急ぎで部品加工を発注するときのコツ ~愛知県の金属加工のプロが教える特急対応の実態~

2025年11月30日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:特急案件が持つリスクと私たちの取り組み

愛知県春日井市にある有限会社榊原工機は、「あたたかい町工場」として地域に根差しながら、少量・試作の部品加工を専門に手がけています。お客様からは「機械部品加工の駆け込み寺」とも呼んでいただいており、日々多くの緊急案件に対応しています。

少量・試作の現場では、設計変更や急な不具合により、どうしても「今すぐ部品が必要」という特急案件が発生します。こうした状況では、納期を優先するあまり、加工精度や品質が犠牲になってしまうケースも少なくありません。

私たち榊原工機は、「お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、クリエイティブにものづくりをする」ことをモットーとしています。特急対応だからといって品質を落とすことはありません。むしろ、高度な技術判断と迅速なコミュニケーションによって、品質と納期の両立を実現しています。

本記事では、私たちが日々実践している特急対応の実態と、お客様側が特急案件を成功させるために知っておくべきコツを、現場の声とともに詳しくご紹介します。

特急対応を可能にする技術基盤

特急案件を成功させるには、納期短縮のための技術的な「引き出し」が豊富にあることが不可欠です。私たちが持つバリエーション豊かな設備群と、それを操る多能工のエンジニアの能力こそが、特急対応の基盤となっています。

NC旋盤とマシニングの瞬時の連携

金属加工の基本である旋盤とマシニングは、特急案件の工程設計において最も重要な要素です。

例えば、ある日の午後に特急案件の相談が入ったとします。理想的には5軸加工機や複合加工機を使えば1台で全工程を完結できますが、残念ながらその日は2台とも埋まっている状況でした。

こんなとき、私たちの多能工エンジニアは瞬時に判断します。「特急案件だから、すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう。では、どの順番で削るのがベストだろうか」と。

この思考プロセスは、複数の加工法に精通した多能工だからこそ可能です。NC旋盤加工で円筒形状や基準面を高精度に旋削した後、その基準を活かしてマシニング加工で側面の特徴、つまり穴あけやザグリ加工などを切削します。この連携により、小物部品の加工精度を保ちつつ、納期を最大限に短縮できるのです。

一般的には、「5軸加工機がないと対応できない」と断られるケースでも、私たちは設備の組み合わせと工程の工夫で解決できることが多くあります。

ワイヤー加工の切り札としての役割

金属加工、特に難材の特急案件において、ワイヤー加工は切り札となります。

ある企業様から、焼入れ鋼の追加工が緊急で必要になったというご相談をいただいたことがあります。焼入れ後の鋼は非常に硬く、通常の切削や旋削では対応が困難です。工具の摩耗が激しく、時間もかかります。

ここでワイヤー加工の出番です。ワイヤーカット加工機は、放電現象を利用した非接触の加工法であるため、材質の硬度に関わらず、力を加えることなく高精度な加工が可能です。

この技術により、特急案件で硬材の追加工や、複雑な内部形状の抜き加工が必要になった場合でも、「加工に困った」という状況を1社で解決できる能力を持っています。他社で断られた案件でも、ワイヤー加工を活用することで対応できるケースは少なくありません。

材質を問わない対応力

特急案件では、「理想的な材質が手に入らないけど、手元にある材質で間に合わせたい」というケースもあります。

私たちは金属も樹脂も様々な材質に対応しています。例えば、ステンレス加工は粘りや熱の問題が深刻で、加工が難しい材質として知られていますが、多能工エンジニアは最適な加工法をクリエイティブに設計し、熱変形による加工精度の低下を防ぎながら迅速に部品加工を行います。

材質ごとの特性を理解し、切削条件や工具選定、冷却方法を適切に判断することで、特急案件でも高品質な仕上がりを実現しています。

プロが教える特急対応成功の3つのコツ

急ぎで部品加工を発注する際には、発注する側の準備と、加工業者とのコミュニケーションの取り方が成功の鍵を握ります。ここでは、私たちが現場で実践している3つのコツをご紹介します。

コツ1:電話を活用した迅速なコミュニケーション

特急案件で最も避けなければならないのは、タイムラグです。メールでのやり取りは記録に残るという利点がありますが、返信を待つ時間が生じてしまいます。

もしもお急ぎの場合は、メールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします。実は、当社の社長はお話し好きなので、電話でのご相談は大歓迎です。

社長や担当エンジニアに直接電話で相談することで、以下の情報を瞬時に共有でき、特急対応のベストパフォーマンスを引き出せます。

まず、リアルタイムの状況共有です。なぜ特急案件なのか、例えば組立ラインが停止している、試作の緊急性が高いなどの背景を伝えていただくことで、私たちは単なる納期短縮だけでなく、その部品の機能性と重要度を深く理解できます。

次に、制約条件の確認です。使用する材質は金属か樹脂か、数量はいくつか、そして最も譲れない加工精度はどこか。例えば、特定の穴だけホーニング加工や研削加工が必要な仕上げ面があるかなどを明確にします。

さらに、設備稼働状況の確認もその場でできます。「あいにく今日は2台とも埋まっている」という状況でも、電話であれば「すぐ動けるマシニングと旋盤で工程を組もう」という代替案がすぐに提示され、無駄な待ち時間を避けることができます。

実際のケースとして、ある製造業のお客様から金曜日の午後に「月曜日の朝までに部品が必要」というご相談をいただいたことがあります。メールだけのやり取りでは土日を挟んでしまい間に合わなかったでしょう。しかし、電話で直接お話しすることで、その日のうちに工程を確定し、土曜日に加工を開始、日曜日に仕上げて月曜日の朝に納品することができました。

コツ2:高精度維持のための治具と基準面の明確化

特急案件で「早く削ってほしい」という要求が先行すると、加工精度が落ちるリスクが高まります。特に小物部品の金属加工では、切削時の振動や抵抗による歪みが問題となります。

私たちは、特急案件であっても固定治具の設計を疎かにしません。治具とは、加工する部品を固定するための道具のことで、この設計が加工精度を左右します。

お客様側も、図面上で明確な位置決め基準を示していただくと、私たちはその基準を活かせる治具を迅速に設計できます。原点をどこに取るか、どの面を基準面とするかが明確であれば、治具の取り付けもスムーズです。

榊原工機では、クリエイティブかつ迅速に設計できる固定治具を内製する経験を持っています。例えば、トリマー治具の原理を応用したような工夫により、特急対応時でも加工精度を犠牲にせずに迅速な段取りを実現しています。

ある電子機器メーカー様からの特急案件では、複雑な形状の小物部品を高精度で加工する必要がありました。図面を拝見すると、基準面が明確に指定されていたため、その基準を活かした専用治具を短時間で設計・製作し、高精度な加工を実現できました。もし基準面が不明確だった場合、確認のやり取りで時間を要し、納期に間に合わなかった可能性があります。

コツ3:品質認識のギャップ解消の事前徹底

特急案件で最も避けるべきトラブルは、納品後に「高精度なはずなのに寸法が合わない」「仕上げの面粗度が足りない」と品質に問題が発生することです。

私たちは、「部品調達における品質認識のギャップ解消法」を実践しており、特急案件こそ以下の点を事前に明確にすることが重要だと考えています。

まず、公差の明確化です。すべての寸法に厳しい公差を付ける必要はありません。むしろ、機能性に直結する重要な寸法、特に嵌合部や軸受部など、にのみ厳しい加工精度を明確に指定していただくことで、私たちは限られた時間の中で重要な部分に注力できます。

次に、仕上げ要求の具体化です。表面処理としてアルマイト加工やブラスト加工が必要か、研削加工が必要な面粗度はどの程度かなど、最終的な機能性に関わる仕上げ要求を具体的に伝えていただくことが重要です。

例えば、「できるだけきれいに仕上げてほしい」という抽象的な要求ではなく、「Ra1.6以下の面粗度が必要」といった具体的な数値で伝えていただくと、私たちは適切な加工法を選択できます。

過去には、「高精度で」という漠然とした要求のまま加工を進めてしまい、納品後に「もっと精度が必要だった」というお声をいただいたケースがありました。それ以来、私たちは特急案件であっても、いや特急案件だからこそ、事前の品質認識の共有を徹底しています。

具体的には、図面に公差が記載されていない寸法については、「一般公差でよろしいですか」と確認し、特に重要な部分については「この穴は嵌合に使用されますか」など、用途を確認することで、必要な精度を判断しています。

特急対応を支える「駆け込み寺」としての体制

私たちが特急案件においてベストパフォーマンスを提供し続けられるのは、技術的な総合力とお客様の課題解決に真摯に向き合う姿勢にあります。

1社完結による納期の短縮効果

特急対応において、工程を複数の業者に分担すると、業者間の移動時間や段取り替え、品質の引継ぎに時間がかかり、納期が延びる最大のリスクとなります。

私たちは、「旋盤、マシニング、ワイヤー加工が特に得意」という総合力により、金属加工のほぼすべての工程を1社で解決できる体制が整っています。

お客様からは、「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」という評価をいただいています。これは、1社完結による迅速性と品質保証能力の証です。

実際のケースとして、ある自動車部品メーカー様からの特急案件では、旋盤加工、マシニング加工、ワイヤー加工、そして表面処理まで一貫して対応し、通常であれば3社を経由するところを1社で完結させることで、納期を半分以下に短縮できました。

業界が認める技術力

私たちの特急対応を含む金属加工技術は、外部からも高い評価を受けています。

2024年4月には、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されました。これは、当社の精密切削加工に関するノウハウ、および特急対応におけるクリエイティブな加工法の設計能力が、業界のプロフェッショナルによって認められている証拠です。

また、私たちは透明な情報公開を心がけています。「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例をこっそり公開」することで、お客様が抱える課題や不安に寄り添い、より良い関係を築いています。

失敗や困難な事例を隠すのではなく、それらを共有することで、お客様との信頼関係を深めることができると考えています。

あたたかい町工場としての強み

愛知県に拠点を置く私たちは、日本のものづくりの中核地域で活動しており、地域的なフットワークの軽さも強みの一つです。

私たちの工場は「工場っぽくない外観が自慢」で、「木のぬくもりと緑にあふれたあたたかい町工場」です。この開かれた環境は、お客様が技術的な課題を気兼ねなく相談できる雰囲気を提供しています。

2階の木の温もりを感じる事務所へぜひお越しください。特急案件の複雑な要件を直接すり合わせることで、誤解のない迅速なスタートを切ることができます。

実際に工場を見学していただくことで、私たちの設備や技術力、そして何より人柄を知っていただけます。「この工場なら安心して任せられる」と感じていただけることが、特急案件の成功につながると信じています。

まとめ:特急対応は技術と判断力と対話の結晶

急ぎで部品加工を発注するときのコツは、単なるスピードアップではなく、高精度を維持しながら工程を最短化するための、クリエイティブな思考プロセスと、発注者と加工業者の間の密な対話にあります。

私たち榊原工機は、多能工のエンジニアが頭を旋盤のように高速回転させ、NC旋盤加工、マシニング加工、ワイヤーカットといった加工法を自在に組み合わせることで、特急案件においても常にベストパフォーマンスを追求しています。

特急案件は、病院の救急救命室での対応に似ています。通常の工程を飛び越えて緊急で対応するため、限られた設備と時間の中で、最高のベストパフォーマンスが要求されます。

私たち多能工のプロは、迅速な問診、つまり電話での迅速なコミュニケーションを通じて症状、すなわち材質、加工精度、機能性を瞬時に診断します。そして、旋盤、マシニング、ワイヤーカットといった専門医のような設備をクリエイティブかつ瞬時に組織することで、命綱となる小物部品という名の「救命処置」を高精度で実行するのです。

金属加工の特急対応、特に手のひらサイズの小物部品の少量・試作でお困りの際は、本記事でご紹介したコツを参考に、精密切削加工のプロであり、機械部品加工の駆け込み寺である私たちに、ぜひご相談ください。

電話一本で、あなたの困りごとを一緒に解決いたします。特急案件だからこそ、品質を妥協せず、納期を守る。それが榊原工機の特急対応です。