はじめに:複雑形状部品加工の新時代
現代のものづくりは、かつてないほど複雑で精密な加工技術が求められる時代となりました。
特にガレージブランドや個人ブランドの皆様が目指す独創的な製品には、従来の加工方法では実現困難な複雑な曲面や、極めて高い寸法精度が要求されます。
「設計図通りの複雑な形状を、どうやって現実の部品にするのか?」
「一つの部品に複数の加工工程が必要で、段取り替えの回数が多すぎて困っている」
「難しい材質でも、ミクロン単位の精度を実現したい」
これらの課題を解決する鍵となるのが「5軸加工機」です。
愛知県春日井市にある榊原工機では、この5軸加工機を単なる最新設備として導入するのではなく、「クリエイティブなものづくり哲学」と「考えて動く多能工エンジニア」の豊富な経験を組み合わせることで、複雑形状部品加工の新たな可能性を切り拓いています。
今回の記事では、榊原工機がどのようにして5軸加工機の性能を最大限に引き出し、お客様の複雑な要求にお応えしているのか、その技術と実際の加工事例を詳しくご紹介します。
5軸加工機とは?複雑形状加工の「ゲームチェンジャー」
基本原理と従来の3軸加工機との違い
まず、5軸加工機の基本的な仕組みから説明しましょう。
一般的なNC工作機械である3軸加工機は、X軸、Y軸、Z軸という3つの直線方向にのみ工具を移動させて材料を削り出します。これは直角な面や単純な形状の加工には十分ですが、複雑な曲面や傾斜した穴の加工には大きな制約がありました。
一方、5軸加工機はこの3つの直線軸に加えて、工具やワーク(加工対象物)を傾けたり回転させたりする2つの回転軸が追加された工作機械です。
具体的には、A軸、B軸、C軸と呼ばれる回転軸のうち2つが加わり、合計5つの軸を同時に制御することで、工具をあらゆる角度からワークにアプローチさせることができます。
この技術革新により、従来は「加工不可能」とされていた複雑な形状も、一度の段取りで高精度に仕上げることが可能になったのです。
複雑形状加工における圧倒的な優位性
榊原工機のエンジニアが日々実感している5軸加工機の優位性は、主に以下の4つの点に集約されます。
まず第一に、複雑な自由曲面の加工能力です。航空宇宙部品や医療機器部品のような流線型デザイン、三次元的な自由曲面を持つ複雑な形状を、滑らかで高精度に加工できます。これまでの3軸加工機では、このような形状を複数回に分けて加工するか、そもそも製造できなかった領域です。
第二に、一度の段取りでの多面加工です。従来はワークの向きを何度も変える必要があった側面、傾斜面、底面などの加工を、一度の段取りで連続して行えます。これにより、段取り替えに伴う位置決め誤差や作業時間を大幅に削減し、加工精度と効率を飛躍的に向上させます。
第三に、アンダーカット形状への対応です。工具が通常では届きにくい深い溝や逆テーパー、内側の複雑な形状など、従来の加工機では工具干渉によって不可能だった形状も、工具の傾きを自在に調整することで加工が実現できます。
第四に、高精度と表面品質の向上です。工具をワークの表面に対して最適な角度でアプローチさせる「最適傾斜加工」により、工具寿命を延ばしながら、より滑らかで美しい表面仕上げを実現します。
榊原工機の「CREATIVE」なものづくり哲学
「考えて動く」思考プロセスの実践
榊原工機が「いつもベストパフォーマンスでお客様のご要望にお応えするため、クリエイティブにものづくりをしています」と断言できるのは、高性能な5軸加工機を導入しているだけが理由ではありません。
その根底には、設備を最大限に活かすための独自の「考えて動く」ものづくり哲学があります。
部品製作の依頼を受けたとき、榊原工機のエンジニアはまず「頭を旋盤のように高速回転させて」深く考えることから始めます。
「材料はどうしようか?角材から削るか、丸材から削るか?」
「機械選定はどうだろう?5軸加工機なら一度の段取りで完成まで持っていけるが、今日は稼働中だ。特急案件だから、空いているマシニングセンタと旋盤で工程を分けて進めよう」
このような現実的かつ柔軟な判断こそが、榊原工機の強みです。5軸加工機が常に最適解とは限りません。しかし、5軸加工機が最適な選択肢である場合には、その能力を100%引き出すための綿密な計画が始まります。
加工戦略の最適化における重要な要素
5軸加工機を効果的に活用するためには、いくつかの重要な要素を総合的に検討する必要があります。
加工順序の最適化では、「どの面から、どの順番で削るのが最も効率的で、加工歪みを最小限に抑えられるか」を徹底的に検討します。5軸加工機は自由度が高い分、加工パスの設計がより重要になってきます。
固定治具の設計も欠かせません。複雑な形状のワークを安定して固定するため、専用の固定治具をどのように設計・製作するかが加工精度を大きく左右します。5軸加工では段取り替えが不要な分、最初の固定方法が最終的な品質に直結します。
プログラミングの精密さも重要な要素です。複雑な5軸の動きを機械が正確に実行するためのプログラムは、3軸加工機と比較して格段に高度な知識と経験を要求されます。
このように多角的に「考えて動く」クリエイティブなアプローチこそが、榊原工機の多様な設備群の真価を引き出し、他社では困難とされる複雑加工を可能にする原動力となっています。
多能工エンジニアが引き出す5軸加工機の真価
高度な技術スキルと豊富な現場経験
5軸加工機は確かに高性能な機械ですが、その性能を最大限に引き出すには、それを操る人間のスキルと深い知見が不可欠です。
榊原工機が誇る「考えて動く多能工エンジニア」こそが、5軸加工機の真の価値を引き出す鍵となっています。
高度なプログラミングとシミュレーション能力において、多能工エンジニアは複数の軸が複雑に連携する5軸加工機のプログラムを、CAMソフトウェアを駆使して作成します。単に加工パスを生成するだけでなく、工具干渉のチェックや詳細な加工シミュレーションを徹底することで、実際の加工におけるリスクを最小限に抑えています。
この事前検証により、初回から高精度な部品を製作することが可能になっています。
工具と加工条件の最適化も重要な技能です。複雑な形状や難削材を加工する際、使用する工具の種類、形状、材質、そして切削速度、送り速度、切り込み量といった加工条件の選定が加工結果を大きく左右します。
実践的なトラブル対応力
現場では予期せぬトラブルが発生することもあります。榊原工機では「マシニング・旋盤・5軸加工機のリアルなトラブル事例」を蓄積し、多能工エンジニアがそれらを経験と知識として共有しています。
例えば、加工中の振動による仕上げ面の悪化、工具の異常摩耗、プログラムエラーによる機械停止など、様々なトラブルに対して迅速かつ的確に対応できる能力を培っています。
このような実践的なトラブルシューティング能力により、問題が発生した際にも素早く解決し、お客様の製品開発スケジュールに影響を与えることなく進行できます。
材質への幅広い対応力も多能工エンジニアの大きな特徴です。榊原工機では「手のひらサイズの部品を中心に、小物部品なら何でも加工OK。金属も樹脂もご相談ください」としているように、ステンレス、真鍮、アルミ、チタンなどの金属材料はもちろん、エンジニアリングプラスチックなどの樹脂素材の加工にも対応しています。
素材ごとに異なる切削特性を熟知し、5軸加工機で適切な加工条件を設定することで、樹脂特有の熱による変形や溶着を抑え、高精度な加工を実現しています。
加工事例:「SAKAKI PUTTER」に学ぶ5軸加工技術
自社ブランド製品開発への挑戦
榊原工機が5軸加工機を最大限に活用した複雑形状部品加工の能力を示す具体的な事例として、自社製品である高級ゴルフパター「SAKAKI PUTTER」の開発ストーリーをご紹介します。
「SAKAKI PUTTER」は単なるゴルフ用品ではありません。削り出しのステンレスや真鍮を使用し、高い精度と美しい仕上がりを実現したオリジナル製品として、榊原工機の技術力とクリエイティビティが結集されています。
このパター開発の背景には、「お客様の期待を超えるものづくり」という私たちの哲学があります。自社で実際に製品開発を行うことで、お客様が日頃抱えているであろう「デザインの具現化」「素材選定の悩み」「品質へのこだわり」といった課題を、より深く理解できるようになりました。
その過程で、5軸加工技術がパターという複雑な形状を持つ製品において、いかにその真価を発揮できるかを実証することができたのです。
デザイン性と機能性の両立を実現
ゴルフパターは、単にボールを打つ道具ではなく、プレイヤーの感性に訴えかける「デザイン性」と、正確な打感や操作性を生み出す「機能性」の両方が高いレベルで求められる製品です。
SAKAKI PUTTERの開発において、5軸加工機は以下の点で大きく貢献しました。
複雑なソール形状とフェースの精密加工では、パターの性能を決定づけるソール(底面)の形状や、ボールとの接触面であるフェースのミーリングパターンが重要な役割を果たします。これらは非常に複雑な三次元形状を持っており、従来の3軸加工機では複数回の段取り替えが必要でした。
5軸加工機を活用することで、これらの複雑な曲面を一度の段取りで高精度に削り出し、設計通りの重心位置や打感を正確に再現することが可能になりました。
一体加工による剛性と美観の向上も大きな特徴です。多くの市販パターは複数の部品を組み合わせて製造されますが、SAKAKI PUTTERは削り出しによる一体構造を基本としています。
5軸加工機はワークを様々な角度に傾けながら多面加工できるため、複雑な内部形状や外部の滑らかな曲線を継ぎ目のない一体部品として仕上げることができます。これにより、溶接や接着による強度低下の心配がなく、優れた剛性と洗練された美しい外観を両立しています。
5軸加工機がお客様にもたらす価値
圧倒的な高精度・高品質の実現
榊原工機が5軸加工機を最大限に活用することで、お客様は多くの価値を享受していただけます。
まず、圧倒的な高精度・高品質な部品提供が可能になります。5軸加工機は一度の段取りで多面加工が可能なため、段取り替えによる位置決め誤差を根本的に排除し、極めて高い加工精度を実現します。
これにより、公差の厳しい部品や、複数部品の組み付け精度が重要な製品においても、設計通りの品質を安定して提供できます。特に、複雑な曲面を持つ部品や多数の傾斜穴を持つ部品など、これまで困難とされていた形状も高精度で安定した品質で生産することが可能です。
リードタイムの短縮とコスト削減も大きなメリットです。段取り回数の削減は加工時間の短縮だけでなく、全体的な作業効率の向上に直結します。
また、工具交換回数を減らす最適化された加工パスにより、工具寿命を延ばし、生産コスト全体の削減にも貢献します。複数工程を統合できるため、部品製造のリードタイムを大幅に短縮し、お客様の製品開発サイクルを加速させることができます。
設計自由度の向上とイノベーションの促進
デザインの自由度向上と製品イノベーションの加速も重要な価値の一つです。5軸加工機は、これまで加工が困難であった複雑な三次元形状や自由曲面の具現化を可能にします。
これにより、設計者は従来の加工制約から解放され、より創造的で革新的なデザインを追求できるようになります。流体解析に基づいた最適化された形状や、有機的なデザインを持つ部品など、製品の機能性や美観を飛躍的に向上させる設計が現実のものとなります。
多様な材質への対応力も榊原工機の強みです。「金属も樹脂もご相談ください」として、5軸加工機を用いて幅広い材質に対応しています。
ステンレス、真鍮、アルミといった一般的な金属はもちろん、チタンやインコネルなどの難削材、さらにはエンジニアリングプラスチックなどの樹脂素材においても、その特性に合わせた最適な加工条件と工具選定により、最高の品質を引き出します。
少量・試作への特化した対応力
榊原工機は「少量・試作にトコトン強い会社」として、5軸加工機の特性を活かした小ロット生産に特に力を入れています。
5軸加工機は段取り回数を減らし、複雑な形状を一貫して加工できるため、小ロット生産においても高い効率性を発揮します。これにより、お客様は初期投資のリスクを抑えつつ、製品開発の初期段階で高品質な試作品を迅速に手に入れることができます。
特にガレージブランドや個人ブランドの皆様にとって、アイデアを素早く検証し、市場の反応を見ながら製品をブラッシュアップしていく過程において、5軸加工機による小ロット生産は非常に強力な武器となります。
他設備との連携によるシナジー効果
多様な設備群との戦略的組み合わせ
榊原工機は5軸加工機を単独で運用するのではなく、「バリエーション豊かな設備群」と「考えて動く多能工エンジニア」が一体となることで、さらなるシナジー効果を生み出しています。
実際の現場では、「5軸加工機と複合加工機なら穴加工まで1台で完結できるが、今日は2台とも稼働中。特急案件だから、空いているマシニングと旋盤で工程を組み直そう」といった柔軟な判断が日常的に行われています。
複合加工機との連携では、旋削加工(丸物加工)とミーリング加工(削り出し加工)を一台で完結できる複合加工機が、部品によっては5軸加工機と同様に工程集約に貢献します。複雑形状の中に旋削が必要な部分がある場合、5軸加工機と複合加工機を適切に使い分け、または連携させることで、より効率的かつ高精度な加工を実現します。
ワイヤーカット加工との組み合わせも効果的です。ワイヤーカットは熱の影響を抑えながら、ミクロン単位の超精密な切断加工が可能な技術です。
5軸加工機では工具が届かないような内側の角形状や、極めて薄い形状、高硬度材の精密な切り出しなど、それぞれの技術の得意分野を組み合わせることで、さらなる複雑形状や高精度要求に対応できます。
柔軟な生産体制の構築
マシニングセンタ・旋盤との柔軟な連携も重要な要素です。5軸加工機が稼働中でも、汎用性の高いマシニングセンタや旋盤を多能工エンジニアが巧みに組み合わせることで、特急案件や大量の部品加工にも機動的に対応します。
これにより、お客様の納期やコスト要望に合わせた最適な生産計画を立てることが可能になります。この多様な設備群と多能工エンジニアの融合こそが、お客様の「ものづくり」における「駆け込み寺」として、あらゆる課題に対して最適なソリューションをワンストップで提供できる理由です。
各設備の特性を熟知したエンジニアが、案件ごとに最適な加工方法を選択し、複数の設備を効果的に組み合わせることで、単一の設備では実現できない高度な加工を可能にしています。
「あたたかい町工場」が育む技術革新
人間味あふれる環境づくり
榊原工機の工場は、お客様から「工場らしくない」「あたたかい町工場」という評価をいただいています。
木のぬくもりと緑にあふれた外観は、従来の工場が持つ無機質なイメージを一新し、お客様が気軽に技術相談できる雰囲気づくりを大切にしています。
工場はホームセンターとお風呂屋さんに挟まれた立地にあり、1階で精密な金属加工を行っていますが、2階には木の温もりを感じる事務所があります。階段下のピンポンを押して、ぜひ2階の事務所にお越しください。時には人懐っこい黒猫のノア君が皆様をお出迎えすることもあります。
このようなアットホームな環境だからこそ、お客様は「こんな複雑な形状、本当に加工できるだろうか?」「新しい素材を試してみたいのだが…」といった技術的な悩みや、まだ漠然としたアイデアの段階であっても、気軽に相談していただくことができます。
密なコミュニケーションが生む技術革新
多能工エンジニアたちは、お客様の熱い思いや細かなニュアンスをじっくりと聞き取り、5軸加工機をはじめとする設備群と彼らの豊富な知見を融合させ、最適な加工方法を一緒に見つけ出していきます。
「お急ぎの場合は、社長がお話し好きなので、メールで返信を待つより電話して事情を説明することをお勧めします」という言葉が示すように、お客様との密なコミュニケーションを重視し、人間味あふれる対話を通じて、製品への深い理解とより良いものづくりへと繋げています。
単なる技術力だけでなく、この人との繋がりこそが、榊原工機が5軸加工機の可能性を最大限に引き出し、ものづくりの未来を切り拓く上で不可欠な要素となっています。
お客様との信頼関係を基盤として、技術的な挑戦を続け、新たな加工技術の開発や改善を日々積み重ねることで、5軸加工機の活用範囲をさらに広げています。
お問い合わせ・まとめ
あなたのアイデアを現実のものに
ガレージブランドや個人ブランドの皆様、そして複雑な形状の部品加工に挑戦したいすべての皆様へ。
あなたの素晴らしいアイデアは、榊原工機の「5軸加工技術」と「クリエイティブなものづくり哲学」によって、確実に現実のものとなります。
試作開発に関するご相談、お見積りのご依頼、あるいは「こんな特殊な加工は可能でしょうか?」といった技術的なご質問まで、どのようなことでもお気軽にお問い合わせください。
私たちは、お客様の「ものづくり」における最高のパートナーとして、常に最適な解決策をご提案することをお約束いたします。
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お急ぎの場合のアドバイス お急ぎの場合は、メールでの返信を待つよりも、直接お電話いただくことをお勧めします。当社の社長は「お話し好き」ですので、直接状況を説明していただくことで、より迅速に対応させていただくことが可能です。
所在地 〒486-0932 愛知県春日井市松河戸町2-5-15
榊原工機は、お客様の「ものづくり」の夢を現実にするため、技術と知恵を総動員し、全力でサポートいたします。5軸加工機が持つ無限の可能性を、ぜひあなたの製品開発にご活用ください。

