はじめに:なぜ穴の加工精度が製品の品質を左右するのか
私たち有限会社榊原工機は、愛知県春日井市に拠点を置く「あたたかい町工場」です。しかし、その温かさの裏には、確かな技術力と柔軟な対応力があります。お客様からは「機械部品加工の駆け込み寺的存在」として信頼をいただいており、小物部品の少量・試作における難題を日々解決しています。
私たちが常に心がけているのは、お客様のご依頼にベストパフォーマンスで応えることです。そのために、榊原工機はクリエイティブにものづくりをしています。このクリエイティブなアプローチが特に求められるのが、高い加工精度が要求される部品の製造です。
部品製造において、穴の加工精度は製品の機能そのものに直結します。シャフトの嵌合、ベアリングの挿入、油圧機器の流量制御など、穴の精度が少しでも狂えば、製品全体の性能が損なわれてしまいます。通常の穴あけ、つまりドリル加工では達成できない、極めて高い寸法精度と滑らかな面粗度が求められる場合があります。そんなときに不可欠となるのが「リーマ加工」という仕上げ加工法です。
本記事では、精密切削加工のプロである私たち榊原工機の視点から、リーマ加工の基本的な役割と、加工後の品質を確実に確保するための技術的な要点について、詳しく解説していきます。
リーマ加工とは何か?高精度を実現する仕組み
リーマ加工(Reaming)とは、ドリルやボーリング加工によって開けられた穴の内面を、非常にわずかな量だけ切削し、穴径の精度と真円度、そして面粗度を向上させるための仕上げ加工法です。
リーマ加工の定義と目的
リーマ加工は、主に以下の三つの目的で実行されます。
まず一つ目は、寸法精度の大幅な向上です。通常のドリル加工では、直径の精度、つまり公差は比較的粗くなります。しかし、リーマ加工を用いることで、マイクロメートル単位の非常に厳しい寸法公差を達成することが可能になります。これは、精密な嵌合が求められる部品には欠かせない要素です。
二つ目は、面粗度、つまり表面の滑らかさの改善です。穴の内面をきれいに仕上げることで、摩擦抵抗を減らし、嵌合部品の寿命や機能性を向上させます。滑らかな表面は、部品同士の動きをスムーズにし、摩耗を軽減します。
三つ目は、真円度・真直度の改善です。ドリル加工で発生しがちな穴の歪みや曲がりを修正し、より真円に近い、軸に沿った正確な穴形状を確保します。これにより、軸やシャフトが正確に通り、部品全体の機能が最大限に発揮されます。
リーマ加工は、穴の加工において、切削と研削の中間に位置する、高精度な仕上げを必要とする部品製造には欠かせない加工法なのです。
品質を確保するためのリーマ加工の基本要件
リーマ加工で加工後の品質を確保するためには、三つの基本要件を厳守しなければなりません。
一つ目は、「切削代」の適切な設定です。切削代とは、仕上げ加工で削り取る量のことを指します。リーマ加工は、あくまで仕上げ加工法であり、一度に大量に削り取ることはできません。リーマの刃先を保護し、安定した切削を行うためには、前工程であるドリル加工やボーリング加工で削り残す量を、直径で0.1ミリメートルから0.3ミリメートル程度など、材質や穴径に応じて厳密に管理する必要があります。削り代が多すぎると、リーマに無理な負荷がかかり精度が落ちます。逆に少なすぎると、十分な切削が行えず面粗度が改善されません。
二つ目は、適切な工具選定です。リーマ加工に使用する工具、つまりリーマは、材質や穴径、そして要求される加工精度に応じて、ハイス鋼、超硬、あるいはコーティングされたものを選定する必要があります。金属も樹脂も、それぞれの特性に合わせた工具選びが重要です。また、穴の長さや形状によっては、工具の剛性を高める工夫も必要となります。
三つ目は、加工条件の厳密な管理です。低速で安定した回転数と、一定の送り速度を保つことが、高精度なリーマ加工の鉄則です。回転数を上げすぎると摩擦熱が発生し、小物部品では加工後の熱変形を引き起こすリスクがあります。温度管理も含めた総合的な加工条件の設定が、品質を左右します。
これらの要件を熟知し、マシニング加工や旋盤加工の工程で適切にリーマ加工を組み込むことができるのが、精密切削加工のプロとしての私たちの専門性です。
多能工エンジニアが実践するリーマ加工のベストパフォーマンス
リーマ加工の成功は、単にリーマという工具を使うことではなく、その前工程と後工程を含めた、総合的な加工法の設計にかかっています。私たち榊原工機の多能工エンジニアたちは、この複雑な工程をクリエイティブに解決する経験を持っています。
頭を旋盤のように高速回転させる工程設計
お客様から高精度な穴が要求される小物部品の依頼があった際、私たちの多能工は、リーマ加工の前後工程を含め、常に「頭を旋盤のように高速回転させてベストな加工法を考えています」。これは、単なる比喩ではなく、実際に私たちが日々実践している思考プロセスです。
リーマ加工を組み込む際の思考プロセスは、まず前加工の最適化から始まります。リーマ加工は、穴の位置、つまりXY座標を修正する能力はほとんどありません。そのため、前工程のドリル加工やボーリング加工を、マシニングや旋盤で、極めて高い位置精度で実行する必要があります。例えば、旋盤加工で円筒形状の外径を旋削した後、その回転軸の中心に正確に穴を開けるといった連携が求められます。
次に考えるのは、設備の制約と代替案です。もし、5軸加工機や複合加工機なら穴加工まで1台でできる理想的な状況であれば問題ありません。しかし、特急案件の場合、すぐに動けるマシニングと旋盤で工程を組む必要があります。その際、リーマ加工の精度を維持するための固定治具はどのようにすべきか、瞬時に検討します。
さらに、熱と材質への配慮も欠かせません。リーマ加工で発生するわずかな熱や、ステンレス加工のような粘りの強い材質の場合、穴が硬化するリスクを避けるために、クーラントの供給方法や加工条件を繊細に調整します。このような細かな配慮の積み重ねが、高品質なリーマ加工を実現します。
複合加工機・5軸加工技術による工程集約の経験
私たち榊原工機が保有する複合加工機や5軸加工機は、リーマ加工の品質を確保する上で非常に有効です。
これらの設備を使用することで、旋削、つまり外径加工、ドリル加工による主穴あけ、そしてリーマ加工による仕上げまでを1台で完結させることが可能です。段取り替えがなくなることで、特に小物部品において、加工精度を決定づける「位置基準のズレ」が原理的に発生せず、高精度なリーマ加工を安定的に行うことができます。
私たちは5軸加工技術を駆使した削り出し製品である「SAKAKI PUTTER」の開発経験を通じて、単なる切削だけでなく、高精度な加工におけるすべての工程を統括管理する能力を蓄積してきました。この経験が、お客様の様々な要求に対して、最適な加工方法を提案できる基盤となっています。
難材への対応:焼入れ鋼とワイヤーカットの連携
リーマ加工の対象となる穴は、部品の最終的な機能に関わるため、焼入れ鋼への追加工が求められる場合があります。
焼入れ鋼は非常に硬いため、通常の切削や旋削によるリーマ加工は不可能です。この場合、ワイヤーカット加工機、つまりワイヤー加工が切り札となります。ワイヤーカットは非接触の放電加工法であり、材質の硬度に関係なく高精度に加工できます。そのため、リーマ加工ができない硬材に対して、同等またはそれ以上の精度で穴形状を仕上げるために応用されることがあります。
旋盤、マシニング、ワイヤー加工が特に得意である私たちの多能工は、お客様の難題に対し、リーマ加工の限界を超えたクリエイティブな加工法でベストパフォーマンスを提供します。材質や形状、精度要求に応じて、最適な加工方法を選択し、組み合わせることで、どんな難しい依頼にも応えることができるのです。
リーマ加工の品質が築く「駆け込み寺」の信頼
リーマ加工によって保証される高精度な穴の品質は、私たち榊原工機がお客様から「機械部品加工の駆け込み寺的存在」として、揺るぎない信頼を得ている重要な要素です。
難題を1社で解決できる能力
お客様から「加工に困った。納期に困った。いろいろ相談するよりも榊原工機1社で解決できることが多いです」と評価していただけるのは、リーマ加工のような高精度な仕上げを含む多岐にわたる工程を、すべて自社のバリエーション豊かな設備群と多能工の知恵で完結できるからです。
特にリーマ加工の品質を左右する固定治具の設計・製作も自社内で迅速に行えるため、外部委託によるタイムロスや品質リスクを回避し、少量・試作における迅速な対応、つまり特急案件対応を実現しています。お客様が困ったときに、すぐに頼れる存在であること。それが私たちの目指す姿です。
迅速なコミュニケーションと品質の共有
高精度なリーマ加工を成功させるためには、お客様との精度要求に関する正確なコミュニケーションが不可欠です。
私たちは、部品調達における品質認識のギャップ解消についても情報発信しており、お客様との間で要求される加工精度や面粗度に関する認識を円滑に共有する努力をしています。図面だけでは伝わりにくい微妙な要求も、対話を通じて明確にすることで、お客様が本当に求めている品質を実現できます。
もし、リーマ加工を含む特急案件で急ぎの相談がある場合は、社長はお話し好きなので、メールで返信を待つより、電話して事情を説明することをお勧めします。迅速な対話が、多能工によるベストな加工法の選択と、最短納期での提供を可能にします。お客様の声に耳を傾け、すぐに行動する。それが私たちのスタイルです。
業界が認める技術力
リーマ加工を含む精密切削加工における私たちの技術水準は、専門誌にも認められています。2024年4月には、月刊「機械技術」2024年5月特別増大号に掲載されました。これは、私たちの加工法や高精度な仕上げ技術が、業界のプロフェッショナルから高く評価されていることの証明です。
また、私たちは「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例をこっそり公開」することで、リーマ加工を含む加工現場のリアルな事情と、そこから学び、常にベストパフォーマンスを追求する姿勢を透明性をもって示しています。失敗から学び、改善を続ける。その姿勢が、お客様からの信頼につながっていると考えています。
リーマ加工の成功は総合力で決まる
リーマ加工は、高精度な穴を実現するための重要な加工法ですが、その品質は、適切な切削代の設定、工具の選定、そして前後の工程における加工精度の累積によって決まります。
私たち榊原工機は、多能工のエンジニアが頭を旋盤のように高速回転させ、複合加工機や5軸加工機といったバリエーション豊かな設備群を駆使し、リーマ加工を含むあらゆる加工法を統合的に活用することで、お客様の小物部品の少量・試作における最高のベストパフォーマンスを提供しています。
リーマ加工の精度を守るために
リーマ加工の精度を守るためには、工程全体を見渡す視点が必要です。前工程での位置精度、適切な切削代、工具の状態、加工条件、そして冷却方法まで、すべての要素が連携して初めて、高品質なリーマ加工が実現します。
私たちは、これらの要素を一つ一つ丁寧に管理し、お客様が求める精度を確実に実現します。長年の経験と、日々の改善の積み重ねが、私たちの強みです。
お客様の困りごとを解決するために
高精度な穴加工でお困りの際は、精密切削加工のプロであり、クリエイティブな解決策を持つ私たち「機械部品加工の駆け込み寺」にご相談ください。
リーマ加工は、トンネル掘削における最終的な内装仕上げに例えられます。ドリルやボーリング加工は、トンネルを大まかに掘り進める作業に相当し、ある程度の精度は出ますが、表面は荒く、わずかな歪みが残ります。リーマ加工は、そのトンネルの壁面を、列車、つまりシャフトやベアリングがスムーズに、そして安全に通過できるよう、厳密に高精度で均一な形状に整える、最後の「仕上げ加工」です。この仕上げが完璧でなければ、どんなに素晴らしい列車も、最高のベストパフォーマンスを発揮することはできません。
私たち榊原工機の多能工は、この仕上げまでを見据えた工程設計を行う、総合的な加工のスペシャリストです。お客様の製品が最高の性能を発揮できるよう、私たちは全力でサポートします。

