はじめに:小物部品加工が抱える本質的な課題
こんにちは。有限会社榊原工機です。
私たちは愛知県春日井市で、手のひらサイズを中心とした小物部品の精密切削加工を専門に行っています。お客様からは「機械部品加工の駆け込み寺」と呼んでいただくこともあり、少量生産や試作開発の難題を1社で解決できる体制を整えています。
今回は、私たちが日々実践している「小物部品のマシニング加工で高精度を保つ秘訣」について、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
マシニング加工とは、回転する工具を使って材料を削り、平面や溝、穴、複雑な立体形状を作り出す加工方法です。エンドミルやドリルといった工具を使い、コンピュータ制御で精密な加工を実現します。
しかし、小物部品の場合、この加工で高い精度を維持することは想像以上に困難です。わずかな切削時の抵抗や熱が、部品全体に大きな影響を及ぼしてしまうからです。
私たちはお客様のご依頼に常にベストパフォーマンスで応えるため、クリエイティブにものづくりをしています。この記事では、その具体的な方法論を余すことなく公開します。
小物部品のマシニング加工が難しい3つの理由
手のひらサイズの小物部品でなぜ高精度の維持が難しいのか。まずはその理由を具体的に見ていきましょう。
熱変形のリスクが大きい
切削加工中には摩擦熱が発生します。大きな部品であれば熱が分散されますが、小物部品の場合は体積が小さいため、熱が一箇所に集中しやすくなります。
金属は熱を加えると膨張します。加工中に部品が膨張し、冷却後に収縮すると、求められる寸法精度を満たせなくなってしまうのです。
例えば、100分の1ミリ単位の精度が求められる部品の場合、わずかな熱による膨張でも致命的な誤差となります。
切削抵抗によるたわみの問題
マシニング加工では、工具が材料に力を加えて削ります。この切削抵抗が曲者です。
小物部品や薄肉の部品は、切削抵抗に耐えきれず、わずかにたわんだ状態で加工が進んでしまうことがあります。このたわみが、要求される高精度を損なう主な原因となるのです。
特に長さと直径の比率が大きい部品や、肉厚が薄い部品では、この問題が顕著に現れます。
固定治具の設計が複雑
小物部品を機械にしっかりと固定することも大きな課題です。
部品が小さいため、クランプする(固定する)ための十分なスペースがありません。強く固定しようとすると、その固定力自体が部品を歪ませてしまうリスクがあります。
かといって弱く固定すれば、加工中に部品が動いてしまい、精度が出ません。この絶妙なバランスを取ることが、小物部品加工の難しさの核心部分です。
当社の設備が提供する高精度の基盤
私たち榊原工機が高精度なマシニング加工を実現できるのは、バリエーション豊かな設備群を揃えているからです。
5軸加工機による多面加工
当社の5軸加工機は、ワークを傾けて多面加工を一括で行うことができます。
通常のマシニングセンタは3軸(X、Y、Z方向)の動きしかできません。しかし5軸加工機は、これに加えて回転軸が2つあるため、複雑な角度からの加工が可能です。
最大の利点は、段取り替え(部品の付け替え)を最小限に抑えられることです。段取り替えのたびに位置ズレのリスクが生じますが、5軸加工機なら一度の固定で複数面を加工できるため、高精度を維持しやすくなります。
特に複雑な立体形状の削り出しに威力を発揮します。
複合加工機の工程集約力
複合加工機とは、旋削加工とマシニング加工を1台で実行できる機械です。
旋削加工とは、材料を回転させて円筒形状を作る加工方法です。旋盤で行う加工と考えていただければわかりやすいでしょう。
円筒形状を含む小物部品の場合、複合加工機を使えば旋削とマシニングを同じ固定状態で連続して実行できます。これにより、工程間での位置ズレをゼロにでき、高精度化に大きく貢献します。
5軸加工機や複合加工機なら、穴加工まで1台で完結できる能力があります。これは精度維持の強力な武器となっています。
秘訣その1:頭を旋盤のように高速回転させる加工法の設計
マシニング加工で高精度を保つ最大の秘訣は、機械の性能だけではありません。それを操るエンジニアの思考プロセスにあります。
クリエイティブな工程設計の実際
少量生産や試作の現場では、常に最適な加工法を瞬時に見極めることが求められます。
私たちは「頭を旋盤のように高速回転させてベストな加工法を考える」ことを日々実践しています。これは単なる比喩ではなく、実際の仕事の進め方を表しています。
例えば、お客様から高精度な小物部品の特急案件が来たとします。まずエンジニアは5軸加工機や複合加工機の稼働状況を確認します。
しかし、あいにく今日は2台とも埋まっている。そんな状況も珍しくありません。
このとき、瞬時に計画を切り替える必要があります。代替案として通常のマシニングセンタと旋盤を組み合わせて工程を組むのか。それとも納期を調整して5軸加工機の空きを待つのか。判断が求められます。
マシニングと旋盤の連携技術
マシニングと旋盤を組み合わせて加工する場合、工程の順序が極めて重要です。
一般的には、まず旋盤で円筒形状の基準面を高精度に仕上げます。この基準面を歪ませないように注意しながら、その後マシニングセンタで立体的な切削を行います。
この連携技術は、両方の加工法を熟知した多能工のエンジニアでなければ実現できません。旋盤加工とマシニング加工では、材料の固定方法も切削の考え方も異なるからです。
当社のエンジニアは、旋盤もマシニングも両方を扱える多能工として育成しています。だからこそ、複数の設備を柔軟に組み合わせた加工法を設計できるのです。
加工プログラムの最適化
小物部品のマシニング加工では、加工プログラムの細部にわたる工夫が必要です。
工具の進入経路、退出経路、切込み量、送り速度。これらすべてが熱や振動に影響を与えます。
例えば、急激に工具を材料に当てると大きな切削抵抗が発生し、部品がたわみます。そこで、少しずつ切り込んでいく経路を設定します。
また、同じ箇所に長時間工具が接触すると熱がこもります。そこで、工具の動きを工夫して熱を分散させます。
こうした細かな調整は、過去のトラブル事例から学び、常に更新されていくノウハウです。私たちは失敗から学び、それを次の加工に活かすことで、ベストパフォーマンスを実現しています。
秘訣その2:固定治具の高精度設計による歪み防止
マシニング加工の高精度を物理的に保証するのが、固定治具の設計です。
歪み対策の具体的方法
前述の通り、小物部品はクランプ圧で容易に歪みます。しかし固定しなければ加工できません。
この矛盾を解決するのが、クリエイティブな固定治具の設計です。
当社のエンジニアは、保持力を保ちつつ、ワークに加わる応力を分散させる治具を設計します。一点で強く押さえるのではなく、複数箇所で優しく支えるイメージです。
時には、広い面積でワークを支えるような構造を採用します。トリマー治具の原理を応用し、部品を面で受け止めることで、局所的な歪みを防ぐのです。
治具の内製化がもたらす強み
少量生産や試作開発では、専用治具を迅速に内製することが不可欠です。
当社ではワイヤーカット加工機などの設備を活用して、治具の嵌合部を高精度に加工しています。
治具自体が高精度でなければ、どんなに優れた加工機を使っても製品の精度は出ません。治具の精度が、そのまま製品の精度につながるのです。
外注で治具を作ると時間もコストもかかります。しかし社内で内製できれば、急な仕様変更にも柔軟に対応できます。この内製化の体制が、私たちの強みの一つとなっています。
材質を問わないプロの対応力
マシニング加工の条件は、材質によって劇的に変わります。
ステンレス加工の難しさ
ステンレスは粘りが強く、熱がこもりやすい材質です。
切削時に加工硬化という現象が起きやすく、表面が硬くなってしまいます。こうなると工具の摩耗が激しくなり、精度が落ちていきます。
私たちはステンレスのマシニング加工では、特殊な工具を選定し、クーラント(切削油)の使用方法も工夫しています。熱を効果的に逃がし、加工硬化を最小限に抑える技術が必要です。
焼入れ鋼への追加工
熱処理で硬くなった焼入れ鋼への追加工が必要になることがあります。
通常のマシニング加工では、硬すぎて削れません。この場合、ワイヤーカット加工機との連携を検討します。
あるいは、高硬度工具を用いたハードミリングという技術を使うこともあります。これは超硬工具やCBN工具といった特殊な工具で、硬い材料を削る加工法です。
このように、複数の加工法を統合して問題を解決するのが、私たちのプロの対応です。
「金属も樹脂もご相談ください」と申し上げているのは、こうした幅広い材質への対応力があるからです。
削り出し製品に込めた技術の証明
当社のマシニング加工技術の高精度は、言葉だけではありません。実際の製品で証明しています。
私たちが自社開発した高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」は、5軸加工技術を駆使して削り出しで製作しました。
パターのヘッドには極めて複雑な曲面と、精密な重心設定が求められます。これらはすべて、小物部品の製造ノウハウの結晶です。
この自社での経験が、外部のお客様の案件にも活かされています。特にガレージブランドや個人ブランドの試作開発を支援する際、この実績が大きな信頼につながっています。
実際に自分たちで製品を作った経験があるからこそ、お客様の要望の本質を理解できるのです。
迅速な対応と品質ギャップの解消
小物部品のマシニング加工における高精度な要求は、しばしば特急案件として持ち込まれます。
スピーディーな意思決定
もしお急ぎの場合は、電話でご相談いただくことをお勧めします。
社長はお話し好きなので、メールで返信を待つより、電話して事情を説明していただいた方がスムーズです。
迅速な対話により、エンジニアが頭を高速回転させ、即座にベストな加工法を設計できます。そしてベストパフォーマンスで対応いたします。
品質認識の透明性
私たちは「部品調達における品質認識のギャップ解消法」を公開しています。
マシニング加工後の高精度に関して、お客様との認識ズレを事前に解消する努力を徹底しています。
図面の公差をどう解釈するか、測定方法はどうするか、検査のタイミングはいつか。こうした細かな点を事前に擦り合わせることで、納品後のトラブルを防ぎます。
業界からの評価
当社の精密切削加工の知見は、外部の専門家にも認められています。
2024年4月には、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されました。これは当社の加工法に関する専門性が確立されていることの証明だと考えています。
まとめ:高精度はクリエイティブな思考から生まれる
複雑な小物部品のマシニング加工における高精度を保つ秘訣は、単に高性能な機械を使うことではありません。
それは、多能工のエンジニアが頭を高速回転させ、固定治具の設計から旋盤加工との連携、ワイヤーカット加工の応用まで、すべての工程をクリエイティブに最適化する能力にあります。
私たち榊原工機は、バリエーション豊かな設備群と、この卓越した思考プロセスをもって、お客様の少量生産や試作における高精度なマシニング加工の難題を、1社で解決し続けています。
小物部品のマシニング加工でお困りの際は、精密切削加工のプロである私たちに、ぜひご相談ください。あたたかい町工場でありながら、確かな技術力で皆様のものづくりを支えます。

