はじめに:町工場が情報発信する理由
愛知県春日井市にある有限会社榊原工機は、精密部品加工を手がける町工場です。しかし、私たちは単に「部品を削る」だけの会社ではありません。
製造業において、技術力や実績を示すことはもちろん大切です。ですが、それ以上に「どのように課題を解決しているのか」「どんな知識を持っているのか」という専門的な知見を開示することが、現代では求められています。
そこで私たちが力を入れているのが「榊原工機チャンネル」です。これは私たちのウェブサイトのメニューにも掲げている情報発信プラットフォームで、単なる企業紹介ではありません。少量・試作にトコトン強い会社として培ってきた、クリエイティブな課題解決能力を余すことなくお伝えする場所なのです。
本記事では、この「榊原工機チャンネル」が具体的にどのような専門知識を持って、ものづくりの「楽しさ」と「奥深さ」を発信しているのかを、詳しくご紹介します。ここで言う「チャンネル」とは、私たちが提供する情報コンテンツ全体を指しています。
榊原工機の専門性:頭を「旋盤のように高速回転」させるものづくり
Why are we CREATIVE?
私たちが常に自問自答しているキーワードがあります。それは「Why are we CREATIVE?」です。
お客様から部品製作の依頼をいただいたとき、私たちのエンジニアは瞬時に多角的な思考を巡らせます。単に「削れます」という結果だけでなく、その結果を導き出すまでの知的でクリエイティブなプロセスこそが、私たちのコンテンツの魅力なのです。
たとえば、ある部品の製作依頼を受けたとします。そのとき、私たちの頭の中では次のような思考が高速で回転しています。
まず「材料の起点をどこに設定するか」を考えます。材料は角から削ろうか、丸から削ろうか。この選択ひとつで加工時間も精度も変わってきます。
次に「設備の最適な選択」です。5軸加工機や複合加工機が理想的でも、特急案件でそれらが埋まっている場合はどうするか。すぐ動けるマシニングセンタと旋盤で工程を組むといった、現実的なリソース配分を行う判断力が必要になります。
そして「加工順序と治具・プログラムの最適化」を検討します。どの順番で削るのがベストなのか。固定治具はどうするか。プログラムはどう組むか。
この一連の思考プロセスは、まさにものづくりのプロフェッショナルが直面する、高度なパズルを解く楽しさそのものです。私たちはいつも頭を旋盤のように高速回転させて、ベストな加工法を考えています。
お客様のご依頼にいつもベストパフォーマンスで応えるために、榊原工機はクリエイティブにものづくりをしています。この哲学こそが、チャンネル全体を貫く魅力的なコンテンツの源泉となっているのです。
多様な設備と多能工エンジニアの強み
クリエイティブな思考を実現するためには、それを実行するための環境が必要です。私たちの強みは「考えて動く多能工のエンジニア」の存在と、「バリエーション豊かな設備群」が揃っている点にあります。
5軸加工機、複合加工機、ワイヤーカット放電加工機など、多様な設備を柔軟に組み合わせて運用することで、柔軟な小ロット生産を可能にしています。
私たちの得意分野は「手のひらサイズ」の部品を中心とした小物部品加工です。金属も樹脂も問わず対応できる体制を整えています。実際、Googleのレビューでも「精密切削加工のプロ」であり「旋盤、マシニング、ワイヤー加工が特に得意」と評価をいただいています。
このような技術と知恵、そして設備が三位一体となった体制が、他の工場では「困った」「納期に困った」といった難題に対して、榊原工機1社で解決できることが多いという結果につながっています。
小ロット・試作という分野は、大量生産とは全く異なる難しさがあります。毎回異なる形状、異なる材質、異なる精度要求。それらすべてに対して、最適な解を瞬時に見つけ出す。これが私たちの専門性なのです。
三つの柱で構成される「ものづくり事例」コンテンツ
榊原工機チャンネルの主要コンテンツは「ものづくり事例」として分類されています。これは三つのシリーズによって構成され、読者のあらゆる疑問に対応しています。
加工事例シリーズ
最初の柱は「加工事例」です。これは実際の加工に関する具体的なノウハウを共有するシリーズです。
たとえば、特殊な材料を加工したときの工夫や、複雑な形状を実現するための治具の設計、難しい精度要求をクリアするための測定方法など、現場のリアルな知恵を公開しています。
このシリーズでは、単に「こんな部品を作りました」という結果報告ではなく、「なぜその方法を選んだのか」「どんな問題があって、どう解決したのか」という思考プロセスまで含めて発信しています。
製造業に携わる方なら、きっと「あ、この考え方は使える」と思っていただける内容が詰まっています。
「今さら聞けない」シリーズ
二つ目の柱は「今さら聞けない」シリーズです。これは業界の初心者や発注担当者が抱えがちな、基本的な知識やトラブルに関する疑問にプロが答えるシリーズです。
たとえば「ワイヤーカット加工とは?」といった基礎知識の解説があります。ワイヤーカット放電加工は、細い金属線を電極として使い、電気の火花で金属を削る加工方法です。型抜きのような複雑な形状や、硬い材料でも加工できる優れた技術ですが、意外と知られていない特性や注意点があります。
また「中国調達のリアル──現場から見るトラブル事例と対応策」といった、踏み込んだテーマも扱っています。グローバル調達が当たり前になった今、実際の現場ではどんな問題が起きているのか。品質面での苦労、コミュニケーションの難しさ、納期管理の実態など、リアルな情報を発信しています。
このシリーズの目的は、発注する側と製造する側の知識のギャップを埋めることです。お互いが相手の事情を理解できれば、より良い部品製作が実現できます。
「こんなこと聞いたら恥ずかしい」と思わず、ぜひ私たちのコンテンツで学んでいただきたいのです。実は私たちも、お客様から質問をいただくことで新たな気づきを得ることが多いのです。
「プロに聞きました」シリーズ
三つ目の柱は「プロに聞きました」シリーズです。これは発注者目線の具体的な課題解決策を提供するシリーズです。
たとえば「急ぎで部品加工を発注するときのコツ」という記事があります。突然の設計変更や試作の追加、トラブル対応など、製造現場では「急ぎ」の案件が頻繁に発生します。そんなとき、どのように依頼すればスムーズに進むのか。図面の書き方、納期の伝え方、優先順位の付け方など、実務に直結するノウハウを公開しています。
また「見積依頼のコツと部品加工の見積内訳を徹底解説」という記事もあります。見積書を見ても、なぜその金額になるのかわからないという声をよく聞きます。材料費、加工費、段取り費、表面処理費など、見積の内訳を丁寧に説明することで、適正価格の理解につながります。
さらに「焼入れ鋼に追加工は可能?」といった、加工現場のリアルな事情に深く切り込む解説も行っています。焼入れとは金属を硬くする熱処理のことで、焼入れ後の鋼は非常に硬くなります。この硬い材料に追加で穴を開けたり削ったりできるのか。できるとしたらどんな条件が必要なのか。こうした専門的な質問に、現場の経験を基に答えています。
特に好評なのが「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例をこっそり公開」というコンテンツです。失敗から学ぶことの大切さは誰もが知っていますが、実際に自社の失敗を公開する会社は多くありません。
私たちは、工具が折れた話、寸法ミスをした話、材料選定を間違えた話など、正直に公開しています。もちろん、それをどう解決したのか、次にどう活かしたのかまで含めてです。この透明性が、読者の皆さんの学びにつながり、結果として私たちへの信頼を高めていると実感しています。
自社製品開発で証明する技術力
私たちは受託加工だけでなく、SAKAKI Gearという自社製品の開発も行っています。これは単に加工技術があるだけでなく、自らの技術を応用して市場に通用する製品を生み出す能力を持っていることの証明です。
その代表例が「SAKAKI PUTTER」という高級ゴルフパターです。このパターは5軸加工技術から生まれました。
ゴルフパターというと、鋳造や鍛造で作られるイメージが強いかもしれません。しかし私たちは、削り出し技術を駆使してパターを製作しました。ステンレスや真鍮といった高難度な材料を使用し、複雑な曲面を持つヘッド形状を実現しています。
この製品開発には、日々の受託加工で培った技術がすべて詰まっています。材料特性の理解、工具選定のノウハウ、プログラミングの工夫、仕上げの技術。そして何より、ものづくりを心から楽しむ姿勢が形になったものです。
開発ストーリーもコンテンツとして公開しており、多くの方に読んでいただいています。「町工場がゴルフパターを作る」という意外性もありますが、それ以上に「技術者が本気で楽しんでものづくりをしている姿」に共感していただけているようです。
自社製品の開発は、技術的なチャレンジであると同時に、私たちの創造力とクリエイティブな姿勢を示す良い機会になっています。お客様からも「こんな技術があるなら、こういう部品も作れますか?」という新しい相談をいただくきっかけになっています。
温かい町工場としての魅力
私たちの工場は、愛知県春日井市の少し変わった場所にあります。「ホームセンターとお風呂屋さんに挟まれたところにある、工場に見えない町工場」です。
この立地は、従来の無機質な製造業のイメージとは一線を画しています。木のぬくもりと緑にあふれた「あたたかい町工場」を目指しており、1階が金属加工の現場、2階が木の温もりを感じる事務所になっています。
訪問される方は、階段下のピンポンを押して2階の事務所へご案内しています。運が良ければ、黒猫のノア君に会えるかもしれません。ノア君は私たちの工場のマスコット的存在で、時々事務所をパトロールしています。
こうした開かれた、人間味あふれる環境は、高度な技術を持ちながらも敷居が低く、相談しやすいパートナーとしての信頼性を高めています。
「町工場」というと、油まみれで近寄りがたいイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちは、技術力の高さと親しみやすさの両立を大切にしています。最先端の加工機械が並ぶ工場でありながら、温かみのある空間。この両立こそが、私たちの目指す姿なのです。
実際に見学に来られたお客様からは「イメージと全然違った。もっと気軽に相談すればよかった」という声をよくいただきます。技術的な話はもちろん大切ですが、その前に人と人との信頼関係があってこそ、良いものづくりができると私たちは考えています。
迅速で人間味あふれる対応姿勢
私たちは顧客とのコミュニケーションを何より大切にしています。特に納期に追われる切実な発注者に対しては、具体的なアドバイスを心がけています。
Googleのレビューでも「もしもお急ぎの場合は社長はお話し好きなので、メールで返信を待つより電話して事情を説明することをお勧めします」というコメントをいただいています。
これは私たちの迅速な対応への意識の高さと、技術者であると同時に人として課題解決に取り組むという姿勢を示していると思います。メールでのやり取りも大切ですが、急ぎの案件では電話で直接話した方が早く、正確に状況を把握できます。
部品加工における「駆け込み寺的存在」を目指しているのが、私たちの目標です。発注者が抱える不安や困難を、技術とコミュニケーションで解決したい。そう考えています。
たとえば「明日の展示会に間に合わせたい」「週明けの試作テストに必要」といった厳しい納期要求があったとします。もちろん物理的に不可能なこともありますが、できる限りの努力はします。
時には夜間作業や休日出勤も辞さない覚悟で取り組みます。なぜそこまでするのか。それは私たち自身が、ものづくりの現場で困った経験があるからです。部品が間に合わなくて、プロジェクト全体が止まってしまう苦しさを知っているからです。
もちろん、無理な依頼をすべて受けるわけではありません。技術的に不可能なこと、品質を犠牲にしなければ実現できないことは、正直にお伝えします。しかし、可能性がある限り、最大限の努力をする。これが私たちの姿勢です。
結論:榊原工機チャンネルが伝えるものづくりの本質
榊原工機チャンネルとは、単なるウェブサイトのメニュー項目ではありません。少量・試作という難題に、クリエイティブな知恵と技術で立ち向かうプロフェッショナル集団の活動報告書であり、知的好奇心を満たす学習プラットフォームなのです。
ものづくりの楽しさとは、単に製品が完成することだけではありません。材料の選定、工程の設計、トラブルの予見と解決という試行錯誤の過程そのものに楽しさがあります。
私たちは、この知的格闘のリアルな現場を、「プロに聞きました」シリーズや具体的な加工事例を通して、オープンに発信しています。失敗も成功も、悩みも喜びも、すべて包み隠さず伝えることで、ものづくりの本質を理解していただきたいのです。
高度な加工技術、柔軟な対応力、そして親しみやすい環境。これらすべてが融合して、私たち榊原工機のアイデンティティを形成しています。
部品調達や試作開発に携わるすべての方にとって、この「榊原工機チャンネル」は最新の技術動向や発注を成功させるための具体的なコツを学べる貴重な情報源となることを目指しています。
私たちが「旋盤のように高速回転させる」という頭脳労働の結晶こそが、日本のものづくりを支える根幹です。そのプロセスを知ることは、現代の製造業が持つクリエイティブな魅力を理解することにつながります。
これからも榊原工機チャンネルでは、ものづくりの楽しさと奥深さを発信し続けます。技術的な情報だけでなく、私たちの考え方や姿勢、時には失敗談まで、すべてをオープンにすることで、読者の皆さんとより良い関係を築いていきたいと考えています。
ぜひ、私たちのチャンネルを訪れて、ものづくりの世界を一緒に楽しんでください。質問や相談も大歓迎です。私たちは、技術を磨くことと同じくらい、人とのつながりを大切にしています。

