焼入れ鋼への追加工は本当に可能?榊原工機の現場から解説

2025年9月30日
#ブログ
有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

小物部品の精密加工を手がけていると、こんな相談をよく受けます。

「焼入れした部品に穴を開けたいけど、どこも断られてしまって…」

「硬すぎて加工できないって言われるんですが、本当に無理なんでしょうか?」

実は、これらの悩みは製造現場では非常によくある話です。今回は、焼入れ鋼への追加工という難しいテーマについて、私たち榊原工機の経験をもとに詳しく解説していきます。

焼入れ鋼とは何か?なぜ加工が困難なのか

焼入れの基本的な仕組み

焼入れとは、鉄鋼材料を高温に加熱してから急激に冷却する熱処理技術のことです。この処理により、材料の硬度と耐摩耗性が飛躍的に向上します。

具体的な工程を説明すると、炭素鋼を約800度から900度まで加熱し、水や油で急速に冷却します。この過程で鋼の内部組織がマルテンサイトという非常に硬い組織に変化するのです。

さらに「焼戻し」という追加の熱処理を行うことで、硬さを保ちつつ粘り強さも付与できます。工具や金型、ギアやシャフトなどの機械部品に欠かせない処理技術といえるでしょう。

追加工が困難な理由とは

焼入れ後の鋼材は優れた特性を持つ反面、追加工が極めて困難になります。その理由を詳しく見てみましょう。

まず最大の問題は、極めて高い硬度です。焼入れ後の材料は、ロックウェル硬さで50から65HRCという非常に高い数値を示します。これは一般的な切削工具よりも硬いため、通常の加工方法では工具の方が負けてしまいます。

「先日も、他社で断られたお客様がいらっしゃいました。SKD11という工具鋼を焼入れした後に、直径2ミリの穴を5個開けたいという案件でした。確かに通常の加工では工具がすぐに摩耗してしまうんです」

このような状況は決して珍しくありません。

次に、脆性の増加も大きな問題です。硬度が高い材料は脆くもなるため、切削時の衝撃でクラックが発生するリスクが高まります。せっかく精密に作られた部品が、追加工で台無しになってしまう可能性があるのです。

また、加工熱による歪みも無視できません。切削加工では材料と工具の摩擦により高温が発生します。焼入れ鋼は熱処理で内部応力が生じているため、この加工熱により予期せぬ変形が起こることがあります。

現場で実際に起こる問題

私たちの工場でも、焼入れ鋼の加工では様々な課題に直面してきました。

ある時、精密金型部品の修正依頼を受けました。焼入れ済みの部品に幅0.5ミリのスリットを追加する必要がありました。通常の加工方法では工具の摩耗が激しく、さらに加工精度も出せません。

「最初はマシニングセンタで挑戦してみたんです。でも超硬工具を使っても、すぐに刃先が丸くなってしまって。結果的に求められる精度が出せませんでした」

このような経験を重ねる中で、私たちは焼入れ鋼に最適な加工方法を見つけることができました。それがワイヤーカット加工だったのです。

ワイヤーカット加工という解決策

ワイヤーカット加工の原理

ワイヤーカット加工は、電気放電を利用した非接触の加工方法です。細いワイヤー(直径0.05ミリから0.3ミリ程度)を電極として使用し、材料との間で放電を発生させて加工を行います。

この加工方法の最大の特徴は、材料の硬さに左右されないことです。放電エネルギーによって材料を溶融・気化させる原理のため、どんなに硬い材料でも安定して加工できるのです。

焼入れ鋼への効果

焼入れ鋼への追加工において、ワイヤーカット加工は以下のような優れた特性を発揮します。

まず、硬度に関係なく安定した加工が可能です。HRC60を超えるような超硬材料でも、通常の材料と同じように加工できます。これは切削工具では実現できない大きなメリットです。

次に、熱影響が極めて少ないことも重要なポイントです。ワイヤーと材料が直接接触しない非接触加工のため、切削抵抗がありません。瞬間的な放電熱は発生しますが、常に供給される加工液により冷却されるため、材料への熱影響を最小限に抑えられます。

「以前、焼入れしたシャフト部品に keyway(キー溝)を追加する案件がありました。切削加工では熱変形のリスクが高すぎましたが、ワイヤーカットなら寸法精度を保ったまま加工できました」

精度と複雑形状への対応

ワイヤーカット加工のもう一つの強みは、高精度と複雑形状への対応力です。

細いワイヤーを電極として使用するため、ミクロン単位の超高精度な加工が実現できます。また、プログラム制御により任意の経路を辿れるため、切削工具では困難な鋭い内角や複雑な曲線形状も加工可能です。

さらに、非接触加工のためバリやカエリの発生も少なく、後工程での仕上げ作業を大幅に削減できます。これは特に硬い材料では大きなメリットとなります。

榊原工機の技術と設備

多能工エンジニアの存在

私たち榊原工機が焼入れ鋼への追加工を実現できるのは、単に設備があるからではありません。最も重要なのは「考えて動く多能工エンジニア」の存在です。

私たちのエンジニアは、旋盤、マシニング、ワイヤーカットの全てに精通しています。この幅広い知識があるからこそ、材料特性やワークの形状、精度要求、納期、コストを総合的に判断し、最適な加工プランを立てることができます。

「先日も、焼入れしたSKH51(ハイス鋼)の部品に複雑な形状を追加する案件がありました。単純にワイヤーカットだけでなく、事前の段取りや加工順序の工夫により、効率的に仕上げることができました」

バリエーション豊かな設備群

榊原工機では、様々な設備を組み合わせた複合的なアプローチを採用しています。

例えば、焼入れ前の荒加工をマシニングセンタで行い、焼入れ後の精密な仕上げをワイヤーカットで実施するといった工程設計です。お客様のニーズに応じて、最適な設備選択と組み合わせを行います。

「機械は5軸加工機や複合加工機なら一台で完結できることもありますが、設備の稼働状況や加工内容に応じて、マシニングと旋盤を使い分けることもよくあります」

このような柔軟な対応により、様々な焼入れ鋼加工のニーズにお応えしています。

小物部品への特化

私たちは「手のひらサイズ」の小物部品を中心に加工を行っています。小さな部品ほど、わずかな誤差が全体に大きな影響を与えるため、高い技術力が求められます。

焼入れ鋼の小物部品では、微細な穴開けやスリット加工、抜き形状の追加など、高精度が要求される作業が多くなります。多能工エンジニアの熟練技術と最適な設備選択により、これらの困難な加工を実現しています。

実際の加工事例と成功要因

事例1:精密金型部品の修正

ある自動車部品メーカーから、金型の修正依頼を受けました。SKD11を焼入れした金型に、幅1ミリ、深さ10ミリのスリットを追加する必要がありました。

従来の切削加工では工具摩耗が激しく、さらに加工熱により金型が変形するリスクがありました。そこでワイヤーカット加工を採用し、非接触で精密にスリットを形成しました。

「加工後の寸法測定では、要求精度±0.01ミリに対して±0.005ミリの精度を実現できました。お客様からは『他社では断られた加工を、こんなに精度よく仕上げてもらえるとは思わなかった』と喜んでいただけました」

事例2:医療機器部品の穴加工

医療機器メーカーからは、焼入れしたステンレス鋼部品に直径0.8ミリの穴を20個開ける依頼がありました。

この部品は生体内で使用されるため、高い耐食性と強度が必要でした。焼入れにより十分な強度を確保した後、ワイヤーカット加工で精密な穴加工を実施しました。

加工時の熱影響を最小限に抑えることで、材料の特性を損なうことなく、要求される精度を達成できました。

事例3:試作開発での複雑形状

新製品開発を行うベンチャー企業からは、試作品の製作依頼がありました。焼入れした部品に、従来の加工では不可能な複雑な内部形状を追加する必要がありました。

ワイヤーカット加工の特性を活かし、鋭い内角や曲線を組み合わせた複雑形状を高精度で実現しました。この試作品により、お客様は特許出願を行い、製品化へと進めることができました。

お客様が得られるメリット

製品開発の自由度向上

焼入れ鋼への追加工が可能になることで、設計者は従来の加工制約から解放されます。硬度と精度を両立した部品に、さらに複雑な機能や形状を追加できるため、製品の高機能化と小型化を同時に実現できます。

「お客様からよく言われるのは、『焼入れ後でも加工できるなら、設計の幅が一気に広がる』ということです。従来は加工性を考慮して妥協していた部分も、理想の形状で設計できるようになります」

開発コストと時間の削減

焼入れ前後で部品を分割する必要がなくなるため、組み立てコストの削減につながります。また、一体化により部品点数も減らせるため、全体的なコスト削減効果も期待できます。

試作段階では、設計変更に伴う追加工が頻繁に発生します。焼入れ鋼への追加工が可能であれば、新たに部品を作り直す必要がなく、開発期間の短縮にも大きく貢献します。

品質と信頼性の向上

熱影響の少ない加工により、材料本来の特性を損なうことなく追加工を行えます。これにより、製品の耐久性と信頼性が向上し、長期間の使用に耐える高品質な製品を提供できます。

また、バリ取りなどの後工程が削減されることで、作業時間の短縮と品質の安定化も実現できます。

「あたたかい町工場」での相談しやすい環境

アットホームな雰囲気

私たちの工場は、従来の工場のイメージとは大きく異なります。木のぬくもりと緑にあふれた外観は、お客様に「工場らしくない」と驚かれることも多くあります。

ホームセンターとお風呂屋さんに挟まれた立地で、2階には木の温もりを感じる事務所があります。時には人懐っこい黒猫のノア君がお出迎えすることもあり、緊張しがちな技術相談も和やかな雰囲気で進められます。

密なコミュニケーション

このアットホームな環境だからこそ、お客様は「こんなこと相談しても大丈夫かな」という技術的な悩みでも、気軽にお声がけいただけます。

多能工エンジニアは、お客様の漠然としたアイデアや要望をじっくりと聞き、最適な解決策を一緒に見つけ出します。焼入れ鋼への追加工という困難な課題でも、豊富な経験と知識をもとに、具体的な提案を行います。

「急ぎの案件では、メールよりも電話での相談をお勧めしています。直接お話しすることで、より詳しい状況を把握でき、迅速な対応が可能になります」

ワンストップでの解決

榊原工機は「ものづくりの駆け込み寺」として、加工から納期まで様々な相談にお応えしています。焼入れ鋼への追加工という専門的な課題でも、豊富な経験と設備を活かし、ワンストップで解決策を提供します。

お客様からは「いろいろな会社に相談するより、榊原工機一社で解決できることが多い」という評価をいただいており、私たちの総合力を活かした提案を心がけています。

まとめ:諦める前にご相談を

焼入れ鋼への追加工は、確かに困難な技術課題です。しかし、適切な加工方法の選択と豊富な経験があれば、十分に実現可能な技術でもあります。

私たち榊原工機では、ワイヤーカット加工を中心とした最適な技術選択により、多くのお客様の困難な要求にお応えしてきました。多能工エンジニアの知識と経験、そしてバリエーション豊かな設備群を活かし、お客様の製品開発を全力でサポートします。

「他社で断られた」「無理だと諦めている」といった焼入れ鋼への追加工でお困りの際は、ぜひ一度ご相談ください。あたたかい町工場で、お客様のものづくりの夢を現実にするお手伝いをさせていただきます。

【お問い合わせ先】 電話:0568-36-1628(受付時間:9:00-18:00、12:00-13:00除く、土日祝休み) 所在地:愛知県春日井市松河戸町2-5-15

お急ぎの場合は、メールよりも直接お電話いただくことで、より迅速に対応させていただけます。