」や「見積依頼のコツ」など、発注・調達の専門知識についても発信しており、お客様とのコミュニケーションを円滑にするための情報提供にも努めています。月刊「機械技術」に掲載された実績も、外部から専門性が認められている証拠だと考えています。

お客様からの信頼

駆け込み寺としての評価

Googleレビューなど、第三者による評価は当社の信頼性を裏付けています。

お客様からは、榊原工機は「機械部品加工の駆け込み寺的存在のようです」と評されています。また、「精密切削加工のプロ」であり、「材質を問わず様々な加工に対応」できる点が高く評価されています。

特に、ワイヤーカットが関連する精密加工の分野において、「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多いです」というお客様の声は、当社の多能性と技術統合能力が、お客様の具体的なニーズに深く応えていることを示しています。

このような評価をいただけるのは、日々の積み重ねと、お客様一人ひとりに真摯に向き合ってきた結果だと考えています。

特急案件への迅速な対応体制

精密なワイヤーカットを要する部品は、試作段階や緊急の修理・対応で特急案件となることが少なくありません。納期に関する切迫した状況において、榊原工機は迅速な対応体制を整えています。

お急ぎの場合、メールでの返信を待つよりも、社長に直接電話して事情を説明することをお勧めしています。社長はお話し好きなので、直接話すことで、前述したように「頭を旋盤のように高速回転」させ、即座にベストな加工法(マシニングと旋盤、そしてワイヤーカットをどう組み合わせるか)を検討し、迅速な工程を組むことが可能になります。

この人間的な温かさと、プロフェッショナルな迅速な判断力が相まって、お客様の緊急時の「駆け込み寺」としての信頼性を高めています。

あたたかい町工場という環境

技術力だけでなく、榊原工機は働く環境、そしてお客様を迎え入れる環境もユニークです。

工場は「ホームセンターとお風呂屋さんに挟まれたところにある工場に見えない町工場です」。その外観は「工場っぽくない外観が自慢」であり、内部は「木のぬくもりと緑にあふれたあたたかい町工場」となっています。

1階で金属を加工している一方で、2階は「木の温もりを感じる事務所」となっており、来客は階段下のピンポンを押して2階の事務所へ案内されます。さらに、たまに黒猫のノア君が顔を出すこともあり、町工場でありながら、非常にアットホームで開かれた雰囲気を持っています。

この開かれた環境は、技術者がクリエイティブな発想(ワイヤーカットの新しい活用法など)を生み出しやすい土壌を提供するとともに、お客様にとっても相談しやすい、心理的な信頼感につながっていると考えています。

ワイヤーカット加工の実際の活用事例

金型部品への応用

金型部品の製造は、ワイヤーカット加工が最も力を発揮する分野の一つです。金型は製品を大量生産するための型であり、その精度が製品の品質を左右します。

ある自動車部品メーカー様からのご依頼では、プラスチック成形用の金型コア部分の製造を担当しました。この部品は複雑な三次元形状を持ち、しかも公差(許容される誤差の範囲)が±0.01mmという非常に厳しい要求でした。

まず5軸加工機で大まかな形状を削り出し、その後焼入れ処理を施しました。焼入れ後は硬度が非常に高くなり、通常の切削工具では加工が困難です。そこでワイヤーカット加工の出番です。最終的な寸法精度を出すために、ワイヤーカットで仕上げ加工を行い、要求された公差内に収めることができました。

この事例では、ワイヤーカットを最終工程に組み込むことで、熱処理後の硬い材料でも高精度な加工を実現できることが証明されました。

医療機器部品への対応

医療機器の部品は、人命に関わるため、製造業の中でも特に高い品質と精度が要求される分野です。

ある医療機器メーカー様から、手術用器具の部品製造のご依頼をいただきました。この部品は厚さわずか0.5mmのステンレス板に、直径0.3mmの精密な穴を複数開ける必要がありました。通常のドリル加工では、薄い板が変形してしまう恐れがあります。

ここでワイヤーカット加工を採用しました。非接触加工のため、薄い板に物理的な力を加えることなく、高精度な穴あけ加工を実現できました。しかも穴の位置精度も±0.005mmという非常に高い精度で仕上げることができました。

このような医療機器部品の製造では、品質の証明も重要です。当社では加工後の寸法測定データを提供し、お客様に安心していただける体制を整えています。

試作品の迅速な対応

試作品の製造は、当社の得意分野の一つです。特に新製品開発の初期段階では、設計変更が頻繁に発生し、迅速な対応が求められます。

あるガレージブランド様から、新型のカメラマウント部品の試作依頼をいただきました。図面を受け取ったのが金曜日の午後で、月曜日の朝には完成品が必要という非常にタイトなスケジュールでした。

社長が直接お客様と電話で打ち合わせを行い、週末の稼働を決定しました。材質はアルミニウム合金で、複雑な内部形状を持つ部品でした。土曜日にマシニング加工で外形と基本的な内部形状を削り出し、日曜日にワイヤーカット加工で精密な内部スリットを切り出しました。

このスリット部分は幅0.2mmで長さ30mmという細長い形状で、通常のエンドミル(切削工具)では加工が困難でした。ワイヤーカットを使うことで、工具の折れを心配することなく、確実に加工を完了できました。

月曜日の朝、お客様に部品をお届けすることができ、非常に喜んでいただけました。この迅速な対応が可能だったのは、ワイヤーカット加工という技術と、多能工のエンジニアによる柔軟な工程設計があったからです。

まとめ

ワイヤーカット加工は、現代の精密加工において欠かせない非接触技術であり、特に硬い材料や複雑な小物部品の高精度な製造に貢献します。

榊原工機は、このワイヤーカット技術を、旋盤、マシニング、5軸加工機、複合加工機といったバリエーション豊かな設備群の一つとして捉え、多能工のエンジニアが「頭を旋盤のように高速回転」させて最適な工程を設計することで、お客様にベストパフォーマンスを提供しています。

この技術と柔軟性を融合させた結果、私たちは「機械部品加工の駆け込み寺的存在」として、少量・試作における難題を1社で解決できる信頼できるパートナーとなっています。

精密加工の技術を極めることは、オーケストラの指揮に似ています。ワイヤーカットは非常に正確で鋭利な音色を奏でる楽器のようなものです。しかしそれ単独では完璧な曲は完成しません。旋盤、マシニング、そして多能工のエンジニアが、それぞれの特性を理解し、特急案件という楽譜に合わせて瞬時に最適な工程を組み替えることで、初めてベストパフォーマンスという美しい交響曲を完成させることができるのです。

榊原工機は、そのすべてを可能にする、クリエイティブで「あたたかい」ホールのような町工場です。

加工に困った、納期に困った、そんなときはぜひ榊原工機にご相談ください。お急ぎの場合は、メールよりも直接お電話をいただくことをお勧めします。お客様の課題を一緒に解決するために、私たちは常に準備を整えてお待ちしています。