はじめに:海外調達の現実を知っていますか
製造業の現場では、コスト削減のために中国をはじめとする海外からの部品調達を検討される企業様が増えています。確かに、見積もりの金額だけを見れば魅力的に映るかもしれません。
しかし私たち榊原工機は、愛知県春日井市で精密切削加工を手がける中で、海外調達で困り果てたお客様からの「駆け込み」相談を数多く受けてきました。その経験から、海外調達には表面上の価格では見えないリスクが潜んでいることを実感しています。
今回は、中国調達で実際に発生しやすいトラブル事例をご紹介しながら、国内の町工場である私たちがどのような対応策をご提供できるのかをお話しします。発注担当者の皆様にとって、調達の判断材料としてお役立ていただければ幸いです。
第1章:品質認識のギャップが引き起こす深刻な問題
図面通りのはずが、組み付けできない
海外調達で最も深刻なトラブルの一つが、「品質認識のギャップ」です。これは単なる不良品の問題ではなく、発注側と加工側で品質の基準そのものが異なっているという構造的な問題なのです。
ある日、お客様からこんな相談がありました。「中国で加工した部品が届いたのですが、図面通りのはずなのに組み付けができないんです」。実際に部品を拝見すると、確かに寸法は図面の公差内に収まっています。しかし、公差の上限ギリギリで作られているため、複数の部品を組み合わせた時に累積誤差が発生し、最終的に組み付けられなくなっていたのです。
これは偶然ではありません。発注側は図面に記載された公差を「達成すべき精度の範囲」として認識していますが、加工側は「価格に見合った最低限の基準」として解釈することがあるのです。つまり、同じ図面を見ていても、目指している品質のレベルがまったく違うわけです。
試作段階での品質基準の共有が重要
私たち榊原工機では、試作段階から品質の「基準」を明確に共有することを大切にしています。例えば、削り出しで製作した試作品をお客様にご確認いただき、「この精度を量産でも維持します」と約束します。
特に重要なのは、なぜその公差が必要なのかを一緒に議論することです。「この部分は組み付けに影響するので厳しい公差が必要です」「ここは見た目の部分なので、多少の誤差は問題ありません」といった具合に、部品の機能を理解した上で加工に取り組みます。
このような綿密なコミュニケーションは、対面や電話でのやり取りができる国内調達だからこそ可能なのです。海外調達では、言語の壁や時差もあり、こうした細かな認識のすり合わせが難しくなります。
品質トラブルが企業の信頼を損なう
品質認識のギャップが解消されないまま量産に移行してしまうと、大量の不良品が発生します。その結果、納期は大幅に遅れ、追加の加工費用がかかり、最悪の場合は取引先からの信頼を失うことにもつながります。
目先のコスト削減を優先して海外調達を選んだつもりが、結果的に大きな損失を被ってしまう。こうした事例を、私たちは何度も目にしてきました。
第2章:納期遅延という見えないリスク
「特急対応」の概念が違う
海外調達のもう一つの大きなリスクが、納期の不安定さです。物流や通関の時間がかかることは想定できても、予想外に時間がかかるのが加工現場での優先順位の変動なのです。
中国の工場では、より大きなロットや高利益の案件が優先される傾向があります。日本の発注者が求める少量・試作の案件は、どうしても後回しにされがちです。急ぎの案件が発生しても、「特急対応」の認識が日本とは異なるため、期待したスピード感で対応してもらえないことがあります。
あるお客様は、「1週間後に展示会があるので、どうしてもサンプルが必要なんです」と、海外の工場に特急を依頼したそうです。しかし、「急ぎます」という返事をもらったものの、実際には通常の納期とほとんど変わらず、結局展示会に間に合わなかったということでした。
私たちの「駆け込み寺」としての対応
榊原工機は、「機械部品加工の駆け込み寺」として、特急案件への対応を得意としています。お客様から「明後日までに必要なんです」と相談を受けた時、私たちのエンジニアは瞬時に加工方法を組み立てます。
「この形状なら、マシニングセンタで一気に加工できる」「いや、旋盤とワイヤーカットを組み合わせた方が早い」といった具合に、頭を高速回転させて最適な工程を導き出すのです。
実際、私たちの社長は「もしもお急ぎの場合は、メールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします」とよく言っています。なぜなら、直接お話を伺うことで、どの工程を優先すべきか、どこまで精度を追求すべきかを瞬時に判断できるからです。
柔軟な工程変更ができる体制
国内の町工場の強みは、この柔軟性にあります。海外の大規模工場では、すでに組まれた生産計画を変更することは困難です。しかし私たちのような規模の工場では、お客様の事情に応じて工程を組み替えることができます。
「この案件は今日中に仕上げる必要がある」と判断すれば、他の作業との調整を行い、最優先で対応します。こうした現場の判断力とスピード感が、納期遅延のリスクを最小限に抑えるのです。
第3章:材料と技術力に関するトラブル
指定した材質と違うものが届く
海外調達で頻繁に報告されるトラブルの一つが、材質に関する問題です。発注時には「SUS304で」と指定したはずなのに、実際に届いた部品を調べてみると違う材質だった、というケースがあります。
これは、コスト削減のために安価な代替素材が使用されたり、材料証明書が正確でなかったりすることが原因です。特にステンレスや焼入れ鋼といった特殊な材質の場合、材料の品質が部品の強度や耐久性に直結するため、非常に深刻な問題となります。
ある電子機器メーカー様からの相談では、「海外で作った部品が思ったより早く錆びてしまう」という事例がありました。調査したところ、指定したステンレスのグレードと実際の材質が異なっていたことが判明しました。
複雑な形状加工での精度のバラツキ
5軸加工機や複合加工機が必要な複雑な形状の部品は、海外調達において特に精度が不安定になりがちです。高度な加工機を持っていても、それを使いこなすオペレーターのスキルや、プログラム管理の精度によって、仕上がりに大きな差が出るのです。
私たち榊原工機は、過去に経験したマシニング、旋盤、5軸加工機でのトラブル事例から多くのことを学んできました。例えば、「この材質をこの回転数で削ると、どのくらいビビリが発生するか」「この形状を一度のチャッキングで仕上げるにはどう段取りすべきか」といったノウハウは、長年の経験の積み重ねによって得られたものです。
金属も樹脂も対応できる専門性
榊原工機は、金属も樹脂も含め、様々な材質の加工に対応しています。お客様から「この材質で加工できますか」と相談を受けた時、私たちは材料の特性を理解した上で、最適な加工方法をご提案します。
例えば、アルミニウムと真鍮では切削条件がまったく異なりますし、樹脂の場合は熱による変形を考慮した加工が必要です。こうした材質ごとの特性を理解し、適切に対応できることが、国内の専門業者の強みです。
材質の不確実性というリスクは、信頼できる国内パートナーを選ぶことで根本から排除できます。私たちは、お客様が指定された材質で、確実に加工いたします。
第4章:工程管理の重要性
複数工場にまたがる品質管理の難しさ
海外調達では、切削、熱処理、表面処理といった工程を複数の工場に分散させることが多くあります。これは一見効率的に見えますが、実は工程間の品質管理が不十分になるという大きなリスクを抱えています。
例えば、ある工場で精密に切削した部品を、別の工場で熱処理したところ、熱による変形で寸法が変わってしまったというケースがあります。このような場合、どの工場に責任があるのかが曖昧になり、結局すべてやり直しという事態になることもあります。
お客様の中には、「部品の加工を中国で依頼したら、3つの工場を経由することになって、どこで何が起きているのか把握できなくなった」という方もいらっしゃいました。
一社完結体制の強み
私たち榊原工機の強みの一つは、旋盤、マシニングセンタ、ワイヤーカット加工など、多岐にわたる加工技術を社内で持っていることです。これにより、複数の加工工程が必要な部品でも、一貫して私たちだけで対応できることが多いのです。
「いろいろな業者に相談するよりも、榊原工機1社で解決できる」とお客様に言っていただけることは、私たちの誇りです。一社完結体制だからこそ、工程間での品質管理が徹底でき、寸法の変化や不具合を防ぐことができます。
責任の所在が明確
一社で完結することのもう一つの利点は、責任の所在が明確になることです。万が一トラブルが発生した場合でも、すべて私たちが責任を持って対応します。複数の業者が関わっていると、「前の工程に問題があった」「いや、次の工程で問題が起きた」と責任のなすりつけ合いになることがありますが、そのような心配は不要です。
お客様は安心して私たちに任せていただけます。
第5章:国内調達を選ぶ戦略的な意味
試作段階こそ国内で固めるべき理由
海外調達のリスクを考えると、特に試作や少量生産の段階は、国内の信頼できるパートナーに依頼すべきだと私たちは考えています。
試作品の精度は、量産の未来を映す鏡です。試作段階で高精度な部品を作り、それを基準として設定することで、量産時の品質ブレを許容しない体制を確立できます。榊原工機が削り出しで製作するような試作品は、最高の精度を追求したものです。
例えば、私たちが製作したSAKAKI PUTTERのような製品は、削り出しによる最高品質の証明です。このレベルの精度を試作段階で実現し、「これが基準です」とお客様と共有することで、量産時にも妥協しない品質を維持できるのです。
トラブル発生時の対応力
国内で試作を行うもう一つの利点は、万が一トラブルが発生した時の対応力です。私たちは過去の経験から、「この問題はこう解決できる」というノウハウを蓄積しています。
加工中に予期せぬ問題が発生しても、すぐにお客様と連絡を取り、代替案を提示できます。「この方法では難しいので、工程を変更してこう加工しましょう」といった柔軟な対応が、国内調達では可能なのです。
コミュニケーションのスピード感
海外調達では、メールでのやり取りに時間がかかり、細かなニュアンスが伝わりにくいという問題があります。しかし国内であれば、電話一本ですぐに相談できます。
私たちの社長はお話し好きなので、お客様から電話をいただければ、すぐに対応方法を一緒に考えます。「こういう形状にしたいんだけど、できますか」「この納期で間に合わせる方法はありますか」といった相談に、その場で答えることができます。
このコミュニケーションのスピード感と柔軟性こそが、国内調達の大きな利点です。
第6章:榊原工機が提供できる価値
複雑な形状も形にする技術力
榊原工機は、手のひらサイズの小物部品の加工を得意としています。特に、5軸加工技術やワイヤーカット加工などの高度な技術を駆使して、複雑な形状の部品も形にすることが私たちの腕の見せ所です。
「こんな複雑な形状、本当に作れるんですか」とお客様に驚かれることもありますが、私たちにとっては日常的な仕事です。過去の経験とノウハウを活かして、お客様の要望を実現します。
ガレージブランド・個人ブランドの支援
私たちは、ガレージブランドや個人ブランドの試作開発も積極的に支援しています。大企業だけでなく、個人のクリエイターや小規模なスタートアップの方々が持つユニークなアイデアを、精密な部品として具現化するお手伝いをしています。
「こんなものを作りたいんだけど、どこに頼んでいいかわからない」という相談をよくいただきます。私たちは、そうしたお客様の想いを形にすることにやりがいを感じています。
あたたかい町工場としての姿勢
榊原工機は、「工場っぽくない外観が自慢」の町工場です。2階は木の温もりを感じる事務所になっており、お客様をあたたかくお迎えしています。
このような環境だからこそ、エンジニアたちは柔軟な発想で問題解決に取り組むことができます。お客様の複雑な要望に対しても、クリエイティブな解決策を生み出す土壌があるのです。
まとめ:リスクを避け、確実な品質を手に入れる
中国調達のリアルな現場を見てきた私たちからお伝えしたいのは、コストの安さだけを追求することが、最終的には品質不良、納期遅延、そしてブランドの信頼性低下という大きな代償につながるということです。
もちろん、海外調達がすべて悪いわけではありません。しかし、特に精度が求められる小物部品や、試作段階の製品については、国内の信頼できるパートナーを選ぶことをお勧めします。
榊原工機は、5軸加工や削り出しといった高度な技術力、少量・試作や特急案件への柔軟な対応経験、そして一社完結体制による確実な品質管理により、お客様の部品調達を全面的にサポートいたします。
発注担当者の皆様、部品調達でお困りのことがあれば、ぜひ一度私たちにご相談ください。電話でもメールでも、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。