「図面どおりに作ったのに、キズがあるから不良だと言われた」──加工の現場でよく聞く言葉です。発注する側からすれば「キズがあれば不良」というのは当然でしょう。一方で加工側から見ると、寸法は公差(許される寸法の幅)に入っていても「キズ」でNGになって返品されることがあります。やっかいなのは、その「キズ」の基準が会社によってまったく違うことです。
そこで今回は「加工品のキズと打痕の基準」について、愛知県春日井市の金属加工メーカー・榊原工機の榊原社長に聞いてきました。1989年の創業以来、毎日さまざまな図面を加工してきたプロの本音です。
仕上げ工程で「キズ」はつきやすい
まず、キズについて。榊原社長によると、キズの多くは削っている最中ではなく、仕上げ工程で付くことが多いそうです。
「加工の仕上げとしてバリ取りをするとき、リューターでバリを取ってからヤスリや砥石で手仕上げをすることがあります。この仕上げ跡を『キズ』と指摘されることもあります。また、工具が余分なところまで当たってしまって、キズをつけてしまうこともあります」(榊原社長)
(*編集注 リューター:先端に小さな砥石やビットを付けて高速回転させる手持ちの電動工具。バリ取りや細かい仕上げに使う)
ほかには、ドリルの加工跡や、設定を間違えたミスの補修跡なども、キズとされるケースがあります。
少量・単品で短納期のご依頼の場合は「部品の機能を伺って、『機能に問題がなければこのままでいいですか』と確認することもある」ということでした。
「打痕」は、ぶつける・落とす・噛み込む
一方の打痕は、へこみです。
「落としてしまったとか、ぶつけてしまったとか。あとは、部品を機械に固定するときに切りくずやゴミを噛み込んで、その形にへこんでしまうケースもあります」(榊原社長)
実際、最近返品になった案件では、顕微鏡検査で打痕が見つかり、調べると、まさにこの噛み込みが原因であることがわかりました。
もうひとつ、見落とされやすいのが梱包不備による輸送時のダメージです。
「梱包の固定が甘くて輸送時に動いてしまって、製品同士がぶつかってへこんでいた、ということもありました。重いものはとくに注意がいりますが、基本的に梱包費は見積に入っていないので、そんなにコストもかけられません。『こうすれば大丈夫』という方法もないので難しいところです」(榊原社長)
ただ、できる予防策もある、とも話します。
「現状では梱包は発送を担当する人の感覚に頼っています。でも、例えば1kg以上のものは梱包を二重にする、段ボールで巻いて固定するなど、会社としてルールを決める必要があると思っています」(榊原社長)
「爪に引っかかる程度」は基準になりますか?
キズや打痕の基準について、実際の依頼ではどのように伝えられているのでしょうか。
現場でよく使われるのが「爪に引っかかる程度はNG」という表現です。ただ、これ自体が曖昧だと榊原社長はいいます。
「爪に引っかかると言われても、たとえばシャープペンシルの芯をキュッと当てて動かせば、それだって引っかかりますよね。どこからが引っかかるのか、会社や人によって全然基準が違います」(榊原社長)
長年取引のある会社であれば、取引実績から「ここまではOK/ここからはNG」というのがわかってきます。一方、スポットのご依頼の場合「キズなし」の程度がわからないので困るのだそうです。
「図面に何も書いていないので、普段どおり加工してバリ取りをして納品したところ、『顕微鏡検査でキズが見つかった』と言われて返品されることもあります……」(榊原社長)
見積の時点で「顕微鏡検査をする」と伝えてもらえれば、必要な対策を含めて見積ができます。ただ、価格やスピードを重視する案件では、納品後に求められても対応が難しいこともあります。
品質基準はメールではなく、図面に書いて知らせてほしい
では、どう伝えれば行き違いを防げるのでしょうか。榊原社長の答えははっきりしていました。
「図面にはっきり書いてください、というお願いをしています」(榊原社長)
実は、打痕で返品になった先ほどの案件でも、最初のメールには「キズ・打痕厳禁の商品です」と書かれていたそうです。ただ、そのあと何往復もやりとりをするうちに、その一文は履歴の下の方に流れていき、受注になった頃には見えない場所に移動していました。
「メールに書いてある条件は、受注担当者が図面を印刷して現場に回した時点で現場には届かなくなります。加工者が手元で見るのは図面ですから、図面に書いてあればそのまま加工現場まで届きます」(榊原社長)
そして、品質基準が見積の段階でわかれば、工程設計・検討に反映することもできます。
「『受け入れ検査で顕微鏡検査をします』と図面に書いてあれば、それに見合った作業内容でお見積りして、受注してからもそのとおりに加工します。ただ、『図面どおりに』と言われた案件で、図面にないことを後から求められることもあって。難しいところですね」(榊原社長)
まとめ:キズ・打痕の基準は、図面と用途で伝わります
「キズNG」の一言ではなく、どのレベルまでを不可とするのか、その部品が何に使われるのかまで共有できると、加工側は工具も加工条件も検査も、それに合わせて組み立てられます。
その基準を書く場所は、メールや電話ではなく図面です。図面に書いてあれば現場まで確実に届き、行き違いによるムダを減らせます。
榊原工機は、旋盤加工・マシニング加工・5軸加工・ワイヤーカットを得意とする愛知県春日井市の金属加工メーカーです。直径φ200mm以下の手のひらサイズの部品を中心に、1個からの単品加工・試作品・小ロット品に対応しています。特急のご依頼なら、最短翌日発送も可能です。
図面をお送りいただく際に、外観の基準やその部品の用途もあわせてお知らせください。名古屋エリアで金属部品の加工先をお探しの方は、お気軽にお問い合わせください。
(インタビュー・構成=ものづくりライター 新開潤子 https://office-kiitos.biz/)
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