表面を整える技術:研削加工で実現する高精度と美しい仕上げ

2025年11月22日
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有限会社榊原工機|小物部品の少量~中量生産に特化|ガレージブランド・個人ブランド”の試作開発も

はじめに:切削加工の限界を超える「最終工程」の力

愛知県春日井市に拠点を置く有限会社榊原工機は、地域に根差した町工場でありながら、「機械部品加工の駆け込み寺」として多くのお客様から信頼をいただいています。

私たちが日々行っている旋盤加工やマシニング加工といった切削加工は、材料の塊から必要な形状を迅速に作り出すための主要な加工方法です。しかし、どんなに高度な切削加工であっても、限界は存在します。

特に、ミクロン単位の厳しい寸法精度が求められる場合や、鏡のように滑らかな表面仕上げが必要な場合、切削加工だけでは十分な品質を保証できないことがあります。そこで登場するのが「研削加工」という技術です。

研削加工は、切削加工では到達できない領域に踏み込み、究極の精度と美しい仕上げ面を実現するための、いわば「仕上げの匠」とも言える加工方法なのです。

お客様のご依頼に最高の品質でお応えするために、榊原工機では切削加工と研削加工を適切に組み合わせる工程設計を行っています。この判断を支えているのが、多能工として育成されたエンジニアたちの豊富な経験と知識です。

本記事では、精密切削加工のプロフェッショナルである当社の視点から、研削加工の基本原理、それがもたらす価値、そして小物部品の製造現場における実際の活用方法について、詳しく解説していきます。

研削加工の基本:なぜ高精度が実現できるのか

研削加工とは、砥石(といし)と呼ばれる特殊な工具を使って、材料を微小な量ずつ削り取っていく加工方法です。砥石は、微細な砥粒(とりゅう)という硬い粒子を、結合剤で固めて作られています。

切削加工が刃物で材料を「切る」のに対し、研削加工は数ミクロンという極めて小さな砥粒で表面を「こすり取る」ように削るイメージです。この違いが、研削加工の高精度を生み出す秘密なのです。

微細な切込みが生む寸法精度

研削加工が高い寸法精度を実現できる最大の理由は、一度の切込み量が極めて小さいことにあります。切削加工では最小でも数十ミクロン単位の切込みになりますが、研削加工では数ミクロン、場合によっては1ミクロン以下の調整が可能です。

これは、最終寸法への追い込みを非常に慎重に行えることを意味します。例えば、目標寸法まであと5ミクロンという段階で、1ミクロンずつ様子を見ながら削っていくことができるのです。

この繊細な調整能力が、公差(許容される寸法のばらつき範囲)が数ミクロン以内という厳しい要求に応える力となります。

硬い材料も加工できる強み

研削加工のもう一つの重要な特徴は、焼入れ鋼のような非常に硬い材料に対しても加工が可能だという点です。

焼入れ鋼とは、熱処理によって硬度を高めた鋼材のことです。この処理を施すと材料の強度や耐摩耗性は向上しますが、同時に非常に硬くなるため、通常の切削工具では刃が立ちません。

しかし、研削加工で使用する砥石は、焼入れ鋼よりもさらに硬い砥粒で構成されているため、このような硬材に対しても問題なく加工を進めることができます。

さらに重要なのは、熱処理による変形への対応です。焼入れ処理を行うと、材料には必ず歪み(変形)が発生します。せっかく切削加工で高精度に仕上げた寸法も、焼入れ後には狂ってしまうのです。

この歪みを修正し、必要な精度を確保するために、焼入れ後に研削加工を行うというプロセスが一般的です。つまり、研削加工は「熱処理後でも精度を出せる唯一の方法」として、製造現場では欠かせない技術なのです。

鏡面仕上げがもたらす機能性

研削加工のもう一つの重要な役割は、極めて滑らかな表面仕上げを実現することです。この滑らかさは、単に見た目が美しいというだけでなく、部品の機能に直接影響します。

例えば、シャフトと穴が嵌合する部分や、部品同士が擦れ合いながら動く摺動部(しゅうどうぶ)では、表面が粗いと摩擦抵抗が大きくなり、動きが悪くなったり、摩耗が早く進んだりします。

研削加工によって鏡面に近い仕上げを施すことで、摩擦抵抗を最小限に抑え、製品の性能と寿命を大幅に向上させることができるのです。

また、アルマイト加工などの表面処理を行う際も、前工程の面粗度が最終的な品質を左右します。特に高品質な表面処理を求める場合、研削加工による下地処理が必要となるケースも多くあります。

切削と研削の使い分け:プロの判断基準

切削加工と研削加工は、それぞれに得意分野があり、製造現場では両者を適切に使い分けることが重要です。

切削加工(旋盤やマシニング)は、大量の材料を迅速に除去し、部品の基本形状を作り出すことに優れています。作業効率が高く、複雑な形状にも対応できるため、加工の初期段階から中盤までを担当します。

一方、研削加工は、切削加工では達成できない高精度な寸法仕上げと、極めて滑らかな表面仕上げを実現するための最終段階を担います。作業には時間がかかりますが、その分、最高レベルの品質を保証できます。

私たち榊原工機では、お客様からご依頼をいただいた際、まず要求される精度レベルを詳しく確認します。そして、切削加工だけで十分な品質が得られるのか、それとも研削工程を組み込む必要があるのかを、経験に基づいて判断しています。

この判断は、単に図面の公差を見るだけでは不十分です。部品がどのような用途で使われるのか、どのような環境で機能するのか、そして納期やコストの制約はどうなのか。これらの要素を総合的に考慮して、最適な加工プロセスを設計することが、プロとしての責任なのです。

多能工エンジニアが設計する研削への道のり

榊原工機では、研削加工そのものを外部の専門業者に依頼するケースも多くあります。しかし、研削加工の品質を最大限に引き出すためには、その前工程である切削加工の設計が極めて重要です。

ここで活躍するのが、当社が誇る多能工のエンジニアたちです。彼らは「頭を旋盤のように高速回転させて」最適な加工方法を常に考えています。

研削代の設計という高度な技術

研削加工を成功させるための鍵の一つが、「研削代」の設定です。研削代とは、切削加工の段階で意図的に削り残しておく余裕のことで、この量を適切にコントロールすることが非常に重要です。

多能工のエンジニアは、まず部品の材質を見ます。ステンレスのように熱に弱い材質なのか、それとも焼入れ鋼のように硬い材質なのか。材質によって、切削加工時に発生する熱や応力の影響が大きく異なるからです。

次に、その材質特性から、加工中にどの程度の歪みが発生するかを予測します。この予測は、過去の経験と材料力学の知識を組み合わせた、まさに職人技と言える領域です。

そして、予測した歪みを確実に除去できるだけの研削代を設定します。研削代が多すぎると研削加工に時間がかかり、砥石の摩耗も激しくなってコストが上がります。逆に少なすぎると、歪みが取りきれずに最終的な精度が出せません。

この絶妙なバランスを見極めることが、多能工としての腕の見せ所なのです。

固定治具の連携という視点

研削加工を行う際、部品をどのように固定するかも重要な課題です。固定方法が不適切だと、加工中に部品が動いたり、固定による歪みが発生したりして、せっかくの高精度加工が台無しになってしまいます。

経験豊富なエンジニアは、切削工程で使用する固定治具(部品を固定するための道具)を設計する段階で、すでに研削加工のことも考えています。

例えば、切削工程で使った基準面を、そのまま研削加工の基準としても使えるように工夫したり、逆に研削加工専用の固定方法を想定して、あらかじめ基準となる面を作っておいたりします。

このような先を見通した工程設計ができるのは、一つの工程だけでなく、製品が完成するまでの全体像を理解している多能工ならではの強みです。

研削加工と他の高精度加工技術の組み合わせ

研削加工は切削の限界を超える技術ですが、高精度な仕上げを実現する方法は研削だけではありません。多能工のエンジニアは、これらの技術を状況に応じて使い分け、組み合わせています。

ワイヤーカット加工との連携

ワイヤーカット加工は、細い金属製のワイヤーに電流を流し、放電の熱で材料を溶かしながら切断する加工方法です。工具が材料に直接触れないため、非接触加工とも呼ばれます。

焼入れ鋼のような硬い材料に複雑な形状の穴を開ける場合、切削加工では工具の摩耗が激しく現実的ではありません。研削加工でも可能ですが、複雑な形状には向いていません。

このような場合、ワイヤーカット加工が威力を発揮します。また、研削加工と組み合わせることで、ワイヤーカットで形状を作り、研削加工で表面を仕上げるという工程も可能です。

ホーニング加工という選択肢

ホーニング加工は、穴の内面仕上げに特化した加工方法です。研削加工と同じく砥粒を使いますが、より低い圧力で、ゆっくりと内面を磨き上げていきます。

この方法により、極めて高い真円度(円の真円に近い度合い)と優れた面粗度を実現できます。油圧機器のシリンダー内部など、高い密閉性と滑らかな摺動性が求められる部品では、ホーニング加工が選ばれることが多くあります。

研削加工とホーニング加工のどちらを選ぶかは、部品の用途や精度要求、そして納期とコストのバランスを考慮して、経験豊富なエンジニアが判断します。

当社の実績:削り出し製品における究極の仕上げ

榊原工機のオリジナルグッズである高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」は、5軸加工技術を駆使した削り出し製品です。この製品は、当社の技術力を象徴する作品となっています。

パターヘッドのような複雑な立体形状の削り出しでは、高度な切削技術によってかなり高い仕上げ品質が得られます。しかし、さらに高精度が求められるシャフトの嵌合部や、特定の機能面においては、研削加工などの仕上げ工程を組み込むノウハウが重要になります。

この経験は、ガレージブランドや個人ブランドの試作開発を支援する際にも活かされています。お客様が求める「究極の仕上げ」を実現するための技術的な指針として、日々の業務に生きているのです。

お客様から信頼される総合的な対応力

研削加工を伴う高精度な小物部品の製造は、多くの工程を経るため、高い品質管理能力と迅速な対応力が求められます。この総合力こそが、榊原工機がお客様から信頼をいただいている理由です。

ワンストップで解決できる体制

お客様から「加工に困った、納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多い」という評価をいただくことがあります。これは、当社が切削加工から研削加工まで、トータルで品質を管理できる体制を整えているからです。

研削加工で得られる面粗度や精度について、お客様との間で事前に厳密な公差や仕上げ要求を把握し、認識のギャップを解消します。そして、旋盤、マシニング、ワイヤー加工といった多様な加工方法を組み合わせて、研削加工の前工程を最適化します。

外部の研削加工専門業者との連携もスムーズに行い、最高のパフォーマンスと納期を実現しているのです。

特急案件への柔軟な対応

高精度な部品が必要な特急案件では、研削加工の工程をいかに迅速に組み込むかが鍵となります。

もしお急ぎの場合は、メールで返信を待つよりも、直接電話でご相談いただくことをお勧めしています。社長は話好きですので、事情を説明していただければ、すぐに最適な方法を検討いたします。

迅速なコミュニケーションを通じて、多能工のエンジニアが即座に最適な加工方法を検討し、研削加工の業者選定や納期調整を含めた最短ルートを提案します。

当社の工場は「工場っぽくない外観」が自慢で、木のぬくもりと緑にあふれた「あたたかい町工場」です。この開かれた雰囲気は、技術的な困難を気兼ねなく相談できる環境として、お客様からも好評をいただいています。

業界からの評価

当社の技術力は、外部機関からも認められています。2024年4月には、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されました。これは、当社の加工技術や仕上げに関する知見が、業界のプロフェッショナルから高い評価を得ていることの証です。

まとめ:研削加工は高精度を追求する技術の結晶

研削加工は、切削加工の限界を超えて、高精度な寸法精度と究極の表面仕上げを実現するための、不可欠な加工方法です。特に焼入れ鋼や小物部品の製造において、その価値は計り知れません。

研削加工を「ダイヤモンドを磨き上げる最後の職人技」に例えるなら、切削加工は原石から大まかな形を切り出す作業です。切削加工の段階で高精度な形は出ますが、表面はまだ粗く、十分ではありません。

研削加工は、その最終的なカット面を、高精度な寸法に調整しつつ、光を最大限に反射する鏡面仕上げにする、極めて繊細で忍耐強い作業なのです。この仕上げによって初めて、部品は最高の機能性という名の「輝き」を放つことができます。

榊原工機は、研削加工という最終工程までを見据え、多能工のエンジニアが頭を高速回転させながら、複合加工機や5軸加工機を含む多様な設備群を駆使して、最高のパフォーマンスを発揮します。

高精度な仕上げでお困りの際は、精密切削加工のプロフェッショナルであり、創造的な解決策を持つ私たち「機械部品加工の駆け込み寺」に、ぜひご相談ください。お客様の製品を最高の品質に仕上げるお手伝いをさせていただきます。