はじめに - 製造現場の厳しい決断
私たち有限会社榊原工機では、日々多くの部品加工を手がけていますが、時には完成した部品を捨てる決断を下すことがあります。
コストと時間をかけて作り上げた部品であっても、求められる品質基準にわずかでも満たなければ、その部品は不良品として処分されます。
この「不良品を捨てる」という行為は、単なる廃棄プロセスではありません。それは、お客様に対する品質への強いこだわりと、プロフェッショナルとしての責任感の現れなのです。
当社は愛知県春日井市に拠点を置き、「機械部品加工の駆け込み寺」として、特に手のひらサイズの小物部品の少量・試作に特化してきました。
「お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、クリエイティブにものづくりをしています」という私たちの姿勢の裏側には、最高品質を維持するための厳しい選別基準があります。
本記事では、なぜ私たちが不良品を捨てるという決断を下すのか、その背景にある技術的・経済的な理由と、品質へのこだわりについて詳しく解説します。
妥協しない品質基準 - プロとしての判断
削り出しが設定する最高水準
不良品を「捨てる」という判断ができるのは、明確な品質基準があるからです。
当社では自社ブランド「SAKAKI Gear」の製品として、高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」を製造しています。このパターは5軸加工技術を駆使し、ステンレスや真鍮といった素材を削り出しによって製造されています。
削り出し加工、つまりビレットミルドは、材料の塊から直接削り出す加工法です。この方法は設計通りの極めて高い精度を実現し、素材本来の均質な密度を保証する、妥協のない加工法といえます。
一度この最高品質の基準を設定してしまうと、それ以下の品質のものは製品として認められません。わずかな公差のズレや表面の小さな欠陥であっても、製品の機能性を損なう可能性があるからです。
たとえばパターの場合、わずかな重心のズレや表面の仕上がりの違いが、打感やバランスに影響を与えます。ゴルファーが求める繊細な感覚に応えるためには、一切の妥協が許されないのです。
この厳格な基準こそが、当社の技術力の証明であり、お客様からの信頼を獲得する基盤となっています。
品質認識のギャップを生まない
部品調達において、発注者と加工業者の間で「品質認識のギャップ」が生じることがあります。
発注者が想定している品質と、実際に納品される部品の品質が異なっていた場合、後の工程で大きなトラブルにつながります。このギャップを最も確実に解消する方法が、基準に満たない部品を絶対に納品しないという姿勢です。
当社が不良品を捨てるという行為は、「納品する部品はすべて、お客様と合意した最高基準を満たしている」という無言のメッセージです。
この姿勢により、お客様は安心して次の工程に進むことができます。検査工程での不良発覚や、組付け時のトラブルといったリスクを回避できるのです。
長期的な信頼関係を築くためには、目先のコスト削減よりも、確実な品質保証が重要だと私たちは考えています。そのため、少しでも基準に満たない部品があれば、躊躇なく廃棄する決断を下します。
不良品が生まれる技術的背景
複雑な加工がもたらすリスク
当社が扱うのは手のひらサイズの小物部品ですが、しばしば非常に複雑な形状を伴います。
これらの部品は、5軸加工機、複合加工機、ワイヤーカットといった、バリエーション豊かな設備群の中から最適な機械を選び、精密な加工ルートを設計しなければなりません。
特に試作や特急案件では、機械の稼働状況に応じて工程を柔軟に組み替える必要があります。たとえば5軸加工機が埋まっている場合、「すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう」といった判断を瞬時に下すこともあります。
この複雑な工程設計の過程で、わずかなプログラムミスや治具固定のズレが発生すると、致命的な不良につながることがあります。
また、難加工材と呼ばれる素材の加工も不良品のリスクを高めます。焼入れ鋼への追加工や、ステンレス、真鍮といった材質は、それぞれ特有の性質を持っています。
たとえば加工中の熱による変位や、工具の摩耗が予想以上に進むことで、公差外れの不良が発生することがあるのです。
当社のエンジニアは、こうした技術的な困難を十分に理解しています。だからこそ、基準を満たさない部品を市場に出すという選択肢は、最初から存在しないのです。
過去のトラブルから学ぶ教訓
不良品の発生は、決して喜ばしいことではありませんが、貴重な学びの機会でもあります。
当社では「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例」を社内で共有し、同じミスを繰り返さないための対策を講じています。
たとえば、ある部品の加工中に予期せぬ寸法のズレが発生したとします。このとき重要なのは、その原因が加工機の熱変位によるものなのか、工具の摩耗によるものなのか、それとも段取りのミスによるものなのかを厳密に特定することです。
原因を特定できれば、次回の加工時には同じ問題を回避できます。工具の交換タイミングを早めたり、プログラムに熱変位の補正を組み込んだり、治具の固定方法を改善したりといった具体的な対策が可能になるのです。
過去のトラブル事例を蓄積することで、エンジニアは新しい部品製作の依頼があったとき、「頭を旋盤のように高速回転させて」最適な加工法を考える際に、不良品発生のリスクを事前にシミュレーションできるようになります。
不良品を捨てるという判断は、この原因究明と再発防止の経験を深めるために不可欠な行為なのです。
コストと納期のジレンマ - それでも品質を守る理由
納期と品質のトレードオフを避ける
「加工に困った。納期に困った」というお客様の切実な要望に応えるため、当社は特急案件にも積極的に対応しています。
しかし、どれほど納期が厳しくても、品質を犠牲にすることは決してありません。
なぜなら、品質基準に満たない部品を納品した場合、その後の検査や組付けの工程で不良が発覚し、手戻りによる納期の大幅な遅延につながるからです。
目先の納期を守るために不良品を納品してしまえば、結果的にお客様のプロジェクト全体が大幅に遅れることになります。これでは本末転倒です。
不良品を捨てる判断は、結果として、お客様の最終的な納期リスクを最小限に抑えるための戦略でもあるのです。
当社では特急案件の場合、メールで返信を待つより、直接お電話いただくことをお勧めしています。社長は話し好きですので、お電話で緊急性と品質要件を正確に共有していただければ、最速で工程を組み替えることが可能です。
この柔軟な対応力と、品質を守るという確固たる姿勢のバランスこそが、当社の強みといえるでしょう。
見積もりに含まれる品質保証のコスト
不良品が発生した場合、そのコストは当社が負担することになります。
お客様からいただく加工費には、材料費や加工時間だけでなく、段取り費や管理費といった項目が含まれています。この管理費の中には、不良品のリスク管理や厳格な検査にかかる費用も含まれているのです。
当社が公開している「発注担当者必読!見積依頼のコツと部品加工の見積内訳を徹底解説」では、こうしたコストの構成を詳しく説明しています。
見積もり価格が他社より少し高いと感じられることがあるかもしれません。しかし、その差額は品質保証のための投資であり、お客様が安心して次の工程に進むための保険でもあるのです。
安さだけを追求して品質をおろそかにすれば、結果的に不良品による手戻りや再製作のコストが発生し、トータルでは高くつくことになります。
海外調達との違い – 国内加工の信頼性
近年、コスト削減のために海外調達を検討される企業も増えています。特に中国調達は価格面で魅力的に見えることがあります。
しかし、海外調達には品質認識のギャップや納期遅延といったリスクが伴います。当社が公開している「中国調達のリアル – 現場から見るトラブル事例と対応策」でも、こうした課題について詳しく解説しています。
不良品が納品された場合、再生産の確実性や対応のスピードが問題になることが少なくありません。言語や時差の壁もあり、細かな品質要件を正確に伝えることが難しいケースもあります。
これに対し、不良品を確実に「捨てる」ことで品質を保証する国内のプロフェッショナルとの取引は、価格以上の信頼性と安心感を提供します。
何か問題が発生した場合でも、すぐに電話で相談でき、迅速に対応できるという利点は、特に試作や特急案件では大きな価値を持ちます。
集中できる環境づくり
不良品を捨てることは最後の手段です。私たちの真の目標は、不良品を極限まで減らすことにあります。
高精度な加工を長時間続けるには、高い集中力とモチベーションが必要です。そのために当社では、働きやすい環境づくりに力を入れています。
当社の工場は「工場っぽくない外観が自慢」で、2階の事務所は木の温もりを感じる空間になっています。こうした「あたたかい町工場」としての環境は、エンジニアがリラックスしつつも集中できる土壌を提供します。
複雑な加工ルートやプログラム作成に際して、ストレスの少ない環境で作業できることは、ミスの削減に直結します。考えて動く多能工のエンジニアたちが、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることも、品質管理の重要な要素なのです。
クリエイティブな挑戦を支える品質基準
当社は、ガレージブランドや個人ブランドの試作開発も積極的に支援しています。
クリエイターが追求するユニークで複雑なアイデアは、通常よりも不良品のリスクを伴うことがあります。前例のない形状や、挑戦的な加工方法が求められるからです。
しかし、私たちは「クリエイティブにものづくりをする」という姿勢で、そのリスクを管理し、最高精度の製品を確実に作り上げます。
不良品を減らすための工夫こそ、多能工のエンジニアの腕の見せ所です。切削振動を防ぐための治具の設計、熱変位を予測したプログラムの微調整、工具選定の最適化など、過去の経験に基づく創造的な解決策が、不良品の発生を未然に防ぎます。
厳格な品質基準があるからこそ、クリエイターの夢を実現する挑戦ができるのです。不良品を捨てる覚悟は、革新的な製品開発を支える土台でもあります。
まとめ - 品質への覚悟が生む信頼関係
不良品を捨てるという行為は、私たち有限会社榊原工機が、お客様に対して一切の妥協のない品質と揺るぎない信頼性を提供する哲学の象徴です。
一時的なコスト損失を許容しても、最終的な製品の品質、そしてお客様のプロジェクトの成功を最優先する。これが私たちのプロフェッショナルとしての倫理観です。
当社が大切にしている価値観をまとめると、次のようになります。
まず、SAKAKI PUTTERの削り出しが示す最高水準を基準とし、品質に関する絶対的な判断権を持つこと。そして、品質認識のギャップを断固として拒否し、手戻りや納期の遅延リスクをお客様から遠ざけること。
さらに、5軸加工や焼入れ鋼など難易度の高い加工における不良リスクを熟知し、不良発生を未然に防ぐ知恵を持つこと。そして、過去のトラブル事例から学び、不良原因を特定し、次の生産に活かすこと。
これらすべてが、少量・試作で培った厳格な品質管理ノウハウに基づいています。
もしあなたが、自身のアイデアを具現化する際に、コスト削減のために品質を妥協することを迫られているのであれば、ぜひ当社にご相談ください。
「不良品を捨てる覚悟」を持つプロフェッショナルとして、あなたの製品を最高水準へと導き、市場での成功を確実にするためのお手伝いをさせていただきます。
高精度な部品加工に関するご相談は、いつでも歓迎しています。お急ぎの場合は、特にお電話での相談をお勧めしています。お客様の課題を直接お聞きし、最適な解決策をご提案させていただきます。

